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ブッシュ大統領を迎えたワールド・ポーク・エクスポ(米国)


【ワシントン 渡辺 裕一郎 6月13日発】6月6〜8日の3日間、全国豚肉生産
者協議会(NPPC)の主催によるワールド・ポーク・エクスポ(世界豚肉博覧会)が、
アイオワ州デモインで開催された。昨年は、欧州を中心に猛威を振るった口蹄疫の
侵入防止のため開催が見送られたことから、今回が2年振り、通算14回目の開催と
なった。生産から処理、加工、流通、消費に至るまでの豚肉関連の単独のイベント
としては世界最大規模を誇り、今回も、最新の関連機械・資材などの展示会(トレ
ード・ショウ)、消費者や生産者などを対象とした知識普及のための各種セミナー、
純粋種豚のオークション、豚肉の無料試食会など、盛り沢山の催しが行われ、延べ
約4万人の来場者でにぎわった。

 中でも一番の山場は、7日、会場となったステート・フェア・グラウンド内の4
Hクラブの展示場で行われたブッシュ大統領の演説会であろう。当日はあらかじめ
入場整理券が配布され、入場に際しては、セキュリティ・チェックを経た後、星条
旗の小旗が各人に手渡された。そこで待つこと2時間余り、熱気に包まれた約4千
人の聴衆の前に、唐突なファンファーレとともにやっと姿を見せた大統領は、約30
分に及んで熱弁を振るい、何回も場内を大いに沸かせた。

 スピーチは、その前夜のテレビ演説で自ら発表したテロ対策強化のための国土安
全保障省(Department of Homeland Security)創設構想(注)の関係に半分以上
が費やされ、農業問題への言及は限られたテーマに止まった。

 この農業問題に関しては、まず、ちょうど1年前のその日が減税法案に大統領自
身が署名した日であるとして、大規模農業経営にも関係する相続税の恒久的廃止を
うたった法案(下院通過済)の上院での可決を強く促した(しかし、大統領の希望
はかなわず、上院では、翌週の6月12日に否決された)。

 次に大統領は、コーン・ベルトの真中というアイオワ州の地域性にも配慮して、
代替エネルギーであるエタノールやバイオ・ディーゼルなどの利用促進を図るため
のエネルギー法案の必要性も強調。そして、「国家安全保障のためにも、国内需要
以上の食料生産ができるのは必要なことである。供給過剰は問題だが、その場合、
アイオワ産の豚肉は海外市場で売れば良い。(このためには)貿易促進権限(TPA
:ファスト・トラックと同義)が必要である」「豚を育てるのがうまい我々が行う
べきは、世界中に我々の豚を売ってゆくことである」と訴え、養豚関係者などから
は惜しみない拍手が送られた。

 一方、5月13日に成立した新農業法に関しては、意外にも多くを語らず、「私は
良い(good)農業法に署名した。それは、米国の農業者、そして米国自体にとって
も良いものである」などと述べただけであった。

 本エクスポ初の現役大統領による演説が実現したのは、国土安全保障という目下
の最重要政策を喧伝するための恰好の場、そして自身が2000年の選挙で破れた同州
での今年の中間選挙も視野に入れたキャンペーンの場という意味合いが大きかった
のかもしれない。しかし、今年2月の全国肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)の総会と
同様に、一国の大統領を呼べるだけの米国の畜産団体の政治力をまざまざと見せつ
けられたイベントであった。日本の畜産関係者も、もっと自信と誇りを持って良い
のだと、なぜか反対に元気を与えられたような気がした。

(注:本構想においては、米農務省(USDA)の動植物衛生検査局(APHIS)とプラ
ム・アイランドの家畜疾病研究所を国土安全保障省に統合することが明示されてい
るが、食品の安全性確保を担う単一の連邦行政組織の創設を求める声も議会には根
強く、調整には難航が予想される)。


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