はじめに
日本など先進国の多くでは、食生活の変化や肥満問題に関連した脂肪摂取敬遠の動き、また、他の飲料との競合などで、牛乳消費は依然として停滞傾向が続いている。
これに対して豪州では、消費拡大へのさまざまな取り組み、また、いわゆるカフェ文化の浸透などが功を奏し、牛乳の消費量は、着実な増加基調にある。
豪州の牛乳消費については、以前に「豪州の牛乳消費 ─消費量回復の背景には─(畜産の情報海外編2006年11月号)」でその消費促進に向けた具体的な取り組みや消費の状況などを取り上げている。今回は、2006年後半から始まった新たな消費拡大に向けた取り組み、また、最近の牛乳・乳製品消費の状況などについて、現地の情勢を織り混ぜながら概要を報告したい。
※本稿では、飲用乳(普通牛乳、部分脱脂乳、低脂肪乳、乳飲料などの製品)について、特に注記がない限りすべて「牛乳」と表記しています。
普通牛乳「Full Cream Milk」: 乳脂肪分4%未満を含む
部分脱脂乳「Reduced Fat Milk」: 乳脂肪分2%未満のもの
低脂肪乳「Low Fat Milk」: 乳脂肪分1%未満のもの
無脂肪乳「Skim Milk」: 乳脂肪分0.15%未満のもの
フレーバー牛乳「Flavoured Milk」: 乳脂肪分は普通牛乳、部分脱脂乳と同様。チョコレートやイチゴ果汁などの味を付けたもの。加糖率は4〜8%程度と一般的な清涼飲料水の11〜12%に比べて低い
UHT(LL)牛乳「UHT Milk」: 超高温殺菌により長期間の常温保存が可能。上記製品のすべてが対象
なお、部分脱脂乳や低脂肪乳、無脂肪乳の中には、プロテインやカルシウムなどを強化した製品も多い。
1 新たな消費拡大の取り組み ─主要ターゲットは子供を持つ母親─
豪州の乳製品の消費促進活動を担うデイリー・オーストラリア(DA)は2001年、牛乳など個別製品ごとに実施してきた消費促進活動を見直し、市場調査などの結果を踏まえて牛乳・乳製品を総合的にPRする取り組み「dairy
food of life(乳製品は人生の糧)」に方針を転換した。これは、DAの消費促進活動の資金が酪農家からの生乳課徴金を原資としていることから、乳製品全体を幅広くPRすることで全体の生乳需要をさらに拡大させ、生産者の利益につながると判断したためである。
さて、豪州の消費者が持つ乳製品に対する認識として、「幅広い世代に対し、長年にわたりその発育や成長を助長するもの」という前向きな捉え方が一般的である。また、日常の生活を通して、これら製品を“当然”のごとく十分に消費しているというイメージも強く持っている。しかし、専門機関による年齢別のカルシウム摂取目標量に照らし合わせると、実際には児童の58%、19歳以上の女性の63%が、その目標値に達していないことが明らかとなっている。
この理由として挙げられるのは、乳製品の消費を阻害するさまざまな要素(報道問題、最近の料理傾向、競合食品・飲料の増加、肥満問題など)が消費者の心理にマイナスに働いていることが一因である。特に、肥満問題に関しては、スーパーマーケットなどで販売される多くの食品のパッケージに「Fat
Free 〇〇%(脂肪分〇〇%排除)」の文字が示されるなど、最近では、脂肪分をどれだけ排除できるかが大きなセールスポイントとなっている。
このため、2006年後半から始まった新たな牛乳・乳製品の消費拡大に向けた取り組みでは、これらの要素を十分に加味しつつ、主要なターゲットとして1歳から17歳の子供を持つ母親を位置づけている。これは、2001年から実施してきた従来の取り組みとの方向性が一致していることに加え、この世代の子供を持つ母親は、家庭内での食料品の購入、消費に関して強力な決定権、重要な役割を担っているためである。また、同時に、これら世代の子供が通う学校関係者に対しても、乳製品の正しい知識、栄養源としての役割を伝えることをこの取り組みでは重要視している。
ターゲットは子供を持つ母親
牛乳・乳製品の消費を阻害するさまざまな要素
○報道の問題 ─消費者を不安状態に陥らせる要因─
当地ではマスコミの一部に、雑誌や報道番組などを通じて、消費者に驚きと衝撃を与える内容を報道することで、自分の存在感を示そうとする傾向がある。豪州では、乳製品が、特に長年の間消費者に信頼され続けている食品の一つであることから、その不安感をあおる話題を流すことは、消費者に対し、非常に強い印象を与えることになる。また、これは、これらの報道を流すマスコミにとっては、自らの存在価値を示す上で“非常に有効な手段”となっている。他方、情報があふれる現代社会において、消費者は、乳製品に対する情報の過多(ある情報では「数多くの栄養素を持つ完全食品」といい、別の情報では「脂肪の摂取過多」など)により、どのような情報を信じてよいのか混乱も生じている。
○最近の料理傾向 ─新たな食文化の広がり─
最近、豪州で流行している料理の傾向として、牛乳・乳製品を原材料に含まない料理(例えば、タイ料理や日本料理)が挙げられる。他国からの移民が多い豪州では、さまざまな食文化も同時に流入し、また、それを積極的に受け入れるというお国柄でもある。最近のダイエットブームの影響などにより、これら料理は脂肪をあまり使わないという「健康的」なイメージが持たれており、さらに、新たな味覚として消費者の間に広く浸透してきた。このため、家庭の食卓でも、従来、“万能の食材”として用いられてきた乳製品は、徐々にその地位が低下してきている。このような傾向を反映してか、スーパーなどで配布される料理レシピでは、乳製品を含まない料理が確実に増えてきている。
○代替食品・飲料の増加 ─市場にあふれる多種多様な栄養強化食品─
カルシウム分やビタミンなど各種栄養素を強化した果汁、豆乳飲料などが、スーパーマーケットの棚に数多く並べられている。これらは、牛乳とまさしく競合する商品であり、消費者にとって、牛乳のみが豊富なカルシウムを含むというイメージを薄めることにつながっている。
消費者は、カルシウムを摂取する手段の一つとして、一般的に乳製品への評価が高いが、一方では、乳製品は各種の栄養を含む「完全な食品」であるとの認識は決して高くはない。最近では、牛乳などの飲料分野のみならず、加工食品、スナック菓子などの分野においても、チーズやヨーグルトなど他の乳製品と競合する商品も多く、消費者の選択の幅が広がり競争が激しくなっている。
スーパーの棚を埋め尽くす、多種多様な果汁飲料
○肥満問題 ─脂肪分の問題、摂取抑制の動きも─
国内に広がる肥満問題の原因の一つとして、乳製品などに含まれる脂肪が悪者として取り上げられている。一方、研究者や医療関係者からは、牛乳・乳製品は豊富なカルシウムや栄養を含むものとして積極的な摂取を進めており、乳業各社は、低脂肪乳、無脂肪乳などの脂肪分を敬遠する消費者ニーズに対応した製品の開発、市場への供給を進めてきた。しかし、さまざまな報道、情報などを通じ、消費者の意識の中に「牛乳・乳製品=脂肪分が多いのでは?」というイメージも定着化している。このため、このイメージを消費者が持つ限り、牛乳・乳製品は消費者の選択から除外されてしまうことが多い。
同じように豪州の各州では、学校の売店、食堂で販売、提供する食品について、児童、生徒に広がる肥満の問題の観点から、商品を制限(脂肪分の排除)する動きが進んでおり、一部の牛乳・乳製品についても、その抑制対象となっている。
「dairy food」から「dairy
good」へ
2006年8月から開始した牛乳・乳製品の消費拡大に向けた新たな取り組み「dairy good for life」は、従来と同じく「牛乳・乳製品」を総合的にPRするキャンペーンである。
今回のキャンペーンでは、乳製品の特性として次の4つを掲げ、その内容とあわせて消費者に対し、乳製品の持つ栄養素のすばらしさを伝えるため、標記を、以前の「dairy
food」から新たに「dairy good」へと切り替えた。
新たなキャンペーン・マーク
乳製品の特性
・楽しさ:現在、そして未来にわたり、乳製品の持つ幸福感、楽しさを示し、同時に製品の前向きな効果を強調する
・本 物:信頼できる「本物」の食品としてのイメージ、また、自然な食品であることを繰り返しアピールする
・情熱的:エネルギーの反映(生命にとって乳製品が必須であるという感覚)、乳製品の「旨味」が、他の食品にとって対抗できないものであること
・育 成:乳製品は、母から子供に与えられる最初の食品として、独自の地位を維持しており、前向きのイメージを持つ人と人を結び付ける快適なもの
また、一日当たりのカルシウム摂取目標に到達するための重要な目安として、引き続き消費促進の取り組みの中で「3 serves a day」を活用している。
○「dairy good for life」には、2つのイメージ
新たなキャンペーンを開始するに当たり、DAが事前に行った調査によると、消費者が牛乳・乳製品の消費を促される要因として、(1)栄養(42%)、(2)喜び、楽しみ(23%)、(3)使いやすさ(19%)、(4)誠実・信頼(14%)、(5)価値(3%)のイメージを挙げている。この調査結果を参考に「dairy
good for life」では、消費者に対し、乳製品の持つ栄養面とともに“楽しさ”を表現するため、次の2つの意味を込めている。
・人々の生命を支える乳製品:
乳製品が持つさまざまな栄養素は、人々が日々、必要としているものを十分に含んでいる
・赤ちゃんからお年寄りまで:
乳製品は人の一生を通じ、有意義で楽しいものである
また、この「dairy good」の標語について、他のキャンペーンの中でも積極的に活用されている。例えば、「dairy good for
hair(乳製品は髪に良い)」、「dairy good for skin(乳製品は肌に良い)」などである。
○キャッチフレーズによるキャンペーン
DAでは、この「dairy good for life」について、150万豪ドル(1億5,600万円:1豪ドル=104円)を費やしたテレビコマーシャルの投入など、大掛かりな取り組みを数々実施し、消費者への普及、浸透を図ってきた。その主なものとしては、
・主要都市、カギとなる地方都市でのテレビコマーシャルの放映
・女性向け雑誌への広告掲載
・シドニー、メルボルンでの野外広告、バス、路面電車への広告掲載
・全国主要都市の鉄道駅での乳業各社による製品提供イベント
・消費者がわかりやすくなるようなホームページ内容の見直しなどを実施してきている。
この中で、テレビコマーシャルを例に取り上げると、「dairy good for life」に込められた意味合いのとおり、人々が成長する過程で得られる楽しさとともに、乳製品は常に身近なものであることをアピールしている。また、このコマーシャルの特徴としては、「牛乳を飲みましょう」、「牛乳・乳製品は体に良い」など、消費を直接訴える表現を使ってはいない。これは、栄養面を通して伝えることは、消費者に対して固定概念を抱かせることにつながるとしたためで、新たな消費を生み出すためには、牛乳・乳製品の持つ楽しさ、すばらしさを伝えたいという意図があった。
テレビコマーシャルより
赤い色は情熱的、積極性というコンセプトの下、牛乳の持つ前向きな力を消費者に伝えるため、主人公の赤い髪の女性が、赤ちゃんから幼児期、青春期、出会い、結婚、そして出産へと進む過程の中で、常に乳製品が身近な存在であるという構図が描かれている。
○普通牛乳の脂肪は、わずか3.8%
「普通牛乳の脂肪分は、わずか3.8%だけ」。これは、「dairy good for life」の一環として女性向け雑誌に掲載されている広告の一つである。脂肪分の敬遠が牛乳消費の拡大を阻むとされる中、牛乳の脂肪分は、想像するよりごくわずかでしかなく、しかも10種類もの栄養素を含むすばらしい食品であることを伝えている。
一般的に、多くの女性は、牛乳には多量の脂肪分が含まれると考えがちであるが、他の食料品と比べてみても、実際、それほど多くなく(部分脱脂乳や低脂肪乳ではさらに減少)、その認識を変え、消費の拡大につなることを狙ったものである。
Take another look at milk
ミルクの別の姿を見てください
「World School Milk Day」─学校現場を対象とした消費拡大対策─
国連食糧農業機関(FAO)の提唱により2000年から始まった「World School Milk Day」(世界中の学校で牛乳を楽しむことを目的に、毎年9月末に世界30カ国以上で行われている催し)の一環として小学生を対象に学校現場で行っているキャンペーンである。
2007年は、『Make Mine Milk!(私の牛乳を作る)』を標語に、牛乳が最高の食品の一つであることを示すため、文章、写真などを用いて、牛乳のすばらしさを表した作品を募集した。
2007年のキャンペーンポスター
優秀な作品には学校、生徒に対して商品を提供するなど、学校教育の現場を通して牛乳・乳製品に対する関心を広く持たせることに狙いをおいている。
このキャンペーンは同時に、学校関係者に対しても、乳製品の正しい知識を理解してもらうことも目的の一つにある。
これは、ここ数年、児童・生徒の肥満問題などから、一部の学校の食堂や売店(豪州の小学校では一般的に給食制度がないため、生徒はお弁当を持参、または、学校の食堂や売店で昼食や飲料を購入するケースが多い)で販売されるものから脂肪分を排除する動きが進んでいる。この流れから、一部乳製品については販売が中止されるなど乳製品が肥満の“原因”扱いとされる事態が増えてきている。このため、キャンペーンのポスターなどを、直接、売店、食堂に展示することで、学校関係者(特に売店、食堂など実際の販売に携わる者)に対して乳製品の栄養素など正しい知識を知らしめ、正しい理解を広めようとしている。
学校でのメニュー指針(NSW州)
(赤が排除、黄は選択の上、緑は安心)
「Australian Grand Dairy Awards」─国内最高の牛乳・乳製品コンテスト─
牛乳・乳製品の品質向上、また、これら製品に対する消費者の関心を高めるため、国内各地で製造される牛乳・乳製品を対象に、毎年、優秀と認められた製品を表彰するもの。各地域の農業祭などで最高の成績を収めた製品のみを対象に争われ、18のカテゴリー別に審査が行われる。
2007年は、昨年に続き牛乳(今年はクイーンズランド州産)が最優秀賞の一つ(もう一つはタスマニア州産のチーズ)に輝いている。消費者にとっては、ここで審査され、優秀と認められた製品が「最高の中の最高」と認識され、品質、味わいが確かなものとして購入の際の手助けとなっている。
2007年の最優秀賞
「National Healthy Bones Week」─骨粗しょう症対策キャンペーン─
骨粗しょう症対策と連動した牛乳など乳製品消費の促進を目的としたキャンペーンで、医師や科学者などで構成される骨粗しょう症対策団体(Osteoporosis
Australia)との共催により毎年8月に実施し、2007年で13回目となる。
キャンペーンの主な内容は、牛乳など乳製品の摂取が骨祖しょう症の防止につながるという科学的見地に立ったPR活動を中心としており、「3
serves a day(1日3回、または3品の乳製品を)」のキャンペーンと連動して、幼児期、青年期、成人期のそれぞれ男女別に、骨粗しょう症防止に必要なカルシウム摂取量を定め、それに見合った牛乳など乳製品の必要摂取量を示している。今年は、児童・生徒の58%がカルシウム不足と報告される中で、「World
School Milk Day」のキャンペーンと連携し、「What’s for lunch(昼食に何を)」の標語の下、児童・生徒の骨格を形成するための学校給食(家庭でのお弁当)の重要性を取り上げ、骨格形成のために必要なカルシウムの摂取量について保護者や学校関係者に伝えている。
また、それぞれの学校の売店・食堂が、いかにして児童・生徒の骨格を形成させているかを競うキャンペーンも同時に行われ、優秀者には学校活動のための商品、賞金などが授与される。
なお、このキャンペーンについては、連邦政府の機関である全国保険医療研究協議会(National Health and Medical
Research Council:NHMRC)が2005年5月、一日の食事の中で国民一人当たり摂取すべきカルシウムの摂取目標について、新たな指針を9歳以上の国民の摂取量を大幅に増加させたことで、その活動は活発さを増している。
学校の売店を通じて良い骨を
─乳価の上昇は乳製品小売価格に波及、DAは消費への影響少ないとの見方─
2007/08年度(7〜6月)の乳価は、かつてないといわれる高水準でのスタートとなった。これは、高値を続ける乳製品国際相場や昨年度の干ばつによる乳牛飼養頭数減少の影響を受けて、生乳生産の減少が予想される中で一定量の生乳を確保したい乳業各社の集乳競争を反映したものである。この結果、国内の牛乳・乳製品の小売価格も、このような乳価上昇が波及し、一部製品については値上げが行われるなど消費への影響が懸念されている。
DAで国内の牛乳・乳製品消費促進活動などを統括するリチャード・ラング氏は、この牛乳・乳製品小売価格の上昇について、消費への影響はそれほど大きくないとの見方を示した。この要因として同氏は、食料品の価格は全般的に上昇基調にあり、特に、鶏卵などの価格が大きく上昇する中で、牛乳・乳製品の値上げ幅はそれほど大きくないとし、消費への影響は最低限にとどまるとみている。また、同氏は、最近の食に対する消費者の関心が、何の添加物も加えない自然食品である乳製品に向かっており、ある程度の価格帯であれば、消費者は安心、安全な食品を選ぶとしている。
DAの牛乳・乳製品の消費拡大に対する予算規模は、2001年の酪農乳業制度改革を頂点に、年々、規模縮小傾向にあるが、その中で、消費拡大のカギとなる層に対象を絞ってきたことが消費回復の大きな手助けになったとしている。2006年後半から開始した新たな消費拡大への取り組みは、牛乳・乳製品に対する消費者の固定概念を払拭し、カルシウム面のみならず、牛乳・乳製品の“楽しさ”を伝えることでさらなる消費拡大につなげたいとしている。 牛乳、チーズなどの主要食料品消費者物価指数の推移
2 乳製品消費の状況 ─最近の動向から─
2006/07年度に豪州国内で販売された牛乳の総数は、合計で197万キロリットルに達した。これは、前年度と比較して4.5%の増加となり、他の主要先進国で牛乳消費が停滞する中で際立った値となった。この背景には、前述の消費拡大への取り組みが大きく功を奏しているが、消費者の牛乳に対する認識の変化、また、乳業各社の取り組みも忘れてはならない。
先のレポートで述べたとおり、豪州の消費者が牛乳に対して抱く一般的なイメージは、従来の伝統的な古臭い飲み物から変化して、“前向きな飲み物”となっている。DAが以前に実施した調査によれば、消費者が牛乳に対して抱くイメージとして、丈夫な骨や歯を作る(92%)、豊富なカルシウム(88%)、子供に良い(84%)、新鮮(84%)、ビタミンやミネラルを含む(81%)など、いずれも身体や健康とって最適という結果が打ち出されている。また、最近の調査では、消費者は牛乳を非常に身近なものとしてとらえているなど、牛乳・乳製品が生活の一部となっている。
人口の増加、消費拡大に向けた取り組みの実施で、乳製品市場は拡大
豪州国内の乳製品市場は、00/01年度から05/06年度の5年の間に1リットルパックの牛乳換算でみると7億本分(70万4千キロリットル)を超える拡大となった。この間の人口増加率は約1.2%、約129万人が増加したが、これによる乳製品市場拡大への貢献分は、合計で32万キロリットルとみられている。一方、消費拡大に向けた取り組みの実施、また、乳業各社による新製品の開発、市場への投入などにより乳製品市場は年平均1.3%で拡大し、これによる貢献分は、合計で38万2千キロリットルとみられている。
乳製品市場拡大の要因(00/01年度〜05/06年度増加分)
消費の中心は普通牛乳も、伸びる部分脱脂乳とUHT(LL)牛乳
2006/07年度の牛乳販売数量19億7千リットルのうち、普通牛乳の占める割合は全体の51%と、前年度に比べて2%の増加となった。この年度の注目点としては、販売数量自体は普通牛乳に比べて少ないものの、部分脱脂乳、UHT(超高温殺菌:LL)牛乳の販売増加が挙げられる。
部分脱脂乳の販売が増加した要因としては、肥満問題などから普通牛乳を飲みたいながらも脂肪分を敬遠する消費者とって、味覚的に普通牛乳に近いものの購入を増やした結果といえる。
品目別牛乳販売数量(数字は伸び率)
一方、UHT(LL)牛乳は、大手乳業会社による新製品の開発、市場への投入、また、普通牛乳に比べて価格の安い点が効果的となった。従来、UHT(LL)牛乳は超高温で殺菌することにより、普通牛乳などに比べて独特の臭いを持つことなどから消費はそれほど多くなかったが、新技術の開発により臭いや味の変化が軽減され、普通牛乳の味により近くなったことがプラスに働いている。屋外での持ち運びに便利なサイズも多く、公園でのバーベキューなどアウトドアライフを好む豪州人にとって、冷蔵での持ち運びを心配しなくてもよいUHT(LL)製品は、非常にメリットのある商品となっている。
UHT(LL)牛乳の数々
一人当たりのバター消費量が増加、背景にはトランス型脂肪酸の問題
肥満問題や、し好の変化により先進国での脂肪離れが進む中で、豪州ではここ数年、一人当たりのバター消費が増加傾向にある。この背景には、最近、新聞やニュースをにぎわせているトランス脂肪酸による健康への問題が大きく影響しているようだ。トランス型脂肪酸は、そもそも植物油脂を原料とするマーガリンなどに多く含まれ、バランスを欠いてこれを多く摂取した場合、一般的に心筋梗塞などのリスクが高まるといわれている。また、米国では、飲食店での使用を規制する動きも強まっており、肥満が社会的問題となり、かつ、健康問題に人一倍関心の高い豪州でも、これを決して対岸の火事とは見ていない。このため、体に悪いとされるものを摂取するよりは、たとえ脂肪分が含まれても体にとって安心感のある製品を摂取するほうが、結果的に病気の発生リスクが少ないと考える消費者が増えてきた。消費者のイメージとしては、「バター(乳製品)=自然」という考えに結びついている。
乳業各社もこの好機を逃がさぬよう、パンに塗りやすいソフトタイプ製品、また、植物油とブレンドした動物性脂肪の比較的少ない製品を投入するなどしており、これらの積極的な販売活動も消費増への相乗効果を生んでいる。
宿泊先に必ず牛乳が
当地でホテルに宿泊した際、どの部屋にも、必ず冷蔵庫の中やキッチンに“無料”の牛乳が用意されている。また、モーテルなどを利用した際には、チェックインの時に「牛乳はいくつ必要?」と手渡されることも珍しくない。これは、一般の家庭はもとより、職場の冷蔵庫の中にも常に牛乳が常備されていることが当たり前の環境下で、宿泊先でもそれが当然のこととして実施されているにすぎない。
一般的にホテルなどの宿泊先に常備されている牛乳は、主に常温保存が可能な200〜250CCのUHT(LL)製品を中心としており、コーヒー、紅茶などに入れるミルクとしても利用されている。
国内の1万を超えるホテル、モーテル(NRMA:国内道路及び運転者協会調べ)では、それぞれの部屋に牛乳が常に用意され、宿泊者の利用を待っている。
いつも身近に
─海の上まで広がるカフェ文化―
土曜や日曜の昼下がり、シドニー湾内に浮かぶ数多くのヨット、ボートを眺めていると、少し変わったボートが船と船との間を行き来しているのに気づくかもしれない。目を凝らしてそのボートを見ると、船体には「COFFEE」と大きく書かれたマーク。そう、これは、ヨットやボートで楽しむ人々を相手にした、海に浮かぶカフェだ。
シドニーの街中を見渡せば、すでに飽和状態といえるほどのカフェが連なるが、不思議なことに、いずれもそれなりの人でにぎわっている。全般的にイギリス文化の影響が強い豪州であるが、飲み物に限っては、紅茶よりもむしろコーヒーが一般的。これは、第一次大戦後にイタリアから入植した移民の影響を強く受けたものとされる。カフェで提供されるコーヒーは、通常、牛乳をたっぷり用いたものが中心で、どのカフェでも毎日、多量の牛乳が消費されている。ある調査によれば、家庭での消費を含め豪州国内で年間700億杯のコーヒーが消費されているといわれ、コーヒーは人々にとって、非常に身近な存在といえる。
このような土地柄なのか、それとも、団らんやくつろぎにカフェは欠かせない存在なのか、海の上でもそれなりのコーヒー需要があるようだ。あちこちの船から注文を示す手が振られるたびに、海に浮かぶカフェは大急ぎで波間を進んでいく。海の上で味わうカフェラテ、フラットホワイトは、はたしてどのような味なのだろうか。
牛乳が、ストロー一本で変化
牛乳をそのまま飲むのが嫌いな子供達の間で最近人気なのが、イチゴ味、チョコレート味などに変化させるストロー製品。これは、あらかじめストローの内部に顆粒状になったチョコレート味などの材料が仕込まれており、その中を牛乳が通ることによって普通の牛乳がイチゴ味やチョコレート味に変化するという仕組みである。
最近の牛乳消費をけん引するものの一つとして、チョコレートなどの味付けを施したフレーバー牛乳があるが、これら製品は一般的に相当量の糖分を含んでいることから、保護者の中には、子供の肥満を懸念してこれらの製品を与えない家庭も多い。
一方で、児童、生徒のカルシウム不足が指摘されており、子供に普通の牛乳を与えたい保護者にとってこのような製品は、フレーバー牛乳に比べて糖分が少なく、また、低脂肪乳や無脂肪乳など自由に選べることから、安心感があるようだ。
この商品の面白い特徴としては、あえて牛乳を吸い込みにくくさせていることにある。これは、人間が口の中にものを吸い込む際、もっとも美味しいと感じるスピードは、母乳を吸うスピードとされていることから、これに対応したものとなっている(大手ファストフードチェーンで販売されているシェイクと同様)。子供にとって(大人でもかまわないが)、この製品を使って牛乳を飲むことは、言い換えれば母親の母乳を飲むという潜在的な意識(楽しさ・安心感)に結びつくのかもしれない。
数種類の味が楽しめる
食品産業での利用が増加するチーズ、ヨーグルト
牛乳生産量の約半分が、カフェなどの外食産業を通して消費者に提供されているのに対して、他の乳製品であるチーズ、ヨーグルトは、どのように消費者へと提供されているのか。
まず、はじめにチーズを見ると、05/06年度の国内販売数量24万トンのうち、スーパーマーケットなどを通じて販売されたものが全体の55%となった。これを豪州の年間一人当たりのチーズ消費量11.8キログラム(2005/06年度)に照らし合わせると、6.5キロ分に相当する。次いで外食産業(生産量全体の35%、年間一人当たり消費量では4.2キログラム分相当)、食品産業(同10%、同1.1キログラム分相当)となる。
一方、ヨーグルトは、2005/06年度の国内販売数量13万8千トンのうち、スーパーマーケットなどを通じて消費者に販売されたものは全体の87%と過半を占め、ヨーグルトの年間一人当たり消費量6.7キログラム(同)のうち、これは5.8キログラム分に相当する。次いで食品産業(生産量全体の13%、年間一人当たり消費量では0.8キログラム分に相当)、外食産業(同0.5%、同0.1キログラムに相当)となる。
2005/06年度のチーズ、ヨーグルトそれぞれの販売の伸び率を見ると、チーズが前年比5.2%増、ヨーグルトも同3.7%増となった。この増加に大きく貢献しているのが、食品産業での利用の拡大である。この部門では、チーズが前年度比47.5%増、ヨーグルトが同84.3%増と、スナック菓子などでの利用の増加を反映し、いずれも大きな伸びをみせた。消費者にとって、チーズ、ヨーグルトはいずれも健康的なイメージを持つことから、ここ数年、これら乳製品を原料としたスナック菓子や各種健康食品などの開発、市場への投入を増やしており、一方で消費者も、これを新しい食品として受け入れ、この市場は急速に拡大している。
菓子類を中心にチーズ、ヨーグルト利用は増加
おわりに
新たな消費拡大への取り組み開始から一年が経過し、一定の成果が見込まれる中で、豪州の牛乳・乳製品消費は引き続き拡大へと向っている。今後、牛乳・乳製品消費が継続して拡大していくためには、引き続き若年層、そして、女性の取り込みがより一層重要となってくるが、それと同じく、新たな消費者の開拓も課題となってくる。
人口2千万人強を抱える豪州では、中国や韓国などアジア諸国からの移民がその1割以上を占めるとされ、年々、その割合は高くなっている。また、アフリカや中東などからの移民を加えると、その数は相当数に膨らむ。今後、文化や食生活の異なるこれらの層に対して、牛乳・乳製品の消費をどのようにして働きかけるのかが非常に大切となってくる。また同時に、消費者の食生活スタイルの変化や、肥満問題への関心がより高まる中で、どのように対応していくのか、牛乳・乳製品消費を取り巻く環境への関心は尽きない。
資料:DAホームページ(www.dairyaust ralia.com.au)
DA「Australian Dairy Industry In Focus」
ABS「Australian Economic Indicators」、「Consumer Price Index」
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