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EUの東方拡大と欧州農業政策の行方


【ブラッセル駐在員 山田 理 7月27日発】現在、チェコやハンガリーをはじ
め中東欧などの13ヵ国がEUへの加盟を申請している。これが実現すれば、EUの
域内総生産(GDP)は米国に匹敵する規模にまで拡大する。しかし、加盟国数が
倍増するだけでなく、かつてないほど経済力の大きく異なる国々を抱えこむことに
もなり、東方拡大後のEUのあり方については、多くの議論を呼んでいる。

 農業分野でも、EU域内の単一市場を大前提とする現行の共通農業政策(CAP)
が、新加盟国に対してどのように適用されるか明確にされていない。加盟交渉国の
ほとんどが農業国であることから、農業関係者の強い関心を集めている。

 こうした中、EU委員会のフィシュラー委員(農業/農村開発/漁業担当)は7
月10日、EUレベルの農業団体の連合組織である欧州農業組織委員会(COPA)
などが主催したセミナーにおいて、「EUの拡大―農業分野における挑戦と見通し」
と題した講演を行った。同委員はこの中で、農業分野の懸案事項について現時点で
の見解を明らかにしている。講演の概要は、以下の通り。

(貿易問題)
 今年7月から加盟交渉国のうち、ポーランドを除く中東欧9ヵ国との間で、豚肉、
鶏肉、チーズなど多くの農畜産物について、輸出補助金や輸入関税が相互に撤廃さ
れた。これは、農産物の自由化(輸出入に係る関税、輸出補助金などの相互撤廃、
いわゆる「ダブル・ゼロ」)に関する合意に基づくものである。この結果、中東欧
からEUへの農産品輸出額に占める自由化品目の割合は37%から77%に、EUから
中東欧へは20%から37%に増加することとなった。「関税などの撤廃を加盟まで遅
らせることは無用な混乱を招く」とし、加盟交渉の後期には「CAPによる価格支
持品目も対象に含めていく」可能性を示唆した。

 また、加盟交渉国の公衆衛生・家畜衛生に関する基準をEU並みに引き上げるこ
との重要性に言及し、「将来の単一市場形成のために必要なだけではなく、中東欧
にも利益をもたらすものである」と述べた。

(生産枠:クオータ)
 生乳などの生産枠(クオータ)の設定に関しては、「多くの加盟交渉国が現行の
生産量に比べて過大なクオータを要求している」と指摘した。このクオータ算定の
根拠とした「社会主義体制下での計画生産に基づいた80年代の生産量」または「将
来における生産能力」を用いることは困難であり、EUとしては「需要に適合し、
かつ、生産を刺激しないクオータ算定」を目指していると表明した。

(直接支払い)
 加盟交渉国が直接支払いに関して、既加盟国と同様の取り扱いを求めていること
について、「公正かつ平等な取り扱いがなければ、それはCAPではない。新旧を
含めたすべての加盟国は公正に扱われる」と明言した。

 しかし、考慮すべき点として、「農家に対する直接支払いが同地域の工業労働者
の収入を上回るようなものであれば、現在加盟交渉国が進めている社会改革を妨げ
かねず、適当とは考えられない」と指摘し、農村開発には直接支払いよりも構造改
革への支援がより有効であるとの見解を示した。


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