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EU委、CAP中間見直し案を公表


【ブラッセル 山田 理 7月11日発】EU委員会は7月10日、共通農業政策(C
AP)の改革案を公表した。CAPは、農業の生産性向上や農畜産物市場の安定化
を目的に、EU加盟国に対し共通に適用される農業政策として60年代に導入された
もの。CAP導入後、改革がたびたび実施されているが、今回の公表された改革案
は、99年に合意されたアジェンダ2000に基づく現行CAPの中間見直しとして位置
付けられるものである。当初は6月中に公表される予定であったが、米国の新農業
法成立を受けて、その影響を盛り込むために公表が延期されていた。

 改革案の概要は、以下のとおりである。

 @ 直接支払いのデカップリング

   既存の直接支払いから農業生産から切り離された農家単位の直接支払いに変
  更する。交付水準は、過去の各種直接支払い(耕種作物、肉牛、羊等)の受給
  実績を基に設定する。 

 A クロスコンプライアンス

   @の農家単位の直接支払いおよびその他の直接支払いの交付要件として、環
  境、食品安全、動物福祉、労働安全基準などに関する一定条件の遵守を義務付
  ける。

 B モジュレーション

   @の農家単位の直接支払いおよびその他の直接支払いを毎年3%づつ減額
  (小規模農家は除外、最終的な減額は最大20%)する。また、1農家当たりの
  交付上限を30万ユーロ(約3,500万円、1ユーロ=117円)とする。この措置に
  よる余剰財源は、地域開発に資するため、農地面積等を勘案し各加盟国に配分
  する。 

 C 新たな農家監査システムの導入

 D 高品質な農畜産物生産、食品安全、動物福祉を推進するための新たな地域開
  発対策の導入

 改革案の内容は、世界貿易機関(WTO)交渉や中東欧諸国のEU加盟を強く意
識した内容となっている。直接支払いを農業生産から切り離すことで、WTO協定
上、削減が免除された「青の政策」に属する穀物・肉牛に関する直接支払い(92年
CAP改革で導入)を、削減対象とならない「緑の政策」に切り替えることになる。
これは、輸出補助金の取り扱いで守勢に立たざるを得ないEUの立場を幾分でも強
化することにつながるものとみられる。

 また、直接支払いの減額・地域開発の充実は、既加盟国と比較して、所得水準
(特に農業所得)の低い中東欧諸国のEU加盟を念頭においたものである。

 現行CAPと比較した具体的な改革内容を畜産について見てみると、牛肉分野で
は、1頭当たりに単価が設定されていた特別奨励金や繁殖雌牛奨励金などの各種直
接支払いは、@に記述した農家単位の直接支払いに一本化される。

 酪農分野では、今後の議論のたたき台として、以下の4つのオプションが提示さ
れた。@アジェンダ2000に基づく施策を2015年まで延長する、A介入買い上げ価格
の更なる引き下げ(バター▲15%、SMP▲5%)と生乳生産クオータの増枠(3
%)、B2段生乳生産クオータの導入C生乳生産クオータの撤廃と介入買い上げ価
格の引き下げ(▲25%)

 今回の改革案はCAPの中間見直し案とはいえ、かなり大幅な改革提案が含まれ
ていることから、決着までには紆余曲折が予想される。                                                                                                                                  


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