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アイスクリーム市場の寡占化が加速か(タイ)


【シンガポール 小林 誠 5月30日発】食品分野の多国籍企業ユニリーバ社
の子会社であるウォールズ社は、新製品の投入と宣伝費3億バーツ(約9億円:
1バーツ=3円)を投じて、昨年は40%であったアイスクリームの市場シェアを
今年中に46%まで引き上げたいとしている。タイには市場の寡占化・独占化に
対する規制がないため、今後、同国のアイスクリーム市場がますます寡占化の
スピードを早める可能性がある。

 タイのアイスクリーム市場は、96年に総売上高約80億バーツ(約240億円)で
ピークに達した後、97年の通貨危機以降4年連続で縮小を続けてきた。しかし、
2001年には、前年比2%と小幅ながら拡大に転じ、60億バーツ(約180億円)程
度の市場規模となっている。市場調査会社ACニールセンによれば、2001年現在の
アイスクリーム市場のシェアは、ウォールズ社40%、ユナイテッド社10%、ネス
レ社7%となっており、上位3社で市場の6割近くが占められる寡占市場となっ
ている。

 このような状況の下、ウォールズ社(タイ語では「ウォーン」)は、昨年の売
上高が前年比8%増の24億バーツ(約72億円)と全体の伸び率を上回っており、
市場シェアを急速に拡大している。同社では、今年の市場規模を、前年比3〜4%
増の62億バーツ(約186億円)程度とみているが、同社自体の売上高は前年比12〜
14%増の28〜29億バーツ(約84〜87億円)に達するとみている。同社の今年第1四
半期の売上高は、前年同期比15%増の約10億バーツ(約30億円)と好調に推移して
いる。タイは3、4月が1年で最も暑い時期に相当しており、宗教行事でもあるソ
ンクラーン(水かけ祭り)も行われるが、今年は例年に比べて暑い日が続いたため、
アイスクリームの売上げは全般に好調であり、同社の4月の売上高も前年同月比80
%増の大幅な伸びとなっている。

 同社では、シェア拡大のため、現在の国内約10万店の販売網を早急に30万店以上
にまで拡大する意向である。また、現在、同社のソフトクリーム製造機は、バンコ
ク都内を中心に約100台設置されており、1個20バーツ(約60円)で販売されている
が、今年中にこれを500台まで増やす予定である。1個20バーツという現在の価格は、
日本の価格と比較すると安く感じられるが、現地の感覚では、バーミー・ナム(タ
イのラーメン)など庶民の普通の食事1食分に相当する価格であり、かなり高価な
ものと言わざるをえない。

 また、同社では、今回の売上高増加戦略として新製品を投入することを表明してい
る。これによれば、従来のアイスバー、カップアイスの製品に、より高級な製品群を
加えることと、従来のアイスバーのマルチパックが加わることになる。今回、マルチ
パックが販売戦略に加えられたことは、タイの一般家庭にも冷凍冷蔵庫が十分普及し
てきたことを物語っており、従来、一般家庭ではほとんど行われていなかった家庭で
の調理の機会が増え、タイ人の食習慣が変化しつつあることを示唆している。

 タイでは、年間50万トン弱の生乳が生産されているが、ほとんどが学校給食用を主
体とした飲用として消費されており、原料乳製品はほとんどが輸入品となっている。
牛乳・乳製品は同国の伝統的な食文化には含まれていないが、近年、若年層を中心に
その消費が定着してきている。アイスクリームの消費量も、やや高価であることから
経済事情次第の面は残されているものの、今後の増加が期待されており、今後の市場
動向が注目される。



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