ALIC/WEEKLY


ブラッセル駐在員事務所 【池田 一樹、東郷 行雄】


1.BSE問題がEUを直撃
 3月にイギリス政府が、BSEとCJDとの関係を示唆して以来、BSE問題
はEUの農業分野の最大の問題となった。正体が完全に把握できていない病気へ
の対応のため、き憂との批判さえある中で、イギリス産牛肉等の輸出禁止措置、
イギリスにおける100万頭以上の牛のとう汰などの数々の防疫措置が取られた。
また、13億ECU以上に上る対EU肉牛生産者補償措置などの関連対策が取ら
れる一方、輸出禁止措置の解除の方向付けの遅延をめぐってのイギリス政府の対
EU業務の非協力政策など、政治的にも大きな影響が見られた。輸出禁止措置は
継続中であり、また防疫対策をめぐる科学的な議論も続出しているなど、問題解
決への道のりは遠い。

2.BSE臨時審査委員会設置
 80年代後半からのEUの一連のBSE対策の正当性が審査されることとなっ
た。欧州議会は、9月に臨時審査委員会を設置し、情報隠ぺいの有無など政策決
定における透明性、公衆衛生上の対策の妥当性などを審査している。これまで、
マクシャリー、シュタイヘン、フィシュラーの3代の農業委員、ルグラ農業総局
長、メルドラムイギリス獣医局長などの要人が聴聞を受けた。委員会は来年2月
まで継続する。

3.牛肉市場政策の改革
 EUは従来からの牛肉生産過剰体質、BSE問題による−10%もの牛肉消費
の激減を背景として、11月に牛肉市場政策を改革した。現行の子牛処分奨励金
制度に加え、子牛の軽量での処分に対する奨励金の導入を決定し、100万頭の
成肉牛の生産削減を目指す一方、雄牛特別奨励金の支払い回数を非去勢牛につい
ては2回/頭から1回/頭に削減した。さらに、粗放化飼育の奨励にもテコ入れ
を行った。ただし、これらはあくまで短期的対策であり、中長期的対策は今後の
重要な検討課題である。

4.チーズの輸出補助金相次ぐ削減
 チーズの輸出補助金の削減、輸出証明書の発行凍結が次々と行われ、補助金は、
対前年比でゴーダチーズ−34%、プロセスチーズ−47%など大幅に削減された。
一連の措置は、殺到する輸出予約を牽制し、GATT・ウルグアイラウンド(U
R)合意を履行するための措置であるが、度重なる改正に輸出業者は契約に支障
を来している。この結果、UR合意1年目のチーズ輸出数量はほぼ合意水準とな
ったが、補助金額は合意水準を大幅に下回った。さらに、米国や日本向けの補助
金撤廃を求める声もあり、チーズ輸出補助金の動向は今後も注目される。

5.生乳生産クオータ改革議論始まる
 EU委員会は、CAP(共通農業政策)の酪農分野の改革案を来年に提出する
こととしている。この端緒として、9月末に開催されたEU非公式農相会議で、
2000年までの維持は決定している生乳生産クオータ制度のその後の方向をめ
ぐって意見交換が行われた。大規模経営、安価な乳代といった高い生産性のイギ
リスなどはクオータ制度の廃止に傾く一方、生産性の低い南ヨーロッパ諸国は依
然クオータの増枠を求めるなど、各国の立場はさまざまであり、今後の折衷案の
行方が注目される。

6.産地銘柄保護始まる
 6月から、公正な競争や農村地域振興などを目的とした産地銘柄の保護が始ま
った。これにより、スコティッシュビーフ、パルマハム、ブレス鶏、ノルマンデ
ィーの カマンベールなど、品質が産地の環境に直結した産地銘柄商品の名称は、
特定の地域・製法で生産された場合に限って使用されることとなった。5年の移
行期間の下に、これまで約400の銘柄が保護対象に指定された。ただし、ギリ
シアを元祖とするフェタチーズについては、他の加盟国でも多く生産されており、
議論が続いている。

7.農村発展への新たな出発
 11月にアイルランドのコークで行われた、EU委員会の農村発展に関する会
議で、今後の農村発展政策の指針案が示された。いわゆるコーク宣言と呼ばれる
指針には、農業以外の産業も包括した多角的な農村発展、農村景観や自然環境の
維持のための政策の必要性などが掲げられている。フィッシュラー農業/農村発
展委員は、この会議を農村発展への新しい政策の出発点と述べている。

8.牛肉ホルモン問題、WTOへ
 EUの成長ホルモン使用牛肉の輸入禁止措置の是非が、遂に世界貿易機関(W
TO)の紛争処理パネルで裁定されることとなった。パネルは米国の要求に基づ
き10月に開かれ、席上EUは、あらゆる国は消費者の健康の保護水準を独自に
決定する権利があると主張したが、これに対して米国は科学的根拠の欠如を指摘
している。WTOは技術面を検討するため専門委員会を設置することとしており、
パネルの結論は来年後半まで持ち越される見通しである。なお、カナダも独自で
パネルの設置を要求している。
 
9.統合後5年を経た旧東ドイツ農業
 90年10月のドイツ統合以来、旧東ドイツでは、多くの農業支持対策の実施
にもかかわらず、農業生産は大きく低下してきた。しかし、全般的にはようやく
回復に転じつつあり、さらに、経営規模が格段に大きいことから、今後のドイツ
農業に大きな影響を及ぼすものと考えられる。酪農についてみると、統合前に比
べ6割程度まで減少した生乳生産量も7割程度まで回復し、また、乳価水準の格
差も統合直後の100kgあたり10マルク以上から、2マルクに縮まってきて
いる。 

10.イギリスの生乳流通制度、改善を決定
 イギリス最大の生乳集荷販売団体のミルクマークは、生乳買入入札に当たって
の仮販売価格の設定などについて、公正取引委員会から不透明性を指摘された。
このため、97年4月から応札数量が予定数量の90%未満の場合、次の入札で
は仮販売価格を引き下げ、また契約区分毎の販売数量を公表するなど入札方法の
改善を決定した。ただし、公正取引委員会は必要に応じて、再度検討を開始する
こととしている。

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