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中東欧のEU候補国では農業競争力強化が大きな課題


【ブラッセル駐在員 島森 宏夫 11月8日発】EU委員会農業総局は11月6日、
フランスの研究レポート「中東欧のEU加盟候補国の農業・食品分野における競争
力と農業収入の動向」を公表した。同レポートの概要は次のとおりである。

 国ごとに状況は異なるものの、中東欧のEU加盟候補国(以下候補国という)の
多くは、関税による保護や、より低い品質・衛生基準にも関わらず、EU15ヵ国
との農業競争に苦労している。候補国では、一般にEU諸国に比べ土地および労働
生産性が著しく低い。この大きな原因は、投資の低さ、分断された農業構造、非集
約的生産方法によるものである。さらに、畜産による飼料転換効率がEU15ヵ国水
準の約半分と非常に低いことも原因となっている。

 加盟準備に伴い、候補国の農業は大規模農場と準自給自足農業への二極分化が加
速している。農業の低収益性により、この傾向が強まっている。さらにヨーロッパ
型の集約農業に向けた農業再編へのブレーキとなっているのは、過剰労働力(潜在
的非就業者)の吸収という農業の役割および資本獲得の難しさである。潜在的非就
業者問題は、酪農、肉牛生産、養豚などの集約的労働分野に対し、政治的・社会的
圧力をかけている。単一市場における農業再編の推進により、特に準自給自足農業
と旧協同組合農場で、この潜在的非就業者問題が暴露されるであろう。

 加盟後の中期的見通しとして、共通農業政策(CAP)の新加盟国への適用につ
いては、少なくとも移行段階において、直ちに直接支払いの満額支払いを実施する
ことは適当ではない。もしもそうなれば、新加盟国の競争力を現EU15ヵ国並に改
善するのに必要な投資および再編が保証されることなく、現在の二極構造をさらに
加速させることとなるだろう。

 EU加盟後には、EU型の新たな家族による畜産業(小規模な会社農場を含む)
のみが、同様の獣医・衛生基準の下で、単一市場において競争力を持つだろう。準
自給自足農業の再編は遅いだろう。また、大部分の会社による畜産業はその雇用構
造の弱点を克服することはできないだろう。いずれの場合も、再編には相当数の就
業者の流出(削減)が必要になるだろう。

 肉牛および酪農分野では、EUの生産方法・水準に近い農場のみに生産の増加が
見込まれる。肉牛奨励金、繁殖雌牛奨励金なしでは、牛肉生産は牛乳生産(酪農)
の副産物に留まることになるだろう。集中化の進んだ同分野を持つ一部の国(チェ
コ、スロバキア、リトアニア)では生産能力を高めることができるかもしれないが、
全般的には、牛肉・牛乳生産は停滞または縮小するものと見込まれる。家禽分野で
の見通しはもっと有望であるが、養豚分野では価格低下による生産の縮小が見込ま
れる。

 これらの国の農業復興には、農業再編を目的とした諸政策および潜在的就業者の
削減が重要である。農業分野の経済的・社会的適応には比較的長期間が必要であろ
う。その方法としては、商業分野再編のための補助金の増額、大きな動揺を起こさ
ないための直接支払いの段階的・条件付導入、農村からの移出人口を管理する目的
の広範な一連の政策、準自給自足農業のための社会的安全策などが考えられる。 


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