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フィリピン、豪州と肉牛・酪農技術協力を推進


【シンガポール駐在員 宮本 敏行 12月7日発】フィリピンのアンガラ農業長官
は11月16日、豪州の北部準州との間で、肉牛と酪農の技術協力に関する議定書に調
印したと発表した。豪州が衛生上の理由でフィリピン産果実の輸入を禁止したこと
に対し、フィリピンが豪州産肥育素牛の輸入に制限を加えたことで歪みが生じた両
国関係の是正に先べんを着けるものとして、この技術協力は関係者の注目を集めて
いる。

 この技術協力は、主にフィリピンにおける小規模畜産農家に対する補助および豪
州からの生体牛輸入の強化を狙っており、北部準州は@小規模肥育農家に関する事
業、A牛肉の規格に関する事業、B豪州産肥育素牛の導入拡大に関する事業、C小
規模酪農の発展に関する事業の4分野をサポートすることとなっている。

 このうち、同農業長官は@を通して、良好な肉牛生産を可能にするとともに小規
模飼養農家の収入増を図り、就労機会の増加によって農村地域社会の安定を目指す
としている。また、Aでは、豪州の食肉格付け技術を生かし、フィードロットやと
畜場、流通過程における肉牛および牛肉の規格を確立することを目的としており、
フィリピンの現行システム把握のため、近々、豪州から専門家が派遣される。Bで
は、フィリピンの流通部門が要求する肥育牛の仕上げ体重での出荷を達成するため、
豪州、フィリピン双方の肥育システムを一貫して監視する体制が敷かれる。さらに、
Cでは、立ち遅れているフィリピンの酪農振興のため、北部準州から一定頭数の乳
用牛が貸し出される予定となっている。

 フィリピンは先般、生体牛輸入を毎年、前年比20%削減するという豪州への対抗
措置を同5%削減に緩和し、口蹄疫の清浄化が進む重要畜産地域であるミンダナオ
島への2万5千頭の追加輸入を許可したばかりである。しかし、その後も肥育素牛
の不足による牛肉価格の高騰から、肉牛生産者や消費者からは、輸入制限の撤廃を
求める声が日増しに高くなっている。

 農業省統計局によると、首都マニラにおける11月の牛肉価格は1kg当たり150〜1
60ペソ(約360〜384円:1ペソ=2.4円)で、昨年の平均価格と比較すると、20〜28
%もの大幅な上昇が見られている。アンガラ農業長官は、5%削減措置を、豪州が
フィリピン産果実の輸入を解禁するとみられる2年後まで継続すると明言している
が、輸入制限の完全撤廃を求める声の高まりを受け、政府筋は来年にもこれを解除
することをにおわせている。

 一方、豪州の肉牛業界にとっても、フィリピンの輸入制限措置が長引くことは大
きな痛手となる。北部準州の州都ダーウィンは、豪州随一の生体牛積み出し港とし
て知られ、肉牛生産者をはじめ、東南アジア向け生体牛に関係する仕事に携わる人
々も多い。在フィリピン豪州大使館は、今回の技術協力が両国間の農産物貿易をめ
ぐる確執が生じる以前に計画されていたとし、フィリピンの輸入制限撤廃との関係
を否定しているが、フィリピン産果実の輸入解禁が直ちに見込めない現在、豪州が
技術協力という懐柔策を持ち出してきたとする見方も強い。この協力関係が、フィ
リピンの豪州産生体牛の輸入制限撤廃への追い風となるのか、今後の展開に注目し
たい。


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