調査・報告

中国の豚肉備蓄制度

国際情報審査役代理 谷口 清

  はじめに

 中国では、単に「肉」と言えば、豚肉を指すのが一般的とされることからもわかるように、豚肉は生活必需品として、中国の人々の食生活に定着している。一方で、最近は、草や農作物の茎葉などでも飼養できる牛、綿羊およびヤギ、また、大規模飼育が可能で飼料効率がよいとされる家きんの飼養比率が高まりつつあり、所得向上や食生活の多様化とも相まって、食肉総生産量に占める豚肉の比率も、年々低下する傾向にある。

中国における畜種別食肉生産概況

中国における年間一人当たりの畜種別食肉消費量の推移

 しかし、比率が低下しているとはいえ、豚肉は現在でも中国の食肉総生産量の6割強を占め、一人当たりの年間消費量も40キログラム前後と、牛肉の約7倍、鶏肉の約5倍となっており、中国の食卓において豚肉が重要な位置を占めていることに変わりはない。

 実際、2004年の豚肉価格高騰の際には、商務部が中央備蓄肉管理弁法(弁法:国務院各部・国家委員会などが制定する実施規則。一般的には、弁法は規則、取り扱い、方法などを意味する言葉)を緊急に制定したのをはじめ、国務院の関係各部署が豚肉の価格制御に向けた各種政策の策定と実施に追われた。また、最近では、2007年4月下旬から5月にかけて豚肉価格が急騰した際、温家宝国務院総理が自ら豚肉の価格安定を指示し、国務院弁公庁や商務部、財政部などが、豚肉の市場安定化対策に関する通達を相次いで発し、対策に追われるなど、中国における豚肉の位置付けと関心の高さをうかがい知ることができる。

 『漢書』(後漢の章帝の時代に編さんされた前漢の歴史書)巻四十三の食其(れきいき)伝に、「王者以民為天 而民以食為天」(王は民をもって天となし、民は食をもって天となす)とあるように、国民が日々口にする食料の確保は、政府の至上命題とされる。中国では、生活必需品の一つとされる豚肉の価格高騰の都度、しばしば備蓄肉放出のことが話題となるが、わが国では、その内容についてあまりよく知られていない。中国の国家備蓄制度は、その性格上、公にされていない部分が多いが、本稿では、豚肉備蓄制度の大枠について紹介する。

 なお、2004年の豚肉価格高騰について、中国の業界関係者は、その原因として、(1)2000〜03年に食糧生産が低迷したことに加え、三農政策(農業振興、農村の経済成長、農民の増収と負担減)によって食糧価格が高騰し、飼料コストが上昇したこと、(2)鳥インフルエンザの影響により、鶏肉から豚肉への需要シフトが見られたこと、(3)トラックの過剰積載に対する取り締まり強化により、輸送コストが上昇したこと、(4)感染症予防のためのコストが増加したこと−を挙げている。

注 2007年の豚肉価格高騰については、本誌2007年7、8月号中国トピックスおよび同9月号特別レポートを参照されたい。


1 国家備蓄制度の概略

 中国の国家備蓄制度は、中華人民共和国の建国(1949年)から間もない1953年、国防上の必要性から創設されたものである。その主な目的については、国防と経済マクロコントロールの2点とされているものの、元来は物不足への対応策として発想されたものといわれている。その後、同制度は、時代の変化に応じ、その位置付けについても変革を遂げるとともに、逐次、補強改正が図られて現在に至っている。現在、中国で実施されている同制度の備蓄対象は、以下の10種類とされる。

 (1) 物 資
  銅、アルミニウム、ニッケル、鉛、亜鉛、マンガン、水銀、クロム、錫(すず)、バナジウム、白金、ダイヤモンド、天然ゴム、パルプおよび石油製品(ガソリン、航空機燃料)
  (2) 食 糧
  中国では、穀物、豆類(油糧作物である落花生を除く)およびイモ類を「糧食」(=食糧)と称している。
 (3) 綿
 (4) 砂 糖
 (5) 原 油
 (6) 薬 品
 (7) 茶
 (8) 食 肉
 (9) 化学肥料
 (10) 救援物資

 ただし、元来が国防上の必要性から構築された制度であるためか、備蓄量や備蓄関連予算、備蓄計画そのほか関連統計・文書をはじめ、国家備蓄制度の具体的部分の多くについては、国家機密法によって非公開とされている。


2 豚肉の国家備蓄の概略

 中国で食肉の国家備蓄制度が創設されたのは、1979年のことである。中国における豚肉の国家備蓄は、(1)政府が認定した家畜飼養基地における生体豚の備蓄と、(2)政府が認定した保管倉庫における冷凍豚肉の備蓄の双方を包括した概念のものである。中国農業科学院農業経済研究所の関係者によると、豚肉の国家備蓄の主流は家畜飼養基地における生体豚の備蓄であり、冷凍豚肉の備蓄はそれほど多くはないとされる。

 豚肉の国家備蓄は、その備蓄対象が生体豚であるか豚肉であるかの別にかかわらず、基本的には食料安全保障の意味合いを持つものであるが、不足時の需要を満たして豚肉価格の乱高下を防止し、価格安定のためにも用いられる。管理主体が中央政府か地方政府かの違いによって、中央備蓄肉と地方備蓄肉とに大別されるが、中央備蓄肉については、「中央備蓄肉管理弁法」などの関係規定に基づき、商務部が管理責任を負っている。これは、中国では、豚など家畜・家きんの生産部分については農業部が、と畜・と鳥以降の流通部分については商務部が所管するとされているためである。

 また、中央備蓄肉の入庫・貯蔵および出庫などの実務管理は、商務部の委託を受けた華商儲備商品管理中心(注:儲備=備蓄)が実施している。そのほか、各省・自治区・直轄市(北京市、上海市、天津市および重慶市)および計画単列市の商務主管部門は、備蓄請負業者や保管倉庫、家畜飼養基地、加工業者などを選定、推薦することにより、商務部に対する支援・協力を行っている。

 なお、2007年8月2日発表の「豚の生産発展促進と安定的な市場供給に関する国務院の意見」(2007年7月30日付け国発〔2007〕22号)によると、中央備蓄肉は主として突発事項および災害時の被災者救済などの場合に、地方備蓄肉は局所的な応急需要や祝日の市場需要などを満足させる場合に用いるとされているが、地方備蓄肉については、各級地方政府の商務主管部門が所管し、その管理についても中央備蓄肉に準ずるものと思われることから、以下、中央備蓄肉を中心に記述を進めていくこととする。

 

注1 華商儲備商品管理中心
  国務院国家資産監督管理委員会の管理下にある中国華孚貿易発展集団公司の傘下機関。1998年設立。国家備蓄肉および国家備蓄糖の管理実施主体で、独立した法人格を有するが、財務に関しては中央財政に従属する。

注2 中華人民共和国の行政区画
  上級行政区画から順に、(1)省級行政区(省、自治区、直轄市)および特別行政区(香港、マカオ)、(2)地級行政区(副省級市、地級市、省都、自治州、盟など)、(3)県級行政区(県、県級市、市轄区、自治県、旗、自治旗など)、(4)郷級行政区(郷、鎮、県轄区、街道、民族郷、蘇木(ソム)、民族蘇木など)とされ、それ以下は順次、村級自治組織(自然村、行政村、居民区、居住区、小区、社区など)、小組などとされている。

注3 計画単列市
  省級政府の直近下級行政区分である地級市のうち、哈爾濱(ハルピン)や長春、青島、寧波(ニンポー)、廈門(アモイ)、杭州、南京など特に有力な都市として中央政府が認定したもの。省級の経済権限を持ち、省などとは別に、単独で全国計画に直接編入されているものの、行政区画上は省級政府の指導下にあるため、省級政府の意向に左右される部分が多いとされる。

  1 豚肉の備蓄

 「国家備蓄肉操作管理弁法」により、備蓄用豚肉はと畜解体後、小分けに包装の上、類別して25キログラム入りの箱に梱包し、マイナス18℃〜20℃の環境で保管される。

 類別については、1号肉(精痩肉=赤身肉)、2号肉(前腿肉=前肢肉)、3号肉(大排骨=スペアリブ)、4号肉(後腿肉=後肢肉)および5号肉(梅条肉=ロース)とされ、このほか、ひづめや小排骨、心臓、肝臓なども保管される。

注1 精肉、痩肉は同義語であり、ともに赤身肉を指す。
注2 排骨は肋骨付きの肉をいい、一般にはスペアリブを指す。大排(骨)、小排(骨)、肋排などのような使い方をする。排は元来、肉の厚く大きな一片を表す言葉で、単にステーキ肉の意味もある。

 備蓄豚肉については、毎日、作業員が検査し、「国家備蓄肉入庫進度情況表」、「国家備蓄肉売上回収進度月報表」および「国家備蓄肉販売在庫進度表」に記録の上、毎月15日までに前月分の記録を商務部あてに提出することとされている。中国では、マイナス20℃における冷凍豚肉の賞味期限について、一般には6カ月とされているが、肉質の新鮮さを保証する意味もあり、冷凍備蓄豚肉については、原則として毎年3回転、4カ月前後を1備蓄周期として入れ替えが行われている。

  2 生体豚の備蓄

 備蓄肉基地になろうとする家畜飼養場は、所定の手続きに従って当局に申請の上、その認定を受けることが必要とされる。2007年5月25日付けで中国共産党の機関紙である人民日報に紹介された山東省菜蕪市(山東省中部に位置する地級市)にある得利斯集団菜蕪繁育公司の豚飼養基地の例では、申請から認定までには半年以上を要し、豚1頭当たり35.6元(約559円:1元=15.7円)の国家財政補助があるとされる(「参考」欄参照)。現在、同公司では約3千頭の豚が飼養され、1年3サイクルで、年間延べ9千頭が飼養されているという。

参考 中国農業部によると、2007年7月の生体豚1キログラム当たりの平均価格は13.1元(約206円)。中国の肥育豚の出荷体重は、地域や品種などによりかなりのばらつきがあるが、一般に80〜105キログラム程度とされることから、1頭当たりの平均価格は1,050〜1,378元(約1万6千〜2万2千円)程度と推察される。

 生体豚の国家備蓄制度における1備蓄周期、すなわち更新間隔については、2007年8月に新たに公布された「中央備蓄肉管理弁法」(2007年8月13日付け中華人民共和国商務部令・財政部令2007年第9号:同年9月15日施行)第30条および第31条において、原則として毎年3回転、4カ月前後を1備蓄周期としながら、肥育状況に応じ、適時に入れ替えることとされている。

 なお、中国には、在来種およびその改良種だけでも300を超える豚の品種があるともいわれ、外来種およびそれらとの交雑種などを加えると、膨大な品種の豚が存在する。従って、その出荷月齢もさまざまで、品種によりおおよそ4〜12カ月齢と多岐にわたる。そのうち、現在、中国で一般的に飼養されているとされる、在来種と外来種の交雑種の出荷月齢は、地域や規模などによって若干の幅はあると思われるが、おおむね4〜6カ月齢(庭先養豚では7〜8カ月齢)といわれている。


3 中央備蓄肉家畜備蓄基地の要件

 中国における豚肉の国家備蓄制度について、政府の認定した家畜飼養基地における生体豚の備蓄が主流であることは、前述したとおりである。中央備蓄肉家畜備蓄基地(以下「家畜備蓄基地」)の満たすべき要件については、商務部通知「中央備蓄肉家畜備蓄基地資質条件」(2004年9月1日施行)に規定されているが、そのすべてを掲載することは、紙面の制約もあるので、概要について簡単に述べることとする。

   1 基地管理に関する一般要件

(1)家畜備蓄基地の責任者が管理規程などを策定・実施し、必要に応じて随時、改正措置を講じていること。また、繁殖、飼養、防疫、薬品使用などに従事する部門および人員の職責や権限について明確に規定した文書があり、飼養規模に応じた数の獣医師および畜産技術者が配置されていること

(2)耳標装着など家畜の個体識別が実施され、個体の履歴文書が整備されて追跡管理を行うことができること

(3)家畜備蓄基地の平面配置図、生産工程フローチャート、獣医防疫管理規程、飼養管理規程が整備されていること

(4)直近3年以内に口蹄疫、豚コレラなどの重大な感染症および塩酸クレンブテロール、ジエチルスチルベストロール、フラゾリドン、クロラムフェニコール、催眠剤、興奮剤、ホルモン剤などの禁止薬物が使用されていないこと

(5)HACCPが実施されていること

  2 基地建設に関する要件

(1)場所について
 ア 所在地域の土地利用計画および動物防疫条件に合致し、交通の便がよく、水質が基準を満足していること。また、比較的高い場所に位置し、適度に乾燥して水はけがよく、有毒ガスそのほか汚染のない場所にあること
 イ 幹線道路や公共施設、住宅地、市街地および学校から1千メートル以上の距離があり、かつ病院、畜産物加工場、ごみ処理場および汚水処理場から2千メートル以上の距離があること。また、周囲が塀などの障壁で仕切られていること
 ウ 牛、綿羊およびヤギの家畜備蓄基地にあっては、放牧などの飼養条件が十分に考慮されたものであること

(2)飼養規模について
 ア 豚の家畜備蓄基地
  繁殖用雌豚の飼養頭数が600頭以上、繁殖向け後継雌豚が60頭以上であること。また、平年の飼養頭数(原文は「常年存欄量」とあるのみ。おそらく平年における年間累計飼養頭数と推察されるが、詳細は不明)が5,000頭以上、うち60キログラム以上の肥育豚が平年の飼養頭数の40%以上であること
 イ 牛の家畜備蓄基地
  平年の飼養頭数が1,500頭以上、うち400キログラム以上の肥育牛が平年の飼養頭数の40%以上であること
 ウ 綿羊およびヤギの家畜備蓄基地
  平年の飼養頭数が6,000頭以上、平年の販売向け飼養頭数が500頭以上で、うち15キログラム以上の肥育綿羊・ヤギが平年の飼養頭数の40%以上であること

(3)家畜備蓄基地内の配置および施設について
 ア 生産区、管理区および排せつ物・病死畜無害化処理区が区分されていること。また、人や家畜、物資の輸送が一方通行で行われ、清浄道と非清浄道とが厳格に区分され、交差による汚染が防止されていること
 イ 畜舎の配置が、家畜の飼養方式やオールイン・オールアウトに適合したものであること
 ウ 更衣室、消毒室、獣医師室、病畜隔離舎、導入家畜隔離舎および排せつ物・病死畜無害化処理施設が設置されていること
 エ 家畜備蓄基地の入口に、門と同じ幅で、入場するトラックよりも一周り半大きなコンクリート製の消毒池が設置されていること。また、管理区入口に手指の洗浄・消毒施設が、生産区入口に靴の履き替えのための設備や更衣室、手指の洗浄・消毒施設が、畜舎入口に消毒施設がそれぞれ設置されていること

  3 基地の防疫に関する要件

(1)場内の作業員が、毎年、定期健康診断を受け、健康証明の取得後に職務に就いていること。また、特別の事情がない限り、生産部門以外の作業員が生産区に立ち入ることが禁止され、飼養に携わる作業員が複数の飼養棟に出入りすることが禁止されていること

(2)場内および飼養されている家畜が定期的に清掃(または洗浄)・消毒され、その記録が保管されていること

(3)種畜については、生産許可証を有する非感染区の種畜場から導入されたもので、動物防疫監督機関が発行する動物産地検疫合格証、動物・動物産品輸送器具消毒証明、非感染区証明および種畜合格証が添付されたものであること

(4)場内に導入された種畜または家畜は、種豚および種綿羊・ヤギについては30日以上、種牛については45日以上、肥育牛および肥育綿羊・ヤギについては15日以上隔離し、獣医師による健康確認後、生産区に移動すること

(5)現地の実情に合わせた免疫プログラムと接種計画が制定され、それに即した免疫接種の実施と記録の保管がなされ、3カ月ごとに免疫モニタリングが行われていること。ワクチンについては、政府によって認可された信頼あるメーカーから購入されたものであること

(6)病畜の診断・処理、寄生虫制御、動物用医薬品の使用などが、国家標準に適合していること

  4 基地の飼養管理に関する要件

(1)飼養管理操作規程および飼料・牧草・飼料添加物の品質、使用などについて、国家標準に適合していること。また、混合飼料および完全混合飼料(total mixed rations,complete rations:TMR)について、添加物の名称および使用量を明らかにし、その記録が保存されていること

(2)備蓄家畜の出荷前に、所定の休薬期間が設定・実施され、その記録が保管されていること

(3)異常・異質な飼料や汚水、家畜・家きん副産物が給与されていないこと

  5 基地の信用に関する要件

(1)詐欺行為や違法経営、税の申告漏れや滞納、脱税などがなく、直近3年以内に違法行為や犯罪行為、行政処分などの記録がないこと

(2)財務状況が良好で、信頼できる担保の提供能力があり、資産負債率(負債÷資産×100)が70%以下であること

  6 そのほかの要件

(1)生産管理および資金調達の能力を有する組織部署があり、安定的な家畜販売ルートを有していること

(2)中央備蓄肉に関係する国家管理部門からの管理および現地検査に同意すること

(3)備蓄家畜ごとに所定の記録および関係資料が整備され、備蓄家畜の出荷後、当該家畜の記録が1年以上保存されていること


4 中央備蓄肉家畜備蓄請負団体の資格審査

 前章において、家畜備蓄基地たる飼養場の資格要件について概説した。これを受け、本章では、家畜備蓄基地とそれを所有する家畜備蓄請負企業の資格審査の手順などについて述べることとする。

 中央備蓄肉家畜備蓄請負企業(以下「備蓄企業」)および家畜備蓄基地(以下、備蓄企業および家畜備蓄基地を含め「備蓄請負団体」)の審査の詳細については、「商務部弁公庁による中央備蓄肉家畜備蓄請負団体の資格査定業務に係る通知」(2005年10月9日付け商運函〔2005〕63号)および「基地資格査定育成訓練学習指導材料」(2005年10月21日付け商務部市場運行司通知)などに規定されている。

 なお、備蓄請負団体には、有資格企業・家畜飼養場たり得ることについての継続的な管理が求められ、資格要件に合致しない状況が発見された場合には、備蓄請負団体としての資格が取り消されることとされている。

  1 備蓄請負団体の資格要件

(1)備蓄企業の資格要件
 物理的には、食肉企業として独立した法人格を有し、家畜備蓄基地の全資本または家畜備蓄基地を所有する関連企業の株式の5%以上を所有すること、また、地方の備蓄企業およびその家畜備蓄基地にあっては、必ず同一地区に所在することが要件とされる。

 このほか、社会的・商業的な信用度があること、家畜備蓄基地の管理能力を有する組織部署があり、安定的な家畜販売ルートを有していること、直近3年以内に違法行為および重大な食品事故などがないこと、備蓄に対し安全責任を負うこと、食肉市場および備蓄管理などに関する情報の報告業務を実施できることなどの要件が課されている。

(2)家畜備蓄基地の資格要件
 家畜備蓄基地とは、法人格を有しない単体の飼養場をいうが、その資格要件の概要については、「3 中央備蓄肉家畜備蓄基地の要件」を参照されたい。

  2 申請

 備蓄請負団体になろうとする企業および家畜飼養場は、所定の書類を添付の上、「中央備蓄肉家畜備蓄受託企業資格申告書」および「中央備蓄肉家畜備蓄基地資格申告書」(以下、両者を含め「申請書」)を当局あて提出しなければならない。

 これらの申請書については、地方の企業にあっては所在地の省級政府の商務主管部門に、中央政府の管理企業にあっては商務部に直接提出する。また、同一企業内に複数の家畜飼養場がある場合は、それぞれの飼養場ごとに家畜備蓄基地の資格認定申請が必要となる。

  3 審査

 審査は大きく二段階に分かれている。第一次審査は省級商務主管部門が実施し、書類審査および現地調査による。中央政府の管理企業・飼養場の第一次審査については、当該家畜飼養場の地区を管轄する省級商務主管部門が実施する。第二次審査は、第一次審査に合格した企業および家畜飼養場について商務部が実施し、主として書類審査によるが、必要に応じ現地審査が行われることもある。

 なお、審査結果が実際の状況と合致しない場合、当該家畜飼養場の所在する省級商務主管部門および審査班の関係者は、その責任を追及されることとされている。

5 中央備蓄豚肉の放出

 中央備蓄豚肉の放出については、それが生体豚であるか豚肉であるかの別にかかわらず、その権限は国務院に属し、商務部の責任において財政部と連携して実施する備蓄の通常更新を除き、その放出に際しては国務院の認可を必要とする。放出に当たり、商務部は、合理的な生体豚の補充および出荷の時期・頭数、豚肉の種類(部位など)およびその放出数量、また販売価格などについて財政部と協議の上で決定し、国務院に認可申請を行うこととされている。備蓄生体豚の放出方法についての詳しい記述は、残念ながら見つけることができなかったが、備蓄豚肉については、国有食品企業または豚・豚肉卸売市場を通じて放出されることとされている。中央備蓄豚肉の放出による収支差額が黒字の場合、当該差額相当分は特定資金として中央財政に納付された後、副食品リスク基金に繰り入れられ、逆に赤字の場合は、同基金をもって補てんされることとされている。

おわりに

 国連食糧農業機関(FAO)の統計(2004年)によると、世界に占める中国の豚飼養頭数の割合は50.1%、豚肉生産量の割合は47.9%に及び、中国は世界最大の養豚国と言うことができる。

 中国において古くから親しまれ、食肉総生産量の6割強を占める豚肉は、今なお政府によっても国民の生活必需品として位置付けられ、その価格動向は、国民生活に大きな影響を及ぼすものとなっている。このため、豚肉は国家備蓄制度の対象品目とされ、価格と供給の安定が図られているところであるが、中国の国家備蓄制度の具体的なことについては、国家機密法によって公にされていない部分が多い。

 今回、中国の中央政府および地方政府などから公表されている文書や現地の新聞、識者からの聴き取りなどにより、豚肉の備蓄制度の輪郭について知ることができた。しかし、ここで紹介した内容はあくまで概略であり、また、部分的に解釈や翻訳の誤りなどの可能性も否定できず、特に冷凍豚肉の備蓄については、保管倉庫の要件や手続きなどに関する詳しい資料を見つけることができなかったことなどから、今後、さらなる検証が必要であると考えている。

 地球上における養豚の始まりについては、遺跡などから発見される骨が、野生種のものか家畜種のものかの特定が困難であるため、その時期は明確にされてはいない。しかし、現在、遺物として発見されている豚(またはイノシシ)の骨のうち、最も古いものは、現在の中国南部から出土した紀元前8千年ころのものといわれている。
 中国では、少なくとも紀元前2千年ころの新石器時代、黄河流域に定住した古代中国人によって農耕が営まれた時期には、すでに養豚が行われていたとされる。また、16世紀の明代に大成された伝奇小説『西遊記』には、主要登場人物の一人として猪八戒(朱八戒、猪悟能)が登場するほか、十二支に動物を割り当てた十二生肖(じゅうにせいしょう)の最後が豚(日本ではイノシシが当てられているが、これは特殊な例であり、十二支の文化圏では、ほとんどの国で豚が当てられている)であることや、かつて中国では、自分の子供を「豚児」と謙そんしていたことなどからも、中国における人間と豚との近しい関係をうかがい知ることができよう。

(参考資料)
1)今泉清監修:獣医公衆衛生学.東京,学窓社,1987.3
2)尾形学・坂崎利一編:家畜微生物学(三訂版).東京,朝倉書店,1987.4
3)小栗克之、陳暁紅、平児慎太郎:中国における養豚業の動向分析−豚肉の生産、消費、貿易を中心として−.「岐阜大学地域科学部研究報告第13号」,岐阜,2003.7,pp7−16
4)笹痘エ雄・清水英之助:中国の畜産.東京,養賢堂,1985.10
5)獣医学大辞典編集委員会編:獣医学大事典.東京,チクサン出版,1995.2
6)白石和良:中国農業必携−ワイドな統計、正しい読み方−.東京,社団法人農山漁村文化協会,1997.3
7)白石和良:中国の食品産業―その現状と展望―.東京,社団法人農山漁村文化協会,1999.12
8)白石和良:農業・農村から見る現代中国事情.東京,社団法人家の光協会,2005.4
9)田先威和夫監修:新編畜産大辞典.東京,養賢堂,1996.2
10)独立行政法人農畜産業振興機構:畜産2006.東京,2006.9
11)農畜産業振興事業団企画情報部:中国の肉牛産業(農畜産業振興事業団叢書シリーズNO.22).東京,1999.3
12)長谷川敦、谷口 清:急速に発展する中国の酪農・乳業.「畜産の情報」海外編 平成19年3月号(NO.209),東京,独立行政法人農畜産業振興機構,2007.2,pp73−116
13)藤田泉:中国畜産の展開と課題.東京,筑波書房,1993.1
14)宮本敏行:中国四川省の養豚・豚肉産業事情.「畜産の情報」海外編 97年7月号(NO.93),東京,農畜産業振興事業団,1997.6,pp74−80
15)ウィキメディア財団:中華人民共和国の行政区分.フリー百科事典『ウィキペディア』日本語版(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E8%8F%AF%E4%BA%BA%E6%B0%91%E5%85%B1%E5%92%8C%E5%9B%BD%E3%81%AE%E8%A1%8C%E6%94%BF%E5%8C%BA%E5%88%86
16)ウィキメディア財団:ブタ.フリー百科事典『ウィキペディア』日本語版
 (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B1%9A
17)ウィキメディア財団:養豚.フリー百科事典『ウィキペディア』日本語版
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A4%8A%E8%B1%9A
18)人民網(人民日報インターネット版:http://www.people.com.cn/
19)中華人民共和国国務院国有資産監督管理委員会
 (http://www.sasac.gov.cn/index.html
20)中華人民共和国国家発展和改革委員会(http://www.ndrc.gov.cn/
21)中華人民共和国財政部(http://www.mof.gov.cn/index.htm
22)中華人民共和国商務部(http://www.mofcom.gov.cn/
23)中華人民共和国中央人民政府(http://www.gov.cn/
24)中華人民共和国農業部(http://www.agri.gov.cn/
25)中国華孚貿易発展集団公司(http://www.hfjt.com.cn/
26)独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(http://www.jogmec.go.jp/


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