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環境保全に影響を及ぼす集約的な家畜生産



【ブラッセル駐在員 井田 俊二 9月9日発】EU統計局(EUROSTAT)およびE
U委員会(農業総局および環境総局)は、EUにおける農業と環境保全の関連性に
関する報告を公表した。この報告は、今後農業が環境に及ぼす影響を評価、監視す
る上で、適切な指標を確立するための検討材料として統計等を提供している。

 現在のEUにおける農業に関連した環境保全施策は、環境総局および農業総局で
並行して実施している。農業施策面では、持続可能な農業を目標とし、92年の共
通農業政策(CAP)改革以降、環境保全に配慮した農業施策が強く打ち出されて
いる。

 この報告では、近年20年間(75〜95年)におけるEUの畜産の変遷と環境
に及ぼす影響について次の通り言及している。

 EUにおける畜産は、依然として主要な位置を占めているが、生産構造面で変化
が見られる。それは、特にEUの中・北部加盟国を中心に、小規模で粗放的な経営
から集約的かつ専業化した形態の経営に変化している。さらに、家畜飼料の改善等
が進展した結果、畜産物生産量の増加および生産性の向上が図られた。しかしなが
ら、この結果、大気および土壌等に対する環境保全面で新たな負荷をもたらしたと
指摘している。

 畜種別に見ると、牛生産では、飼養戸数が減少した結果、1戸当たりの飼養頭数
が少なくとも2倍に拡大した。一方、農地面積は減少したが、単位面積当たりの飼
養頭数は大きな変化がみられない。これは、84年から導入された生乳クォータ制
度などの影響がある。クォータ制度は、制度導入後の酪農生産構造および環境保全
に大きな影響を及ぼしている。専業農家の比率は約5割である。

 豚生産では、20年間で飼養頭数は増加する一方、飼養戸数が70%減少した結
果、1戸当たりの飼養頭数は大幅に増加した。特に、ベルギー、デンマーク、アイ
ルランド、オランダおよびイギリスでは、1戸当たり平均飼養頭数が500頭以上
となっている。95年の専業養豚農家の比率は、6%と低いが、20年間で5〜8
倍に増加した。単位面積当たりの飼養頭数はオランダが最も大きく、続いてベルギ
ーである。

 鶏生産では、20年間で飼養羽数は採卵鶏で減少する一方、肉鶏は増加した。ま
た、飼養戸数は20年間で3分の2以上減少している。専業養鶏農家の比率は他の
畜種と比べて最も低い。

 家畜生産が環境へ及ぼす影響の指標として、農地1ヘクタール当たりの家畜単位
を挙げている。ただし、環境への負荷は畜種により性質が異なることに留意する必
要がある。また、家畜単位は、国家レベルでは適切な状況把握が不十分であること
から地域レベルで検討する必要がある。なぜならば、家畜の過密飼養は一様でない
ので、環境への負荷をより正確に把握するため、地域レベルの家畜単位の測定が必
要であると指摘している。


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