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EU、米国産ホルモンフリー牛肉の抽出検査を撤廃


【ブラッセル駐在員 山田 理 2月21日発】EUの常設獣医委員会(SVC)は2
月20日、米国産ホルモンフリー牛肉の輸入に際し課せられていた成長ホルモン残留
に関する抽出検査(約20%)を撤廃するとしたEU委員会提案を採択した。SVC
の承認が得られたことで、EU委員会の正式決定の後、米国産ホルモンフリー牛肉
の輸入に当たっては、その他のEU域外諸国からの輸入牛肉と同様に一般的な残留
物質に関する抽出検査のみが実施されることとなる。

 EUでは、天然型か合成型かを問わず、成長促進剤としてのホルモンの使用を禁
止しており、成長ホルモンを投与した肉牛から生産された牛肉の輸入も89年から禁
止されている。しかし、99年4月、成長ホルモンを投与していないとして輸入され
た米国産牛肉および肝臓について抽出検査を行ったところ、その12%に成長ホルモ
ン(トレンボロン、ゼラノール、メレンゲステロール)の残留が認められ、米国側
のチェック体制が問題となった。この事件を契機として、99年7月以降、米国産ホ
ルモンフリー牛肉の輸入に際しては、成長ホルモン残留に関する全量検査が義務付
けられた。

 その後、@米国のホルモンフリー牛肉に関する輸出検査体制が、SVCによりE
U基準に沿ったものであると認められたこと、A米国産ホルモンフリー牛肉に対す
る全量検査で成長ホルモンの残留が認められなかったことから、2000年9月には、
全量検査から抽出検査(20%)に切り替えられている。

 なお、EUにおけるホルモンフリー牛肉の輸入に関しては、年間1万1,500トン
の輸入枠が設定されており、主に米国やカナダからこの枠内で牛肉が輸入されてい
る。

 米国の牛肉関係業界は、今回のSVCの決定について、「正しい方向へ1歩前進
した」としておおむね好意的に受け止めているものの、ホルモン牛肉をEUに輸出
できない現状には不満を募らせている。

 EUのホルモン牛肉の輸入禁止措置に関しては、世界貿易機関(WTO)により、
衛生植物検疫措置の適用に関する協定(SPS協定)に違反していると裁定された。
しかし、EUは健康を害する恐れがあるとして、その後も輸入禁止を継続している。
これに対し、米国およびカナダは、それぞれ99年7月および8月から、EU産食肉
・食肉製品などに対し100%の報復関税を適用する制裁措置を発動するなど、EU
・米国間のホルモン牛肉をめぐる貿易紛争は、エスカレートしている。今回の米国
産牛肉のホルモン残留に関する抽出検査の撤廃により、米国産ホルモンフリー牛肉
のEUへのアクセスがさらに改善されるとみられる。EUでは、EUが行っている
ホルモン牛肉輸入禁止措置に対して、米国等が実施しているEUへの制裁措置の緩
和に向けて、交渉開始の契機になると期待する向きもある。しかし、食品安全性に
対して敏感な消費者を抱えるEUの事情から見て、ホルモン牛肉の輸入禁止措置解
除は考えられないことから、ホルモン牛肉をめぐる貿易紛争の解決には、まだまだ
時間がかかりそうである。


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