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2001年の10大ニュース


【ワシントン駐在員事務所】渡辺 裕一郎、樋口 英俊

1.議会審議が大詰めを迎える次期農業法案(米国)
 米連邦議会では、次期農業法の早期成立を目指し、その法案審議が大詰めを迎え
ている(現行の96年農業法の有効期間は来年9月末まで)。下院では、主要作物に
対する不足払い制度の復活などを盛り込んだ法案が10月5日に同院本会議を通過し
た後、上院でも11月15日、環境保全対策の拡充や価格変動に対応した新たな直接支
払い(Counter-cyclical Payment)の導入などを柱とする別の法案が同委員会で承
認された。現在、上院本会議での採決は秒読み段階を迎えているが、多くの対案や
修正案が出されているほか、上院通過後の両院協議会での調整も難航が予想される
ことから、最終法案の議会通過は年越しとなる可能性が高い。

2.ブッシュ新政権発足により、ベネマン農務長官が就任(米国)
 1月20日のブッシュ新政権(共和党)の発足により、女性初の新農務長官として、
元農務副長官のアン・ベネマン氏が就任した。次期農業法の制定に向けた議会審議
が先行する中、9月19日には、こうした議論のたたき台とも言うべき将来の食料・
農業政策に関する米国政府としての諸原則(principles)を公表。その中で同長官
は、市場指向型で、財政効率がよく、世界貿易機関(WTO)協定にも整合的であ
るべき、という政策の理念を訴えたが、現時点における上下両院の次期農業法案に
対しては、この諸原則が反映されていないなどとして、いずれについても支持しな
い旨を表明している。

3.同時多発テロは食品分野にも影響。バイオセキュリティ対策も強化の方向(米国)
 9月11日の同時多発テロは、減速していた米国経済に大きな打撃を与えるととも
に、食品関連の分野においても、旅客数の減少や家庭内における食事の増加などを
通じ、外食産業における売上の減少や、牛肉よりも安価な豚肉、鶏肉などへの消費
のシフトといった影響をもたらしている。また、バイオテロの発生に備え、食品の
安全性確保や動植物検疫の強化のためのバイオセキュリティ関連法案が議会でも審
議されており、米農務省(USDA)分としては4,500万ドル(約56億円:1ドル
=125円)の追加的対策を行うことが提案されている

4.米農務省、BSEに関する危険性評価報告書を公表(米国)
 USDAは11月30日、米国における牛海綿状脳症(BSE)の発生などに関する
危険性を評価した調査報告書を公表した。この調査は、98年4月にUSDAがハー
バード大学に委託したもので、結論として、米国でBSEの発生する危険性は極め
て低く、また、発生した場合でもその拡大の危険性は限定的なものになるとしてい
る。USDAや米保健社会福祉省食品医薬品局(FDA)は、安全性をさらに高め
るため、今後、サーベイランス対象頭数の拡大、飼料規則の遵守徹底などによる対
策強化を図っていくことを明らかにしている。

5.WTOの新ラウンド交渉に向け、貿易促進権限の取得が目前に(米国)
 米国では12月6日、下院本会議において貿易促進権限(Trade Promotion Autho
rity:TPA)法案が215対214の僅差で可決され、現在、上院での投票を待つばか
りの状況となっている。TPAとは、行政府が議会から与えられる通商協定に関す
る交渉権限のことであり(ファスト・トラック権限と同義)、その早期取得は、W
TOの新ラウンド交渉においてリーダーシップをとりたいブッシュ政権の優先課題
の一つであり、輸出拡大を目指す農業関係団体の多くも、これを支持している。な
お、11月のWTO閣僚会議においては、新ラウンド交渉の開始や、長年の懸案であ
った中国と台湾のWTO加入が決定され、こうした関係団体の輸出拡大への期待も
高まっている。

6.北東部酪農協定の失効に伴う新酪農対策の導入が提案(米国)
 96年農業法に基づいて創設された北東部酪農協定(連邦ミルク・マーケティング
・オーダー制度よりも高い飲用乳価の設定を北東部6州に限って認める制度)は、
9月30日をもって失効したが、上院本会議で審議中の次期農業法案には、バーモン
ト州選出の民主党(上院では多数党)議員の要請により、それに代わる乳価変動対
応型の新たな直接支払い制度が盛り込まれている。しかし、USDAや酪農・乳業
の全国団体からの反発も強く、最終的には、北東部酪農協定の復活に近い結果に落
ち着くのではないかとの見方もある。

7.WTO上級委、カナダの新乳価制度に関するパネル裁定を否定(米国、カナダ)
 WTOの紛争処理小委員会(パネル)は7月5日、99年にWTO協定違反とされ
たカナダのスペシャル・ミルク・クラス制度に代わる新たな乳価制度についても、
申立国である米国とニュージーランドの主張を認め、輸出補助金に該当するとの裁
定を下した。しかし、その後設置された上級委員会は12月3日、パネル裁定を否定
すると同時に、十分な申立事実がないとして、法的な判断を回避した。カナダ政府
はこれを歓迎する声明を出したが、米通商代表部(USTR)は、さらなるパネル
審議を求める意向を明らかにしている。

8.全国的な牛の個体識別制度がスタート(カナダ)
 カナダでは、家畜衛生や食品安全性の問題に備えるため、全国的な牛の個体識別
制度が法的に義務化され、今年1月1日から実施に移された。本制度の運営は、非
営利団体であるカナダ牛個体識別エージェンシー(CCIA)が行い、牛の生産農
家においては、CCIAの承認耳標の牛への装着が義務付けられる。問題が生じた
際には、カナダ食品検査庁(CFIA)がCCIAの管理するデータベースを元に、
発生源を特定できる仕組みとなっている。

9.USDA、豚肉チェックオフ制度の継続を決定(米国)
 USDAは2月28日、豚肉チェックオフ制度の存続を求めて提訴していた全米豚
肉生産者協議会(NPPC)などの要請を受け入れ、同制度を今後も存続させるこ
とで和解したことを明らかにした。本制度は、昨年実施された全体投票(レファレ
ンダム)の結果、いったんは廃止されることが決定されていたものであり、この和
解結果を不服とする本制度の反対団体は、その合憲性を問うための訴訟を起こすな
ど、現在もなお抵抗する姿勢を崩していない。

10.食肉パッカーや乳業メーカーでも大型統合が進展(米国)
 大手スーパーマーケット・チェーンを中心とした川下からのバーゲニング・パワ
ーが高まる中、米国の食肉、乳業関係企業の間でも大規模な買収劇が繰り広げられ
た。まず、世界最大の食肉パッカーであったIBP社をめぐる、タイソン・フーズ
社(全米最大の家きん肉企業)とスミスフィールド・フーズ社(世界最大の豚肉企
業)の駆け引きは、タイソンに軍配が上がり、9月28日に買収が完了。一方のスミ
スフィールドも、大手牛肉パッカー2社を買収。乳業では、全米第2位のスイザ・
フーズ社と第3位のディーン・フーズ社による年内の合併が予定され、また、大型
酪農協のランド・オレイクスによる大手飼料会社ピュリナ・ミルズ社の買収なども
大きなニュースとなった。


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