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米農業団体、豪州とのFTA構想に反対を表明


【ワシントン 渡辺 裕一郎 9月6日発】米国・豪州二国間の自由貿易協定(FTA)
構想は、今年4月の電話会談の場で、ハワード豪首相がブッシュ米大統領に話を持
ちかけたのが発端であるとされる。7月末には、構想の実現を支持する旨の豪産業
界の書簡が、ベール豪貿易相からパウエル米国務長官に手交され、来る9月10日に
予定されているの米国での両国首脳会談の席でも、豪首相が本件に対する米大統領
の反応を確認してくるものと見られている。

 豪州側のレポートによれば、FTAが実現すれば、豪州の実質国内総生産(GDP)は、
2010年までに20億米ドル(2,400億円:1ドル=120円)増加し、米国のそれも2006
年までに21億米ドル(2,520億円)増えると見込まれている。さらに、豪州にとっ
ては、米国市場への参入拡大メリットだけでなく、米国からの国内投資の増加も期
待できるとしており、これは重要分野である農業についても同様であるとも指摘し
ている。

 こうした豪州主導の動きに対し、ファーム・ビューロー(AFBF)をはじめとする
米国の主要農業関係34団体は8月23日、豪州における衛生検疫上の貿易障壁が解消
されない限り、米国が豪州とのFTA交渉を行うことには反対するとの連名書簡を米
大統領に提出した。同書簡によれば、現在、米国産の鶏肉、豚肉、粗粒穀物、果実
などが、豪州側の危険性評価プロセスの不備などにより輸出が制限されており、
「こうした問題を残したまま交渉を開始すれば、米国は不公正な貿易障壁に目をつ
ぶるつもりであるというメッセージを送ることになる」としている。

 しかし、このような米国の「輸出国」としての立場だけがその背景としてあるわ
けではない。連名書簡と並行して、全国肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)の米大統領
宛て独自書簡においては、FTAによってライバル国の豪州からの牛肉輸入が増加す
ることが懸念されている。これは、南米の牛肉輸出国を含む米州自由貿易協定(FT
AA)の創設に反対するのと同じ理由によるものであり、米国は、豪州をはじめとす
るケアンズ・グループやFTAA関係国とは、むしろ世界貿易機関(WTO)次期交渉に
おいて、他の輸入国のアクセス改善に向けて共闘すべきであると主張している。ま
た、全国生乳生産者連盟(NMPF)も、NCBAと同様の観点から、米国政府への書簡を
独自に提出している(ちなみに、米国は現在、国境措置として、牛肉、主要乳製品
ともに、豪州などの関係国に対する国別の関税割当制度を適用している)。

 片や、これまでに、自由貿易推進派のボーカス上院財政委員会議長(民主党・モ
ンタナ州)をはじめ、総勢40名程度の超党派議員は、米大統領に対し、豪州やニュ
ージーランド(NZ)とのFTA交渉の開始を要請した。9月4日には、米国の117の企業
・団体からなる財界グループもまた、ゼーリック米通商代表部(USTR)代表への書
簡の中で、FTAに対する支持を表明している。先ごろ、懸案であった豪州・NZとの
輸入ラム肉問題が決着したこともあり、FTAの創設にも一層の期待がかかっている。

 これに対し、米国政府は、貿易促進権限(TPA)の早期取得を目下の優先課題と
する中で、農業分野への配慮から、「時期尚早である」(USTR代表)として、本FT
A構想に対する慎重な構えを見せている。

 なお、米国における豪州との間の農林水産物の貿易額(2000年)を見ると、輸入
が約17億ドルであるのに対し、輸出は約4億ドルと、大幅な入超になっている。


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