ALIC/WEEKLY


デンバー駐在員事務所 【堀口 明、藤野 哲也】


1.農業法、予定を大幅に遅れて成立
 3月下旬に上下両院を通過した96年農業法案は大統領府に送付され、クリン
トン大統領は、4月4日に法案に署名を行った。これにより、96年連邦農業改
良・改革法(Federal Agriculture Improvement and Reform Act of 1996)が当
初の予定を大幅に遅れて成立した。96年農業法は、60年間にわたって米国の
農業政策の中心とされてきた不足払い制度や減反政策などを廃止するなど、今後
の米国の農業生産に大きな影響を与える改革内容を含んだものである。

2.大統領、食肉検査制度改革を発表
 クリントン大統領は、7月、従来の検査官の視覚と臭覚に頼った食肉検査制度
に代えて、科学的な方法を取り入れた食肉検査制度改革の実施を発表した。HA
CCP制度を取り入れた食肉加工処理の実施、一般大腸菌やサルモネラ菌検査の
実施、衛生管理基準の策定と励行などが具体的な内容となっている。HACCP
制度の導入などの制度改革の実施は、小規模企業に対する配慮から西暦2000
年1月までに段階的に実施されることになっている。

3.USDA、パッカー寡占化問題を報告
 米国農務省(USDA)が実施した食肉加工処理企業(パッカー)の寡占化問
題についての調査は、肉牛価格低落がパッカーの寡占化による市場支配と関係が
あるとする肉牛生産者の主張を背景として実施された。96年2月と6月に示さ
れた報告では、価格低落が、直接、寡占化の結果によるものであるとの結論は示
されず、生産者としては不満の残るものであった。USDAは、公正な取引を確
保するため、肉牛取り引きに関するさまざまな取引情報を公表する計画を進めて
いる。

4.USDAも慎重なBSE対応
 96年3月下旬、イギリス政府がBSEとヒトが発病するクロイツフェルト・
ヤコブ病(CJD)との関連性を認める発表を行った後、米国においてもこの問
題は大きく報道された。USDAは、89年以降イギリスからの生体牛および輸
入は行われていないことやそれ以前に繁殖用として輸入された肉牛については定
期的に検査が行われていることなどを説明し、米国にBSEが存在しない旨の声
明を行った。また、加工処理工場で牛のと体検査を担当する食品安全検査局(F
SIS)のBSE検査体制を強化するなど、慎重なBSE対策が実施された。

5.大統領、干ばつ被害に非常事態宣言
 95年の飼料穀物の不作による在庫率の低下などから、96年の夏は、シカゴ
の商品取引所でトウモロコシの先物相場が1ブッシェル当たり5ドルを超えると
いう高値も記録され、畜産経営は生産コスト上昇による経営圧迫に見舞われた。
特にこの時期、南西部の畜産農家では干ばつによる飼料穀物生産の被害もあり、
経営は更に苦しい状況となった。クリントン大統領は、7月初め、この地域に非
常事態の宣言を行い、政府保有の飼料穀物の放出や環境保全対象地における放牧
・採草の許可などの支援対策を講じた。

6.紛争処理パネル、カナダを支持
 カナダの乳製品や鶏肉などの農産物の輸入の際に課せられている300%前後
に上る関税が、北米自由貿易協定(NAFTA)に違反するものであるとの米国
の訴えにより設置された紛争処理パネルは、5人の委員が全員一致でカナダの現
行輸入制度を認める裁定を下した。USDAと米国通商代表部(USTR)は共
同声明を発表し、裁定の不当性を主張するとともに、引き続き問題解決に取り組
む姿勢を表明した。

7.USDA、オーダー地域統合案を提示
 生乳の用途別最低価格やプール乳価による支払いなどを定めた連邦ミルク・マ
ーケティング・オーダー制度の対象地域は、96年農業法により、3年以内に現
在の32から10〜14地域に整理・統合することが定められた。USDAは、
12月の初めにオーダー地域を10地域とする検討案を提示し、関係者の意見を
求める旨の発表を行った。オーダー地域の統合は、生産者の受け取り乳価に大き
な影響があるだけに、今後の活発な論議が予想される。

8.家きん肉貿易問題、米露間で合意
 ロシア政府は96年2月、衛生問題を理由として米国産家きん肉の輸入禁止の
発表を行った。米国にとってロシアは最大の家きん肉輸出市場であり、この措置
が実施された場合、その影響には非常に大きなものがあったと考えられる。ゴア
副大統領が直接交渉に当たるなどの取り組みにより、輸入禁止措置を発動しない
ことで米露間に合意が成立した。米国側では、今回のロシアの輸入禁止の試みの
背景には、国内生産を脅かす程の急激な家きん肉輸入の増大に対し、ロシア国内
の生産者を保護したいとの意図があったとも考えられている。

9.企業養豚、経営規模を拡大
 ブロイラー産業ともにインテグレーションの進展する米国の養豚産業は、と畜
処理能力や養豚生産規模の上位企業・経営において規模拡大が続いている。これ
らの企業・経営がノースカロライナ州をアイオワ州に続く全米第2位の養豚生産
州に押し上げた原動力であったといえる。これらの企業・経営は、今後更に、規
模拡大を図るため、環境規制、労働力確保、飼料調達といった観点からイリノイ
州、カンサス州、コロラド州、オクラホマ州、ユタ州といった新天地に経営展開
を図ろうとしている。

10.肉牛関係新団体成立
 全国肉牛生産者協議会(NCA)は、96年1月の年次総会において、牛肉の
消費促進活動を行う牛肉協議会(BIC)との統合による新団体設立を決定し、
全国肉牛生産者・牛肉協議会(NCBA)が発足した。統合の検討過程において
は、会費収入によるロビー活動と法律制度である需要促進事業(チェックオフ事
業)との混同に対する懸念から、反対運動も展開された。NCBAは、二つの活
動を明確に区分しつつ、効率的に活動するとしている。

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