ALIC/WEEKLY


シドニー駐在員事務所 【鈴木 稔、石橋 隆】


1.低迷の続く牛肉産業(豪州)
 豪州の牛肉産業関係者にとって、主要輸出先の日本、米国市場が低迷する中、
年初から肉牛価格の急落で始まった96年は、3月の牛海綿状脳症(BSE)問
題、さらには日本での「O−157」食中毒の影響による消費停滞などから、価
格、輸出の低迷が続きオイルショック時以来の最悪の年となった。このような厳
しい状況は、パッカーの撤退やフィードロットの閉鎖という事態を招くとともに、
一方で、パッカーの合理化、食肉関係団体の再編の動きを推し進める要因となっ
た。

2.食肉関係団体の再編に動き出す(豪州)
 アンダーソン第一次産業大臣は、食肉関係団体の在り方を検討するため5月に
諮問委員会を設置し、豪州食肉畜産公社(AMLC)、食肉研究公社(MRC)、
食肉産業協議会(MIC)の機能見直しと再編に向けて動き出した。10月末に
同委員会はこれら3団体を解散し、新たに畜種別(牛肉および羊肉)に2団体を
新設するなどの改革案を答申した。これを受けて、現在食肉業界ではホットな論
争が繰り広げられているが、大臣は年明け早々に最終決断を下すことになってい
る。

3.順調に拡大する生乳生産(豪州)
 95/96年度の生乳生産量は、前年度を6.2%上回る87億1千6百万リ
ットルに達した。年度前半は3%程度の伸びであったが、乳製品の国際価格の上
昇に伴う乳価上昇によって生産が刺激され、後半は10%を超える高い伸びを示
した。特に豪州南部に位置するビクトリア州およびタスマニア州の加工乳地帯の
伸びが天候にも恵まれ顕著であった。一方、酪農経営を見ても乳価上昇、生産拡
大によって大幅な収益性の向上が見込まれている。

4.明るい酪農産業の展望(NZ)
 好調な酪農品の国際市況に支えられ、NZ酪農は、飼養頭数、戸数、一戸当た
り規模の3拍子揃った増加が見られる。95/96年度は、生産量(乳固形分ベース)
、乳価はそれぞれ、78万8千トン、4ドルと史上最高となり、これを反映し、
酪農経営は大幅な所得拡大が見込まれている。生産量は、96/97年度はさらに3
%の増加が見通され、酪農産業の展望は明るいが、その一方で、酪農ブームは酪
農場価格の高騰を生み、これが酪農の更なる拡大を阻害する要因となる可能性も
生じてきている。

5.O−157が牛肉輸出に大きなダメージ(豪州)
 日本での「O−157」食中毒の影響による牛肉消費の停滞は、豪州からの対
日牛肉輸出にも大きな打撃を与えた。8〜10月の月別輸出量は、前年同月に比
較してそれぞれ35%、38%、19%という大幅な減少となった。対日輸出量
が全生産量の4分の1強を占めるという日本市場への依存度が高い生産構造から、
日本市場での食中毒事件は遠い豪州の牛肉産業にとっても死活問題となることが
浮き彫りになるとともに、食肉の安全性保証の重要性がこれまで以上に強く認識
されることにもなった。

6.アジア向け農産物輸出の強化委員会が発足(豪州)
 豪州連邦政府は、9月にアジア諸国への農産物輸出強化を図るための委員会を
発足させた。ハワード首相を代表とするこの委員会は「豪州をアジアのスーパー
マーケットに」をスローガンに官民一体となってアジア向け農産物の輸出促進に
取り組むこととなった。同委員会では、輸出農産物の品質向上と安定供給、生産
・加工・流通の各段階のコスト削減による競争力強化、輸入相手国のアクセス改
善、需要動向に関する情報収集と市場分析などを当面の課題としている。

7.減少の続くフィードロット飼養頭数(豪州)
 対日輸出を中心に拡大を続けてきた豪州のフィードロットも、95年来の日本
市場での米国との競争激化、豪ドル高、飼料穀物高などから厳しい状況にあり、
飼養頭数は95年後半以降大幅な減少を続けている。9月末の頭数は約32万7
千頭と95年12月末に比較して約3割減となった。日本市場への依存度が約7
割を占めることから、日本からの需要の拡大時には素牛の見込み導入が可能であ
ったが、現在では、日本からの購入契約が前提となる「受注生産」的な産業形態
となりつつある。

8.進む農産物の品質保証(QA)の動き(豪州)
 農産物の輸出大国である豪州では、国際市場での競争力と利益確保の手段とし
て、品質保証(QA)システムの導入が急ピッチで進められており、既に、牛肉
に関しては、その生産から加工までの各段階で、特に安全性に重点を置いた危害
分析重要管理点監視(HACCP)/QAシステムが構築され、さらに最近、「
おいしさ」を保証するためのシステム開発が開始された。このほかにも、羊毛、
羊肉をはじめとする主要畜産物はすべて、また、畜産物と並ぶ重要な輸出農産物
である小麦にも、HACCP/QAシステムの導入が進められている。

9.鶏肉輸入解禁に激しい抵抗(豪州)
 豪州は検疫上の理由から鶏肉の輸入を禁止しているが、既に輸入禁止の科学的 
根拠がないとされた加熱調理鶏肉について、5月末にアンダーソン大臣が輸入解
禁の方針を示すと、養鶏産業関係者、関係議員が一斉に反発し、大きな政治問題
となった。結論の引き延ばしで事態の収拾は図られたが、農産物輸出大国として
貿易自由化推進の旗手である豪州にも、非関税障壁で保護された産業という「す
ねに傷」があり、連邦政府は関係者の権益保護にも頭を悩ませなければならない
問題点をさらけ出した。

10.96/97年度の加工乳価引き下げ(豪州)
 95/96年度の加工乳価は、昨年末に乳製品の国際価格が急騰したため前年
度より30%も上昇した。今年に入り乳製品需給は緩和基調、豪ドルも強含みで
推移したため、大手乳業メーカーは96/97年度当初の加工乳価を9%程度引
き下げた。しかしながら、引き下げ後の乳価でも2年前のレベルよりかなり高く、
依然として酪農家の生産を刺激する価格水準となっている。なお、ニュージーラ
ンドの生産者乳価も10%程度の低下が見込まれている。

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