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地域に根付き始めた農産物直売市場(イギリス)


【ブラッセル 山田 理 9月5日発】  イギリス最大の農業生産者組織であ
る全国農業者連盟(NFU)は9月4日、生産者による農畜産物等の直売市
場である「ファーマーズ・マーケット(farmers’ market)」に関するレポ
ートを公表した。

  これによると、ファーマーズ・マーケットの数は現在、450ヵ所と2年前の
200ヵ所から2倍以上も増加した。開催の頻度は、曜日を決めて毎週開催され
るものや月1〜2回、年4回の開催など、各マーケットによりさまざまであ
るが、イギリス全体で年間延べ7,500回開催されているとみられる。

  ファーマーズ・マーケットは、地域の農畜産物生産者が自ら生産した農畜
産物や加工、製造した産品を消費者に直接販売する場として、97年にイギリ
ス南東部のバースで開催されたのが始まりである。新鮮な地元産の農畜産物
が入手できることから、ファーマーズ・マーケットは消費者の支持を受け、
イギリス全土に広がっていった。

  牛海綿状脳症(BSE)や遺伝子組み換え(GM)農産物など、折からの
食品への信頼を揺るがす諸問題の影響で、食品安全性に対する消費者の関心
が高まっていたことも、ファーマーズ・マーケットが消費者に受け入れられ
た要因の1つである。他の小売店やスーパーマーケットとは異なり、売り手
である生産者との直接対話を通じて、農畜産物の生産履歴を明確に確認でき
る点が、消費者の支持を集めた重要なポイントとなっている。

  ファーマーズ・マーケットで販売される産品は、開催される場所や季節な
どで大きく異なる。一般的に、野菜、果物、食肉、卵などの農畜産物のほか、
パン、ケーキ、ジャムなどの加工品が販売されている。

  ファーマーズ・マーケット全体での年間総売上高は、1億6,630万ポンド
(約309億円:1ポンド=186円)に上る。出店した生産者1人当たりの平均
年間売上は、8,700ポンド(約162万円)である。そこから得られる収益は決
して大きな額ではないとみられる。しかし、販売に要する実労働時間が短く、
労働時間当たりの収益は十分魅力のある水準となっていることが、生産者に
対しファーマーズ・マーケットへの出店を促す最大の要因である。2001年の
口蹄疫(FMD)の大発生や昨今のポンド高による輸入農畜産物の急増によ
り、イギリス農業全体が困窮を極めている中にあって、ファーマーズ・マー
ケットは、貴重な収入獲得手段となっている。

  ファーマーズ・マーケットへの来場者数は全体で年間1,500万人に上り、
平均すると約2千人の消費者が一回の開催で集まっていることになる。60%
以上のマーケットで、来場者の半数以上が定期的に来場していると回答して
おり、ファーマーズ・マーケットは各地域に着実に根付き始めていると言え
る。

  一方、来場者の年齢構成を見ると、65%が退職者層で占められ、若年未婚
層はわずか3%に過ぎないなど、来場者の年齢構成が大きく偏っていること
は、今後の発展を考える上での課題となっている。また、地域の行政や観光
局との連携を図っていくことの重要性も将来的な課題として指摘されている。 

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