LIPC WEEKLY


2000年以降の生乳生産クオータ制度


【ブラッセル駐在員 池田 一樹 10月17日発】 EU委員会は、共通農業
政策(CAP)の酪農分野の改革案を来年に提出することとしている。この端緒
として、9月末に開催されたEU非公式農相会議で、2000年以降の生乳生産
割当(クオータ)制度の方向をめぐって意見交換が行われた。各国の態度はクオ
ータ廃止からクオータの増枠までさまざまである。

 非公式農相会議では、「酪農分野に注目した次期貿易交渉におけるCAPのオ
プションについて」(ダブリン大学Sheehy教授)と題された論文を基に意見交換
がなされた。

 この論文では、次期世界貿易機関(WTO)農業交渉では、関税水準のさらな
る低下が見込まれ、域内農産物価格の低下を招くとしたうえで、将来のクオータ
制度の選択肢と考察が次のように掲げられている。 

  まず、クオータ制度を維持し、同時に価格の維持も行うといった選択について
は、今後の関税水準の低下を考慮すると、可能性が低いとしている。ただし、輸
出補助金の引き下げを一層進め、貿易の自由化を推進する一方で、関税水準の維
持により域内価格の保護を図るといった選択肢も考えられるとしている。

  次に、クオータ制度は維持するが、価格の低下を伴うといった選択である。価
格水準の引き下げは生産者価格に波及するため、クオータ制度を維持しようとす
る場合の最も現実的な見方としている。ただし、価格の低下は消費増を招くこと
から、補助金付き輸出の減少および市場アクセスが増加しても、クオータ生産量
は維持可能としている。

  さらに、クオータを二段階に区分し、新たに輸出補助金を伴なわないクオータ
の設置の可能性を挙げているが、こういったクオータの設置に当たっては、補助
金付き輸出に悪影響を与えないような管理が必要であるとしている。

  最後にクオータ制度の廃止を挙げている。クオータ制度廃止の場合には、生乳
生産の急増が予想されることから、この防止のため少なくとも−15%程度の大
幅な価格低下が必要としている。価格の急激な低下は生産者にとっては重大な問
題であるため、補償措置は重要な検討課題であるが、一方、酪農への自由な参入
が可能となることは利点であるとしている。

  さらに、これらの選択肢のうち、EUの拡大を考慮すると、新たな加盟国にク
オータを課すこともなく、また、補償措置を付与することもないことから、クオ
ータの廃止が最も整合性の取れる措置としている。

  非公式首脳会議での各国の態度はさまざまであったと伝えられている。オラン
ダ、ベルギーおよびフィンランドは、クオータ制度の維持/価格の低下に好意的
であり、イギリス、スウェーデン、デンマークは、生産者に対して補償措置が取
られるならば、現在のような生産権を廃止して、市場志向型制度への移行に好意
的であった。また、デンマークは、補助金を伴わない輸出専用クオータの設置に
ついても好意的であった。フランスは、検討を行うのは時期尚早であるとしなが
らも、改革に当たっては、生産者の所得が補償される必要性を述べている。なお、
イタリア、スペインはクオータの増枠を求めている。

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