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パラグアイ口蹄疫発生をめぐる動き


【ブエノスアイレス駐在員 犬塚 明伸 11月13日発】 9月23日、パラグアイにおい
て口蹄疫の疑いのある小水疱を呈した牛が数頭見つかった。場所は、パラグア
イ東部のカニンデジュ県のコルプスクリスチ市に所在する農場で、ブラジルの
マットグロッソドスル(MS)州と接している。

 このため、ブラジルは翌24日、パラグアイ産の家畜および畜産関連製品につ
いて、国境を一時的に閉鎖した。一方、パラグアイは同日、自国の中央研究所
による血液検査等の結果、口蹄疫ではなく牛伝染性鼻気管炎(IBR)であった
と発表した。しかし、その後、ブラジル側の要請により検討会および現地調査
を実施することになった。疑似患畜が発見されたパラグアイの農場はブラジル
人所有であり、国境を挟んでブラジル側にも農場を所有していたため、10月1
日にパラグアイ側を、2日にはブラジル側を調査することになったが、パラグ
アイ側の調査が終了した時点でブラジル側の調査を拒否したため、10月2日に
最終的な結論がなく調査は終了した。

  10月9日、パンアメリカン口蹄疫センター( Panaftosa)における血液サン
プルの結果を受け、10月14日から現地調査を実施することになった。(「海外
駐在員情報」通巻第552号参照)。

  6ヵ国からなる調査団の現地調査は10月25日、終了した。国境両側の家畜102
頭から採取した血液サンプル等をPanaftosaで分析した結果、Panaftosaからパ
ラグアイ衛生当局およびブラジル農務省に10月31日、パラグアイ側の農場のサ
ンプル2例からO型ウイルスが分離されたとの最終検査報告が伝えられ、口蹄
疫発生が確定した。これに伴い、パラグアイは11月4日から口蹄疫ワクチン接
種清浄国の国際ステータスを留保されている。

  ブラジルのプラチニデモラエス農相は11月5日、パラグアイの農相との会談
後、「パラグアイの口蹄疫対策に対し、ワクチン提供および技術協力を実施す
ることとした。この措置は、口蹄疫ウイルスのブラジルへの侵入を防ぐであろ
う」と発表した。また、一部の新聞報道では、2国で実施する今回の撲滅計画
に1億 7200万ドル(約206億円、1ドル=120円)が投入されるであろうと言わ
れている。

  11月7日、EUフードチェーン・家畜衛生常設委員会はブラジルに対して、パ
ラグアイ側の感染農場に隣接するMS州内の行政区からの牛肉輸入を停止するこ
とを決定した。(なお、パラグアイの発生地域からの輸入は従来から認められ
ていない)。また、2001年にパラグアイとブラジルから冷蔵および冷凍牛肉の
約9割強を輸入しているチリは、10月31日にパラグアイ、11月8日にブラジル
MS州からの牛肉輸入を停止している。

  一方、パラグアイとブラジル間では、今回の口蹄疫問題に起因して、新たな
外交問題が発生しようとしている。

  最初に口蹄疫を疑う症例があることを報告したのは、実はブラジルMS州動
植物防疫衛生当局(IAGRO)の獣医師であり、パラグアイ衛生当局の許可なく農
場に入って診断していたこと、口蹄疫確定前にブラジルが一方的に国境を封鎖
したこと等がパラグアイで問題視されている。

  パラグアイ下院は10月10日、「国境より50キロメートル以内に外国人が持つ
遊休農地は3年以内に、また使用中の農地は10年以内に売却するものとし、期
限後は没収する」とする法案を可決し、上院に送付した。これらの動きは、パ
ラグアイに進出しているブラジル人農家に大きな不安を与えるものであり、ブ
ラジル農業連盟( CAN)のアントニオ・サルボ会長は、「既得権として保証さ
れている土地所有問題と衛生問題が混同されてはならない」と述べ、パラグア
イの動きをけん制している。

  この法案は、パラグアイ上院において10月17日にも審議される予定であった
が、法的に充分検討されておらず、不整合の箇所が多く見られると報道されて
おり、下院の可決から1カ月経っても審議には至っていない。
  

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