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99年の10大ニュース ブラッセル駐在員事務所 【島森 宏夫、井田 俊二】


1.共通農業政策改革の決定
 EU首脳会議において3月26日、2000年以降の共通農業政策(CAP)改革
案が承認された。牛肉分野については、2000〜1年度にかけて介入買い上げ価格
が引き下げられるとともに、2002年度以降民間在庫補助が実施されることとなっ
た。酪農分野では、2005〜7年度にかけてバターおよび脱脂粉乳の介入買い上げ
価格の引き下げ、生乳生産枠の増加(一部の国では2000〜1年度に増加)が行わ
れるとともに、酪農奨励金が新設されることとなった。なお、EUは、このCAP改
革の実行確保に不可欠な青の政策(ブルーボックス)の継続等を次期世界貿易機関
(WTO)交渉の重点事項にしている。

2.ベルギーで畜産物のダイオキシン汚染が発生
 ベルギー政府は5月28日、同国産の鶏肉・鶏卵から大量のダイオキシンが検出さ
れたと発表し、それらの小売店における販売が中止された。その後、汚染が豚肉、牛
肉、乳製品まで広がっている恐れがあるとして、当該畜産物の販売も中止された。ま
た、畜産物の輸出にも大きな影響が出た。今回のダイオキシン汚染の原因は、家畜飼
料原料の再生油に混入した変圧器用の工業油とみられている。汚染は1月に発生した
が、ベルギー政府の公表までかなりの時間が経過していたことから、問題が長期化、
深刻化した。本件により飼料の安全対策の重要性が改めて認識された。

3.イギリス産牛肉の輸出再開
 EU委員会は、96年3月以来禁止されていたイギリス産牛肉の輸出を99年8月
1日から解禁した。解禁されたのは、科学的に見て牛海綿状脳症(BSE)汚染の恐
れのない「生年月日に基づく輸出措置(DBES)」に基づく牛肉である。ただし、
EU加盟国のうち、フランス、ドイツは現在も同国産牛肉の輸入を禁止し、イギリス
との紛争を引き起こすとともに、EU規則違反として、EU委員会による欧州裁判所
への提訴に向けた手続きが開始されている。EU域外でも、輸入禁止を継続している
国は多く、一度失った食品の安全性に関する信用回復には多大な努力、時間が必要と
されている。

4.ホルモン牛肉の輸入禁止継続
 EUでは、成長促進剤としての家畜に対するホルモン使用を禁止しており、同ホル
モンを使用した牛肉の輸入も禁止している。この輸入禁止については、WTOにより、
衛生植物検疫(SPS)協定違反との裁定が昨年2月に下されたが、同協定に沿った
改善勧告を受け入れなかった。これに対し、米国、カナダはそれぞれ、本年7月29
日、8月1日からEU産の食肉製品等に対し100%の報復関税を適用する制裁措置
を開始した。なお、EUはホルモン非使用牛肉についての輸入は認めているが、米国
の輸出管理が不十分であるとしてその強化を求めている。

5.豚肉の生産増、供給過剰で価格低迷
 97年にオランダで大規模な豚コレラが発生し、一時的に価格が急騰した結果、そ
の後の域内豚肉生産が拡大した。これにEU最大の豚肉輸出相手国であるロシアの経
済危機の影響が加わり、豚肉の供給過剰が深刻化し、98年後半以降、記録的な安値
が継続した。99年7月以降はベルギーにおけるダイオキシン汚染の影響および繁殖
雌豚のとう汰進行により価格が回復傾向にあり、98年9月から開始された民間在庫
補助は99年9月に発動解除された。ただし、現在も豚肉生産量は依然高水準で、需
給バランスの回復については予断を許さない状況にある。

6.オーガニック畜産物生産基準の制定
 EU農相理事会は7月19日、オーガニック畜産物に関する生産基準を決定した。
これまでEUにおいては、91年にオーガニック農産物の生産基準が定められ、畜産
物の基準については96年から検討されてきた。同基準の内容の抜粋は次の通り。飼
料は遺伝子組み換え飼料の使用は認めない。子牛の飼料は最低3ヵ月間牛乳を基本と
する。人工授精は認めるが受精卵移植は認めない。鶏のと鳥日齢は81日齢以上とす
る。家畜ふん尿の農地への年間窒素還元量は1ヘクタール当たり170kg以下とす
る。このほかに、動物愛護に配慮した家畜1頭当たりの最低床面積を含む畜舎の基準
等が定められた。  

7.BST使用禁止の延長
 EU委員会は10月26日、EU域内で乳牛向けに販売・使用が禁止されている牛
ソマトトロピン(BST)について、2000年1月以降も禁止を継続することを提
案した。これまで、EUでは90年からBSTの販売・使用が禁止されており、その
期限は99年末までとされている。今回の提案では、禁止期限は定められておらず、
提案が認められると今後は永続的な使用禁止措置がとられることとなる。BSTは乳
牛に投与すると乳量が増加する効果があるホルモンで、米国などで使用されている。
しかし、乳房炎の発生、四肢障害の増加等が指摘されており、動物の健康・愛護のた
めに今回の提案が行われた。

8.遺伝子組み換え食品の表示に追加基準
 EUの食品に関する常設委員会は、10月21日、遺伝子組み換え食品および食品
原料(GM食品等)の表示に関する追加基準案を採択した。現行のGM食品等の表示
規則では、遺伝子組み換えによるたんぱく質またはDNAを含む食品等に対してGM
食品等である旨の表示が義務付けられていたが、偶発的な混入に対する表示基準がな
かった。今回の決定では、非GM食品は、製造者が食品等の原料としてGM作物また
は食品等の使用を避けたことを証明でき、さらに、偶発的に存在するGM作物または
食品等の含有量が各原料ごとにおいて1%以下であることとされた。それ以外はGM
食品等である旨表示する必要がある。
 
9.ユーロの導入
 99年1月から、EU加盟国のうち、イギリス、デンマーク、スウェーデン、ギリ
シャを除く11ヵ国でEUの単一通貨ユーロが導入された。ユーロを基準にするCA
Pの補助金交付でも、各国通貨へ定率で換算されることとなった。ただし、移行に際
して、各国通貨建ての実質補助水準の低下に対しては、生産者などの所得を補償する
仕組みが導入された。なお、実際にユーロ紙幣や硬貨の流通が始まるのは2002年
1月で、同年7月までに各国通貨が回収されて、ユーロのみの使用に移行する予定で
ある。また、現在、ユーロは対ドル、対円相場において年初に比べかなり低下してお
り、今後の動向が注目される。

10.EU委員会の総辞職と新体制発足
 EU委員会のサンテール委員長は、3月16日、同委員長を含む20人の委員の総
辞職を発表した。欧州議会では1月に、96年の予算不正執行に対して委員不信任案
が出されたが否決された。その後、法律の専門家による独立専門委員会が発足し、そ
の調査報告書が3月15日に発表されたのを受けて今回の総辞職が決断された。同報
告では、EU委員自らが予算の不正執行を行った事実は認められないとしたが、EU
委員およびEU委員会全体の監督責任が指摘された。欧州議会は9月15日、プロデ
ィ委員長以下20人の新委員会を承認した。同委員会の任期は、今後5年間、200
5年1月までとされている。



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