LIPC WEEKLY


95年の十大ニュース−米国−


【デンバー駐在員事務所】 堀口 明、舟田 信寿



1.95年度の農産物輸出が史上最高に

 農務省(USDA)経済調査局は、95年度(94年10月〜95年9月)の米国

農産物輸出が、81年の記録である438億ドルを大きく上回る542億ドルに達し

たと報告した。飼料用穀物の価格上昇が主要因とされているが、畜産物についても、

牛肉が前年比19%の伸びで26億ドル、家きん肉が33%の伸びで29億ドルにな

るなど、記録達成に貢献している。



2.農務省、農業法ガイドラインを発表

 USDAは、今年5月、行政としての95年農業法に対する基本的な考え方を示し

た「農業法ガイドライン」を公表した。現行諸制度について現状維持的色彩の強いこ

の提案に対し、議会多数派政党の共和党は、財政支出削減と作付け制限の撤廃など生

産者の選択権の拡大を主張し、財政調整法に農業法の内容を盛り込み、上下両院でこ

れを可決した。これに対し、大統領は拒否権を発動したため、再度の調整が必要な状

態になっており、現行法を1年間延長して審議する案も出ている。



3.酪農関係規定、財政調整法案から除外

 95年農業法の中心的な規定である農産物価格支持政策については、財政調整法と

いう予算関係法案でその内容を規定するという変則的な形で審議が進められ、上院と

下院で異なった内容の法案が可決された。このため議会は、両院の協議により農業関

係規定の内容調整を行ったが、意見に大きな隔たりのある酪農関係規定は、法案から

除外されて両院の合意案が決定された。酪農関係規定の法案審議は、再度、別の形で

行われることになったが、これまでの経緯から難航が予想される。



4.食肉検査制度改革、来年に持ち越し

 USDAが95年2月始めに示した食肉検査制度改革案は、危害分析重要管理点監

視(HACCP)制度を取り入れたものとして提案されたが、業界関係者からは、

「二重の検査を課すものであり、中小企業に対する配慮も不足している」との批判を

招いた。USDAは、公聴会や業界との意見交換の場を設けるなどして最終規則制定

への努力を行い、ようやく改革実施に向けての最終段階に近づいた感があるが、規則

制定とその実施は、来年に持ち越されることになった。



5.牛の飼養頭数は肉用種増で拡大基調

 USDAが発表した95年1月1日現在の牛の総飼養頭数は、1億327万頭で、

前年より2.3%、227万頭の増加となった。乳用種の飼養頭数が減少する中で、

肉用種の頭数が増加したことが全体頭数の増加となって表れている。7月1日現在の

総飼養頭数も同様の増加傾向を示しており、キャトルサイクルによる頭数拡大傾向は、

97年ごろまで続くとみられている。



6.農務長官にグリックマン氏就任

 エスピー前農務長官の後任として農務長官に指名され、95年3月下旬に第26代

農務長官に就任したグリックマン氏は、94年11月の下院議員選挙で落選するまで、

農業州であるカンサス州選出の民主党下院議員を18年間にわたって務め、下院農業

委員会では過去の農業法制定に大きな役割を果たすなど、農業問題にも造けいの深い

人物である。農務長官就任後も、USDAの機構改革や食肉検査制度改革に積極的に

取り組むとともに、農業法については、セーフティーネットとしての現行制度の必要

性を主張している。

7.ウルグアイを口蹄疫清浄国に認定

 農務省動植物健康検疫局は、11月1日付けの官報でウルグアイを口蹄疫清浄国と

認定し、同月16日から牛肉などの輸入が可能になる旨を公示した。ウルグアイ自体

の牛肉輸出力はそれほど大きなものではないが、アルゼンチンなどの南米の牛肉生産

大国にこの動きが広がれば、世界の牛肉貿易に大きな影響がもたらされる可能性があ

る。



8.酪農乳業界、輸出体制を強化

 GATTやNAFTAなどの貿易協定の締結と、国内の酪農保護制度撤廃の動きに

対処する方策の一つとして、酪農乳業界は、かねてから検討を進めていた乳製品の輸

出振興を図るための組織としてUSDEC(米国乳製品輸出協会)を設立した。US

DECは、会員からの会費と農務省の海外市場開発関係予算を財源として米国の乳製

品輸出促進活動を行う。



9.肥育牛の価格形成はパッカー主導

 肉牛業界は、長年の国内の牛肉需要の低迷に加え、肉牛飼養頭数の循環的増加によ

り価格低落に苦しんでいる。このような状況にあって、肉牛生産者団体である全米肉

牛生産者協会は、大手パッカーによる生産と流通への関与の増大と、それに伴う価格

支配が行われている可能性があるとの見解を示し、USDAに対して実態調査を要請

した。価格支配についての明確な結論は出されていないが、大手パッカーの流通シェ

ア拡大は、価格形成に何らかの影響を持つものと思われる。



10.豚の処理能力、拡大化が進展

 95年から96年にかけて、米国では、新増設などによる豚と畜処理能力の拡大が

予定されており、これが計画どおり進めば、現在、1日当たり推定約37万頭とされ

ていると畜能力は、16%、6万頭増加すると見込まれる。過去に、と畜能力を上回

る肥育豚の供給により、大きな価格低落を経験した豚生産者は、これを歓迎している

が、増設を計画している大手パッカーは、増設施設の多くを拡大予定の自家生産豚の

処理に充てる計画もあり、生産者としては楽観できない。


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