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再開されたEU向け高級牛肉の輸出が好調(亜)


【ブエノスアイレス 犬塚 明伸 5月7日発】昨年3月、アルゼンチンで口蹄疫
が発生したため、EUなどは輸入禁止措置を取っていたが、今年2月1日からEU
は最後まで発生がみられた3州を除き輸入を解禁し、その後現在では、全州からの
輸出を認めている。価格の比較的高いEU向け高級牛肉の関税割当枠(ヒルトン枠)
の輸出対象期間は毎年7月から翌年の6月までで、年間割当総量58,100トンのうち
アルゼンチンには28,000トンが割り当てられている。しかし、口蹄疫発生により、
2001年3月〜2002年1月の11カ月間、輸出が停止したことで、2000年枠(対象期間
2000/7〜2001/6のヒルトン枠のことをここでは便宜的に定義する。以下同様。)の
未消化分約10,000トン(アルゼンチン農畜産品衛生事業団(SENASA)の統計
に基づく。)と、2001年枠で消化できないと推測される12,000トンの合計22,000ト
ンを2002年枠に上乗せするよう、2月にアルゼンチン外務省がEU委員会に要請し
た。また、当時農牧水産食糧庁長官であったパウロン氏がEU委員会のフィッシュ
ラー委員と3月に会談した際にも、同様の申し入れを行った。

 この要請を受けフィッシュラー委員は、EU委員会に、「2002年7月から2003年
6月におけるアルゼンチンのヒルトン枠を1年間に限り1万トン拡大すること。」
を3月に提案していたが、4月下旬にEU委員会を通過したとの連絡が外務省に入
り、現在はEU理事会の承認を待つ状況となっている。

 本年2月から再開したヒルトン枠の輸出量は開始月の2月が約1,600トンで、20
00年の月平均約2,200トンの約7割であった。しかしながら、3月には約4,600トン、
4月には約6,700トン(4/30集計時の速報)を輸出しており、2000年におけるひと
月の最高輸出量2,800トンと比較すると、輸出にかなり力を入れていることがうか
がえる。

 また、ヒルトン枠内で輸出される牛肉1kg当たりのFOB価格は、2000年は平均7.2
ドル/kg(約922円:1ドル=128円)であったが、2002年2〜3月は平均3.8ドル/kg
(約486円)となっており、通貨切り下げによる価格競争力が強まっていることや
ヒルトン枠の消化のためにロイン系以外の部位が多く輸出されていることが原因と
なっている。

 アルゼンチン食肉産業協会(AIAC)のサマランコ会長は、価格の高い高級牛
肉の取引量がこのままの傾向を保って推移すれば、国内価格が上昇するとの懸念を
示すとともに、輸出向け融資の停滞や軽油の値上がりに対して農家や運送業者が出
荷・運送ストライキを実施していることで絶対的頭数が不足し今後の輸出、特にE
U向け輸出数量は減少するのではないかとのコメントも出している。

 なお、南米唯一の口蹄疫ワクチン不接種清浄国であるチリは、アルゼンチン産牛
肉の輸入解禁を未だに実施していないが、4月19日にアルゼンチンとチリの南端に
位置し、秋には放牧ができなくなるフエゴ島から、放牧のために北上する子羊がチ
リの国土を通過することを認めるとともに、6月には家畜衛生調査団を派遣し、そ
の結果に基づき解禁交渉を行う予定だとしている。また、EUは5月2日付け決議
338/2002により、アルゼンチンの南緯42度以南(パタゴニア地域)を口蹄疫ワクチ
ン不接種清浄地域とし、骨付き生鮮牛肉・羊肉の輸入解禁措置を決定した。これに
先立って、SENASAは、国際獣疫事務局(OIE)に、南緯42度以南を口蹄疫
ワクチン不接種清浄地域として承認するよう申請しており、5月26日から開催され
るOIE総会で、この申請が承認されれば、アルゼンチンの衛生ステータスは向上
し輸出に係る衛生条件交渉は有利になるものとみられる。しかし、国内を襲うイン
フレなどの経済不況の中、輸出産業の中心となる農畜産業が、どこまで輸出を伸ば
すことができるか、今後の動向が注目されるところである。


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