調査・報告

国際需給に影響を及ぼす「穀物ナショナリズム」の動き
─輸出規制、自国生産の安定化、輸入規制の緩和─

国際情報審査役付調査役 藤間 雅幸

はじめに

 世界の穀物生産は増加傾向にあるが、新興国や開発途上国の需要がそれを上回るペースで拡大していることから、小麦を中心として世界の在庫水準は低下している。他方、原油価格は2006年に入り1バレル当たり60ドル台に上昇したが、今や100ドルさえも上回る勢いの中、穀物などを利用したバイオ燃料の需要がますます拡大しており、将来の穀物需要増を見込んだ投資資金が穀物市場へ流入している。また、海上運賃も原油の値上がりによる影響を受け高騰している。

 このようなことから、穀物価格は高値で推移しており、食料品価格の値上げ要因として、直接、間接的に国民生活へ影響を与え始めている。

 このような状況の下、穀物の主要生産・輸出国では、自国での穀物供給を確保する観点から、輸出規制、自国生産の安定化、輸入規制の緩和などの措置を導入する動き(穀物ナショナリズム)が活発化している。

 わが国は、飼料原料の大部分を海外に依存していることから、安定的な飼料原料を確保する上で、世界で活発化している「穀物ナショナリズム」の動きを整理することは有益であると考える。

 そこで、本稿では、最近の穀物需給と見通し、穀物ナショナリズムの動きと穀物価格上昇の影響について解説する。

世界全体の穀物(粗粒穀物+小麦)需要の増加について


1.最近の穀物需給と見通し

(1) 米国、大豊作で価格高 ─農家所得は増加し、政府補助金は減少─

 石油の中東依存の軽減、環境対策、農家所得の向上や雇用創出などを背景に、2005年8月の米国エネルギー政策法、2007年1月の一般教書で再生可能燃料の使用目標が定められたことから、米国のバイオ燃料生産は依然「ゴールドラッシュ」の様相を呈している。米国のバイオ燃料ブームは、エタノールプラントの利益率が低下したことから、一時の勢いから落ち着きを見せ始めているが、米国の穀物生産農家は、輸出に回すよりは、国際情勢に左右されにくいエタノール生産向けの拡大を望んでいることも背景にある。

 米国のバイオ燃料の原料となるトウモロコシ価格は、(1)原油価格の動向、(2)米国のエタノール租税減免措置(2010年まで51セント/ガロン)や輸入関税(2008年まで54セント/ガロン)などのエネルギー政策、(3)非食料を用いた経済的なエタノール生産技術の開発─などの要因が絡み合うため予測し難いが、経済協力開発機構(OECD)と国連食糧農業機関(FAO)が公表したOECD-FAO農業観測(Agricultural Outlook 2007-2016、2007年7月)や米国農務省(USDA)の長期見通し(USDA Agricultural Projection to 2016、2007年2月)によると、今後のトウモロコシ価格は、中・長期的には落ち着くものの依然高値水準にとどまり、大幅な値下がりは見込めないとの見方がされている。

 トウモロコシ価格が右肩上がりで上昇し続けるならば、米国から飼料向けのトウモロコシを輸入する国は、えさか肉かというような選択を、今後迫られるのであろうか。

世界の粗粒穀物需給


 米国農務省経済調査局(USDA/ERS)が、2007年11月に公表した「米国農家における収支報告」(Farm Income and Costs)によると、世界的な穀物価格の上昇などにより、2007年の米国の作物収入は、前年を18.8%上回る1,426億ドル、全米農家所得はこれまで最高であった2004年の記録を16億ドル上回る875億ドルとされる一方、価格下落を補てんする政府の直接支払いは、前年を23.4%下回る121億ドルと見込まれており、穀物価格の上昇は、米国農家ばかりでなく米国政府にも恩恵をもたらす一方、穀物を買い入れる側には、その分の負担を強いられる結果が示されている。

  米国における農家所得の向上と政府の直接支払いの減少

 OECDが、2007年10月に公表した「OECD加盟国における農業政策:モニタリングと評価」(Agricultural Policies in OECD Countries: Monitoring and Evaluation)によると、OECD加盟国における政府から農家への補助金支払額の割合は、2005年には農家総所得額の29%を占めていたが、2006年には2%減少し27%とされている。国内価格を支えるための農家への支払額が減少している中で、この減少の主な要因については、農業政策の変更によるものではなく、世界全体の食料価格の上昇に負うとしており、穀物価格の上昇は、生産国に大きな利益をもたらしていることを裏付けている。

 

(2) 気候変動─干ばつや豪雨が欧州、豪州、カナダを直撃─

 USDAが、2007年9月に公表した世界の穀物市場と貿易(Grain:World Markets and Trade)によると、小麦価格の急騰は、主要な小麦生産国における干ばつや豪雨などの気候変動による生産量の減少が主因とされている。

 欧州は、2007年の春から夏にかけ、南部地域を中心に熱波による厳しい干ばつとなる一方、北部地域では豪雨による局地的な洪水に見舞われ、2007/08年度のEU-27カ国の小麦生産量は、前年度を3.5%下回り、干ばつに襲われた4年前の減産に次ぐ低水準の生産量が見込まれている。この小麦生産量の不足を補うため、主として南米からトウモロコシが輸入されており、2007/08年度におけるトウモロコシの輸入量は、過去最大となる950万トン(前年度比33.8%増)が見込まれている。

 豪州は、2年続きの干ばつとなる。2007/08年度の小麦生産量は、前年度の百年に一度と形容された大規模な干ばつには至らないが、2007年8月、9月の降水量不足から、2002/03年度の干ばつ時に次ぐ低水準が見込まれている。豪州農業資源経済局(ABARE)が、2007年12月4日に公表した2007/08年度の小麦生産予測によると、1,000万トンを割り込んだ昨年度を上回るものの、過去5カ年度(2001/02〜2005/06年度)平均である2,157万トンを41.1%下回る1,270万トンが見込まれている。

 カナダは、広範囲にわたり熱波による乾燥した天候から、著しく単収が減少しており、2007/08年度の小麦生産量は、前年度を20.6%下回ると見通されている。このため、世界全体の2007/08年度の小麦期末在庫は、前年度を11.5%下回る1億1,006万トンとなり、1977/78年度以来、30年ぶりとなる低水準が予測されている。

小麦の生産量、輸出量および期末在庫について


2.穀物ナショナリズムの動き

 穀物の輸出国などでは、穀物の国際価格が上昇しているため、自国の食料品の値上がりを抑制する必要から、また、食料品の価格が値上がることで、国内の情勢が著しく不安定化することを回避する必要から、まず、自国の穀物供給量を確保しようとする動き(穀物ナショナリズム)が活発化している。国によっては、選挙対策などの事情も背景にあるが、輸出規制、自国生産の安定化、輸入規制の緩和などによる「内向き」志向の措置が採られ始めており、この動きは、ますます強まる傾向にある。

各国での輸出規制などの事例について

(1) 輸出規制など

1)ロシア:小麦、大麦に輸出税を導入
 2007年6月以降から上昇したロシア国内の小麦価格は、10月下旬以降、高止まりする一方、食料品の価格は、2007年8月以降急激に値上がりしているため、ロシア政府は、関税同盟国との政策調整を踏まえた上で、2007年11月12日から翌年4月30日までの間、小麦、大麦の2品目について、輸出税を課すと公布(2007年10月10日付け決議第660号)している。

 輸出税は、小麦は1トン当たり22ユーロを下回らない10%の従価税、大麦は1トン当たり70ユーロを下回らない30%の従価税で、決議によると、小麦の輸出制限措置はロシア国内の穀物需給が一層タイトになれば、さらなる上乗せもあるとされている。なお、この背景には、2007年12月の下院選挙、2008年3月の大統領選挙による影響も挙げられており、ロシア政府は食料品の値上がりに懸念の度を深めている。

 USDAによると、この決議による影響について、貨車不足などによる輸送上の障害もあるとした上で、大麦の輸出は、30%の輸出税が課されたために価格競争力がなくなり、決議後の輸出は、ほぼ行われないとされる一方、10%の輸出税が課された小麦の輸出は、利益は減少するが価格的に折り合うこと、また、2008年1月には、輸出税をさらに引き上げ40%にするのではないかとの見方もあることから、輸出は決議後も堅調に推移すると見込まれている。なお、2007年10月の小麦の輸出量は、決議前の駆け込み需要から、月間としては記録的な280万トンとなる。

 輸出業者によると、現在の契約の履行に力を注ぐものの、2008年1月、2月渡しの新規契約は、輸出税の引き上げが見込まれることから、控えているとしている。

2)ウクライナ:パン類などの値上がりを抑えるため、輸出規制を拡大
 ウクライナ政府は、2007年10月2日、2007年11月1日から翌年3月31日までの間、小麦、大麦、トウモロコシ、ライ麦の4品目について輸出割当とし、その数量は120万3千トンと公布(2007年9月26日付け命令第1179号)している。

 この理由として、世界全体の穀物相場の上昇からウクライナ国内のパン類などの値上がりを抑えること、政府による穀物在庫水準を高めること、干ばつにより国内の穀物生産量が減少したこと─などを挙げている。なお、同国は、2007年7月から9月にわたり、わずかであるが同4品目について3千トンずつの輸出割当を実施していた。生産者などによると、政府による輸出割当が解除されるまで、または、輸出割当が拡大されるまで、売り惜しみを続けるとされている。

 輸出割当は、輸出を制限することで国内の穀物価格の値上がりを抑えるために実施されたが、ウクライナの穀物価格は、国際価格が上昇した水準までには至らないものの、政府の見込みを上回る上昇を示している。

3)セルビア:輸出禁止をさらに延長
 セルビア政府は、国内市場に穀物を十分に供給し、世界の穀物価格の上昇から国内のパン類、食肉などのさらなる値上がりを抑えるため、2007年8月4日から3カ月間、小麦、トウモロコシ、大豆、ヒマワリの4品目について輸出禁止としていたが、小麦とトウモロコシの2品目については、2007年10月26日付けで命令を公付し、2008年3月5日までの120日間にわたり再延長している。大豆とヒマワリは、すでに売り渡されているため対象から除外されている。今回の命令には、小麦とトウモロコシの輸出禁止に加えて、小麦粉には8万トン、ひき割りトウモロコシなどには14万3千トンの輸出割当を設けている。政府は、当初、価格が上昇し不作が見込まれた時点で輸出割当を計画したが、割当に絡む汚職や不正を危ぐし、選択肢から除外していた。セルビア政府によると、2007年6月、7月と同等のペースで輸出が行われた場合、著しく国内在庫水準が低下するという危機感もあるとしている。

 国内の小麦価格は、2007年7月にわずか1週間で3割の上昇を示し、トウモロコシ価格は、7月、8月にかけて2カ月前の水準を5割以上も上回る状況にあった。8月からの輸出禁止は、当初、かなり功を奏し、禁止の数週間後から価格は安定したが、9月以降から上昇に転じている。

 製粉、製パン業者は歓迎する輸出禁止であるが、エコノミストからは自由経済に逆行すると非難され、即時の撤回が求められている。輸出業者によると、輸出禁止を見越していたが、禁止が公布の翌日から実施されたことで、進行中の契約を見直す時間さえ提供されなかったこと、輸出禁止が長引けば保管費用がかさむこと、契約が履行できないことで国際的な信用を失墜すること─などから、今回の措置による影響が懸念されている。また、輸出禁止は、貿易相手国には否定的に受け取られており、特にEUからは、通常の商習慣ではあり得ないこととして受け止められている。

4)カザフスタン:小麦輸出量の2割を国内販売に
 カザフスタンの小麦生産は豊作に恵まれたことから、輸出規制を行う必要性は少ないものの、カザフスタン政府は、国内の小麦価格が上昇していること、2年続きで国内の在庫が減少していること、海外の小麦価格が高騰することで輸出が促進され、国内に留保する小麦が減少すること─などの懸念から、2007年10月上旬、小麦輸出量の2割を国内向けに販売するよう、輸出業者に指示している。

5)中国
ア)穀物などの輸出税還付を取り消し

 中国政府は、2007年12月17日、「小麦等未加工穀物および製粉の輸出税還付の取り消しに関する通知」(2007年12月14日付け財税〔2007〕169号財政部・国家税務総局通知)をもって、小麦やもみ、コメ、トウモロコシ、大豆などの未加工穀物および加工済み穀物(以下「穀物および製粉」)84品目(関税番号別)に関し、輸出税の還付を2007年12月20日から取り消すと発表している。財政部によると、これらの品目については、現在、5%から13%の輸出税還付が行われている。

 通知によると、具体的な執行日時は、税関が「輸出貨物通関申告書(輸出税還付専用)」にこの旨を明記した輸出期日に合わせるとされている。また、2007年12月20日以前に締結された輸出契約であって、価格の変更ができないものについては、輸出税還付の主管税務機関に対し、12月31日までに契約書の正本および副本を提示し、審査の上で登録されれば、2008年2月29日以前に輸出されるものに限り輸出税が還付される経過措置が採られるとしている。

 中国財政部は、この政策の背景として、絶えず上昇する国際食糧価格の影響を受け、穀物および製粉の内外価格差が拡大し、中国からの穀物などの輸出が加速しているため、国内の食糧の供給確保と価格安定の必要があること、輸出加速による中国の過大な貿易黒字を緩和させる必要があること─を明らかにしている。

イ)穀物輸出に輸出税、数量割当
 中国財政部は、2007年12月30日、国務院の認可を経て、2008年1月1日から12月31日までの1年間にわたり、小麦、トウモロコシ、大豆などの未加工穀物およびそれらの加工済み穀物粉57品目(関税番号別)に対し、5%から25%の暫定輸出関税を課すると発表している。税率は、麦類およびその粉の暫定関税率はそれぞれ20%および25%、トウモロコシ、大豆は5%、トウモロコシ・大豆の粉は10%などとしている。

 また、商務部は、2008年1月1日、国内の食糧の価格安定と供給確保のため、同日から当面の間、穀物および穀物粉の輸出割当措置を実施すると発表している。商務部によると、同措置は世界貿易機関(WTO)の規則に沿った臨時的なものであり、その実施期間は国内市場の需給動向を見ながら決定するとされている。

6)インド:2007年末までの輸出禁止期限を無期限へと変更
 インド政府は、需要が増加している小麦について、国際価格の高騰による国内価格への影響を抑えること、また、政府の介入在庫を積み増す必要から、小麦と小麦製品の輸出禁止を2007年12月31日まで(2007年2月9日付け商務省告示第44号)としていたが、これを当分の間、無期限と告示(2007年10月8日付け商務省告示第33号)している。

 なお、この背景には選挙対策もあり、インド政府は小麦やコメなど基本となる食料品価格の動向について特に注視している。

7)パキスタン:小麦と小麦粉に35%の輸出税
 パキスタン政府は、小麦と小麦粉の不足に伴い食料品価格が値上がりしており、特に2007年9月(ラマダン:断食月)に入り4割上昇していること、食料品価格の値上がりは、2008年2月18日に行われる予定の総選挙の争点であること、今後の価格変動に対応可能となる在庫を確保する必要があること─などから、2007年9月、小麦と小麦粉に35%の輸出税を課すと発表している。しかし、国内の小麦価格が安いことから、35%の輸出税が課されても輸出量の歯止めには至っておらず、主要輸出国であるアフガニスタンへの輸出量は、例年の2倍程度になるとしている。USDAによると、国家貿易企業でない民間ベースによる小麦の輸入が、許可されるのではないかとの見方が示されている。

8)アルゼンチン:トウモロコシなどの輸出税を引き上げ
 ペイラーノ経済相は、2007年11月7日、穀物の輸出税の引き上げを発表している。輸出税は、2002年1月に通貨切り下げを実施した際、大幅な税収不足をカバーするため農畜産物に導入していた。今回の輸出税の引き上げは、穀物の国際価格が高騰を続ける中にあって、生活の基本となる食料品価格の安定が政府の重要課題であることから、新たなインフレ抑制策の一環としており、大豆は現行の27.5%から35%へ、小麦は同20%から28%へ、トウモロコシは同20%から25%へ引き上げ、輸出規制を強化している。

 停止していた大豆と小麦の輸出登録は、2007年11月13日に再開となる。ただし、輸出登録が停止する以前は、1年以上先の輸出についても登録は可能であったが、今回の措置により、大豆は150日以内、小麦は90日以内の輸出しか登録は受け付けられないことになる。

 なお、輸出税引き上げの話は、大統領選挙前から上っており、輸出の拡大を狙う農業団体は、輸出税の引き上げに反対を表明している。新たな大統領が選出されたことで、新大統領が、輸出税の見直しを検討する可能性があると期待する向きもある。


(2) 自国生産の安定化など

1)ロシア:食料品小売価格は凍結し、介入在庫からは売り渡し
 ロシア政府は、選挙向けという背景もあるが、2008年1月末まで、生活の基本となる食料品小売価格の値上げを凍結し、小麦を主体に保有する介入在庫(150万トン程度)からの売り渡しを実施している。売り渡し先は、政府系の製粉工場が対象で、市場価格を下回る価格により、2007年10月29日から翌月28日までの間、23万9千トン(3級小麦23万8千トン、4級小麦1千トン)を売り渡している。一方、消費者は、小売価格の凍結解除後に、再び価格は急騰するとの思いから、食料品を買いだめしている。

 なお、ロシア政府は、2007年10月、食料供給体制全体を整備するため、輸出も含めた食料品全般を管理する国営企業の設立を明らかにしている。

2)インド:小麦生産拡大のため、最低生産者価格を引き上げ
 インド政府は、小麦の作付面積を拡大し生産量を増加させるため、2008/09年度(4月〜翌年3月)における小麦の最低生産者価格について、1トン当たり前年度の218ドルを17.4%引き上げ、256ドルに改定すると発表している。

3)パキスタン:小麦の輸入に補助金を補てん
 パキスタン政府は、国内供給を強化し、食料品価格の値上がりを抑えるため、小麦と小麦粉に35%の輸出税を課しているが、2007年9月15日、100万トンの小麦を輸入するとともに、輸入する小麦には、高騰している国際価格と国内価格との差を埋めるため、約1億9,800万ドルの補助金を補てんするとしている。

4)エジプト:パン類に前年度5割増しの補助金を拠出
 エジプトの一人当たりの小麦粉の消費量は、世界の中でも屈指の数量であり、小麦価格の上昇からパン類が値上がりすることになれば、国内情勢の不安定化材料となるため、エジプト政府は、2007年9月、製パン業者に、前年度の約5割増しとなる24万7千ドルの補助金を拠出している。

(3) 輸入規制の緩和など

1)EU27カ国:一時的に穀物の輸入関税をゼロ関税に
 欧州委員会は、2007年11月26日、世界およびEUでの厳しい穀物需給および価格高騰に対処するため、エン麦を除くすべての穀物に課す輸入関税を、一時的にゼロ関税とする提案を行ったが、農相理事会は、2007年12月20日、穀物販売年度が終わる2008年6月30日までの間、ライ麦、ソバ、キビを除いたすべての穀物の輸入関税を、一時的にゼロ関税(適用は2008年1月11日から)とすることに合意している。ただし、今後の市場動向によっては、2008年6月末前にも、再び税率を引き上げるとしている。

2)インド:民間輸入分の小麦関税を撤廃
 インド政府は、2007年10月8日、国家貿易企業でない民間による小麦輸入は、当分の間、無期限に許可すると告示(2007年10月8日付け商務省告示第35号)している。なお、この場合の輸入関税は、2007年12月31日までゼロ関税を適用(2007年3月30付け財務省告示第52号)していたが、その後についても、期限を定めずにゼロ関税とすることを告示(2007年12月31日付け商務省告示第123号)している。

3)台湾:小麦の輸入関税を5割引き下げ
 台湾政府は、小麦と小麦粉の価格安定のため、小麦は6.5%の輸入関税を3.25%に、小麦粉は17.5%の輸入関税を8.75%にそれぞれ引き下げている。なお、トウモロコシ、ソルガム、大麦は、ゼロ関税が適用されている。

4)バングラデシュ:一時的に小麦の輸入関税をゼロ関税に
 バングラデシュ政府は、2007年3月、民間ベースによる小麦輸入を促進し、国内の小麦価格を安定させるため、小麦に課している5%の輸入関税を一時的にゼロ関税としている。

5)モロッコ:小麦の輸入関税を引き下げ
 モロッコ政府は、2007年6月29日、大麦、小麦などの国内生産量が減少している上、海外の小麦価格が急騰していることから、パン類の小売価格の値上がりを抑制するため、小麦に課している輸入関税(平均実行税率)を15.39%引き下げ、過去最低水準である16.61%に、また、デュラム小麦は、75%から55%に改定している。ただし、米国、EUからの小麦の関税率は9.94%が適用されている。なお、2007年の大麦とトウモロコシの輸入関税は、一時的にゼロ関税としている。

6)豪州:5年ぶりに飼料穀物の輸入を許可
 豪州連邦政府のマクゴーラン農相は、2007年11月、干ばつにより穀物在庫が前年同期の3割を下回ること(2007年10月末)から、緊急措置として飼料穀物の輸入を許可するとしている。これが実施されれば、2002/03年度の干ばつ時に、米国から4万8千トンのトウモロコシ、イギリスから27万トンの小麦を輸入して以来となる。なお、2006年の干ばつ時も、豪州連邦政府は穀物輸入申請を受理したが、検疫問題などを理由に実際の輸入を認めていない。

3.穀物価格上昇の影響

(1) 開発途上国などへの影響は深刻

 FAOが、2007年11月に公表した「食料需給見通し(Food Outlook)」によると、2007年の世界の食料輸入額は過去最高となり、前年比21.1%増の7,448億ドルが見込まれている。これは、穀物価格の上昇や海上運賃の高騰などにより、穀物の輸入額が押し上げられたことによるとした上で、食料輸入額に占める割合は低いものの、前年比64.7%増となる乳製品や同35.4%増となる植物油による影響についても挙げられている。穀物価格の上昇による影響は、わが国以上に、特に開発途上国などで深刻である。

 FAOによると、穀物価格の上昇から開発途上国などにおける2007年の食料品輸入額は、2000年の2倍になることが見込まれ、これらの地域では、輸入量、消費量が減少するとの見方が示されており、食料供給は一段とひっ迫することが指摘されている。

 2007年10月に来日した国連世界食糧計画(WFP)のシーラン事務局長によると、世界人口の7人に1人となる8億5千万人が「飢え」に苦しんでいるとした上で、2006年度に世界で支援した食料約700万トンのうち、約半分を占めている小麦の値上がりや海上運賃の高騰などが、支援活動の重荷となり、今後、同じ額の支援しか集まらなければ、支援対象者数を削減せざるを得ないことから、飢餓の拡大が懸念されるとしている。

 また、国際通貨基金(IMF)が2007年10月に公表した世界経済見通し(World Economic Outlook)によると、消費支出に占める食料費の割合は、米国がわずか10%であるのに対し低所得食料不足国(LIFDC)などでは50%以上を占め、最貧国に近づくほど高くなる傾向となることから、これらの地域では、食料品価格が上昇することによる社会への影響が危ぐされるとしている。

2007年における食料輸入額と前年増減比

(2) わが国の生産者負担は急増

 穀物価格の上昇は、わが国の畜産経営に大きな打撃となっている。わが国は濃厚飼料の主原料となるトウモロコシを年間1,600万トン(うち飼料用1,200万トン)輸入する世界一の輸入国であり、飼料費が生産費の4割から6割を占める畜産経営において、穀物価格の上昇による影響は大きく、配合飼料価格安定制度により、その影響が緩和されているとはいえ、生産者負担は急増している。また、畜産物の販売価格への転嫁が進まないことにより、このことが、さらに畜産経営を圧迫している。

平成18年度畜産物生産費に占める飼料費の割合


おわりに

 わが国の平成18年度の食料自給率(カロリーベース)は13年ぶりに40%を割り込んでいるが、飼料自給率は25%に過ぎない。食料・農業・農村基本計画においては、平成27年度までに達成すべき飼料自給率を、粗飼料自給の完全達成や食料残さの飼料化(エコフィード)などにより、平成15年度の24%から35%まで拡大するという目標が設定されている。

 世界最大の食料輸入国であるわが国は、今までは購買力があるため、飼料穀物と油糧種子の大部分を海外に依存していていても、自由に買い入れることができたが、世界の穀物需給は大きな「曲がり角」を迎えている。
 穀物の需要拡大に加え、気候変動による突発的な生産量の減少、「内向き」志向で強められる「穀物ナショナリズム」の中にあって、今回の穀物価格の上昇は、改めて、自国の農業の「大切さ」を再認識する機会を提供している。

 また、わが国の飼料自給率を向上させることで、「飢え」に苦しむ国々への供給可能量が膨らみ、世界の飢餓人口の抑制に貢献できるとの期待もある。

 


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