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インドネシア、肥育素牛の海外依存脱却の試み



【シンガポール駐在員 宮本 敏行 5月25日発】インドネシアで、肉牛産業の
強化に向けた取り組みが始まっている。同国の98年における牛肉の自給率は、約98
%と極めて高水準にあるが、同国の牛は役牛としての位置付けが高く、牛肉生産の
ための肥育素牛の供給は、豪州などからの輸入に大きく依存している。

 同国の98年の1人当たり牛肉消費量は約2kgで、97年後半から深刻な経済危機に
見舞われながらも、増加基調が続いている。牛総飼養頭数の約4分の1を占める西
ジャワ州の飼養状況について見ると、99年(速報値)は肉用牛が341万頭、乳牛が13
万頭、水牛が15万頭で、全体では369万頭となっている。これを95年と比較すると、
それぞれ3.2%増、19.3%増、4.3%減で、水牛が減少傾向にあるものの全体では3.4
%の増頭となった。

 こうした牛肉消費の増加を背景に、インドネシア政府は2005年までに、肥育素牛
の輸入を削減する一方、国内での肉牛生産を増加させるという計画を策定した。本
計画の骨子は、2001年から2005年までの期間に、肥育素牛の輸入を年間18万1千頭
から59%減の7万4千頭まで削減する一方で肉牛の増頭を図り、国内における牛肉
生産を30万7千トンから51%増の46万4千トンまで増加させるものとなっている。
また、将来的には生体牛や牛肉の輸出も視野に入れるとしている。政府は、畜産品
の輸出額が他の農産品に大きく水を開けられていることを憂慮しており、計画期間
終了後には、生体牛や牛肉が重要な輸出産品に成長することを期待している。

 この計画を遂行するためには、政府の試算で海外からの直接投資も含め、全体で
5兆4千億ルピア(約756億円:100ルピア=約1.4円)の基金が必要とされており、
このうち8割を民間が負担することとしている。残りは政府が負担するが、これは
種雄牛の確保やインフラの整備などに充てられる。

 こうした政府の動きと歩調を合わせ、民間でも牛肉の自給率向上をにらんだ試み
が実行されつつある。インドネシア酪農協同組合連合会はこのほど、全国的な肥育
プログラムに着手した。これは、高まる牛肉需要を満たすため、肉牛の仕上げ体重
を従来の300kgから500kgへと大幅に引き上げるもので、併せて農家の収入増加も狙
ったものである。本計画を推進するため、同連合会は農家が肥育素牛や飼料を購入
するための資金の貸付制度を準備して事業の円滑な遂行に備えている。また、ある
大手銀行は、合計90億ルピア(約1億3千万円)を低金利で貸し付ける用意がある
ことを表明している。同連合会は、西ジャワ州だけでも毎年2万5千頭の子牛の増
加が見込めるため、この肥育プログラムが軌道に乗れば、全国で年間65万トンの
牛肉生産が可能であると算出している。

 インドネシアでは年間160万トンの食肉が消費され、その25%を占める牛肉は重要
な一翼を担っている。輸入素牛に依存しない、真の意味での牛肉自給を目指す同国の
試みに注目したい。


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