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新農業法案が両院を通過、いよいよ成立へ(米国)


【ワシントン 渡辺 裕一郎 5月9日発】成立間近の新農業法案について、国内
の主要な農業関係団体の多くがこぞって歓迎の声明を出す中、全国肉牛生産者・牛
肉協会(NCBA)やアメリカ食肉協会(AMI)などは、食肉パッカーによる家畜所有
を禁止する条項が削除されたことについては評価しつつも、食肉の原産地表示義務
化に関しては、事業者における負担増などを懸念し、難色を示している(メキシコ
やカナダから肥育素畜の供給を受けていることが反対の背景にある)。

 このように、本法案の各論にまで目を向けると、必ずしもすべてを支持するわけ
ではないが、これ以上審議が長引けば、せっかく確保された財源がふいになる恐れ
があるため、背に腹はかえられないというのが、大方の農業団体、そして本年11月
の中間選挙を控えて今回賛成票を投じた多くの与野党議員らの偽らざる心境であろ
う。

 下表にもあるように、「市場指向型」をうたった現行の96年農業法からいわば後
退し、国内農業保護色の強い内容となっていることについて、カナダ、EU、豪州、
ブラジルといった国からも反発の声が上がっていることに対し、「世界貿易機関
(WTO)協定にも整合的である」と今になってブッシュ政権が言い始めているのが
非常に興味深いところである。

○ 新農業法案における主要政策の概要
法案名 The Farm Security and Rural Investment Act of 2002
実施期間 6年間(2002〜2007年)
追加的予算額 452億ドル(6年間)(*注)
耕種作物等 価格支持
融資制度
拡充(マーケティング・ローン、ローン不足払い(LDP)とも存続)
・ 対象産品に羊毛・モヘア、はちみつ、豆類を追加(LDPの対象には麦作放牧地も追加)
・ ローンレートは大豆(引下げ)、米(据置き)を除き現行水準よりも引き上げ
(例)トウモロコシのローンレート(単位:ドル/ブッシュル)現行:1.89、2002〜2003年:1.98、2004〜2007年:1.95
直接固定
支払制度
拡充(96年農業法で不足払制度を廃止する代わりに導入された制度)
【算定式】支払額=基準面積(契約面積)×85%×計画単収×支払単価
・ 対象産品に油糧種子(大豆など)を追加
・ 基準面積は1998〜2001年ベースに更新することも可能
・ 計画単収は現行水準のままであるが、支払単価は現行水準よりも引き上げ
(例)トウモロコシの支払単価(単位:ドル/ブッシュル) 現行:0.26、2002〜2007年:0.28
価格変動
対応型直接
支払制度
新設(価格の変動に応じて目標価格との差額を補てんする制度(不足払制度に類似))
【算定式】支払額=基準面積×85%×計画単収×支払単価(目標価格−(直接固定支払単価+ローンレート又は市場価格のいずれか高い方))
・ 対象産品及び基準面積は直接固定支払制度に同じ(不足払制度は実際の作付面積を採用)
・ 計画単収は基準面積を更新する者に限り1998〜2001年ベースが採用可能
(例)トウモロコシの目標価格(単位:ドル/ブッシュル) 2002〜2003年:2.60、2004〜2007年:2.63
酪農政策 加工原料
乳価格支持
制度
存続(96年農業法では廃止予定とされていた政府による乳製品の買上げ制度)
・ 支持価格は9.9ドル/100ポンド(現行水準に同じ)
価格変動
対応型直接
支払制度
新設(失効した北東部酪農協定に代わる全米を対象とした価格補てん制度)
【算定式】支払額=生乳生産量×(16.94ドル/100ポンド−ボストンのクラスT価格)×45%
・ 予算額13億ドル、実施期間3.5年間(2005年9月末まで)
・ 1生産者当たり年間生乳生産量240万ポンド(約135頭分に相当)が支払上限
政府支払上限 1経営体当たり36万ドル(3人者規則は継続)
環境保全制度 拡充(予算額171億ドル)
・ 土壌保全留保事業(CRP)の上限面積を3,640万→3,920万エーカーに拡大
・ 環境改善奨励事業(EQIP)の単年度予算額を13億ドルに拡大(畜産環境保全が60%)
・ 農業を行いながら環境保全に取り組む農家への奨励金交付事業の創設(予算額20億ドル)
原産地表示
制度
新設(当初2年間は自主的表示、その後は義務的表示に移行)
・ 対象産品は食肉(家きん肉、加工品を除く)、野菜・果実、魚介類および落花生
・ 「米国産」の表示は、米国内で生産(出生)、栽培(飼養)、加工されたものに限定
その他 食肉パッカーによる家畜所有を禁止する条項、2001年緊急農家支援措置は最終法案から削除
(*注)現行の96年農業法が存続した場合に比べて増加する予算額。数値は、昨年
   の予算決議をベースにした金額(2002〜2011年の10年間では735億ドル)。
   ただし、議会予算局(CBO)が本年5月6日に見直し・公表した水準は、さ
   らなる価格低下による支出増が見込まれるため、517億ドル(10年間では828
   億ドル)にまで増加。


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