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牛乳の卸・小売り販売競争がし烈化



【シドニー駐在員 野村 俊夫 8月23日発】7月1日から飲用向け生乳の取引
が自由化された豪州で、8月16日、国内最大のスーパーマーケットチェーンが、
飲用乳メーカーとの供給契約の更新を機にプライベートブランド(PB)牛乳の小
売価格の大幅な引き下げを実施した。これにより、飲用乳メーカーの勢力地図が塗
り替えられ、さらにメーカーブランド牛乳の販売にも圧力がかかるなど、各方面に
多大な影響が及ぶとみられており、業界再編の第一歩として大いに注目されている。

 豪州国内の食料品小売市場は、3大スーパーマーケットチェーンが全販売額の約
80%を占めるほど寡占化されているが、今回、牛乳の大幅値下げを実施したのは、
その中でも最大の販売網を持つウールワース社である。

 同社は、PB牛乳に係る飲用乳メーカーとの供給契約が更新時期を迎えたことを
契機に、先般、入札を実施して新たな取引相手先を選定した。

 豪州の飲用乳メーカーは、ニューサウスウェールズ(NSW)州を基盤とする協
同組合デイリーファーマーズ社、ビクトリア(VIC)州の地元資本ナショナルフ
ーズ社、クインズランド(QLD)州に進出したイタリア資本パーマラット社の3
社が突出しているが、ウールワース社が州別に行った入札の結果、VIC州、QL
D州ともにデイリーファーマーズ社が落札し、ナショナルフーズ社およびパーマラ
ット社はそれぞれ地元州における供給契約を失った。

 全牛乳販売に占めるスーパーPB牛乳のシェアは、VIC州で15%、QLD州で
は30%に達しており、今回の契約更新は飲用乳メーカーの勢力地図を大きく塗り替
えた。このため、3社中、唯一の上場企業であるナショナルフーズ社の株価は急落
し、パーマラット社も豪州に本格進出した2年前の多額の投資が問題視され、いず
れも今後の動向が注目される事態になった。

 一方、新規契約を獲得したデイリーファーマーズ社も、安値で強引に落札したこ
とについて、傘下の組合員から痛烈な批判を浴びている。落札価格は公表されてい
ないものの、安値落札のつけは最終的に組合員に回されるほか、採算が疑問視され
る事業拡大は企業評価(組合資産)を低下させるためである。

 今回の一件は、大手スーパーの市場支配力の強さを改めて見せつけた。ウールワ
ースは、PB牛乳の小売価格を最大27豪セント/リットル(約17円:1豪ドル=
約64円)もカットしたが、他の大手スーパーも直ちに同額の値下げで対抗した。こ
れにより、PB牛乳とメーカーブランド牛乳の価格差が広がったため、メーカー側
は苦しい立場に置かれることになった。

 今回の件に最も憤慨しているのは酪農生産者である。飲用向け乳価は既に自由化
前の6〜7割の水準に下落しているが、今後、さらに値下げ圧力がかかるのは必至
とみられるからである。豪州では、酪農乳業制度改革による業界再編の第一歩が記
されたと言えよう。


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