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2003年の10大ニュース


シドニー駐在員事務所【 粂川 俊一、井上 敦司 】


1.干ばつが豪州畜産に与えた影響は顕著
 
  豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)が8月に発表した見通しによれば、干ばつ
で縮小した供給構造と需要の増加により、肉牛・牛肉価格は今後数年にわたり高値
で推移する見込みである。一方、酪農においても干ばつの影響は顕著で、デイリー
・オーストラリア(DA)も同月、2002/03年度の生乳生産量を前年度比8.4%減の
1,032万キロリットルと発表した。豪州を襲った干ばつは徐々に緩和する方向に見
えるが、肉牛・牛肉産業、酪農とも仮に干ばつが終息したとしても、これまで受け
た干ばつの影響から脱却するには数年を要するとみられている。また、豪州農業資
源経済局(ABARE)が11月に発表した「2003年農家調査」においても、干ばつ
で農業経営の収益性が著しく悪化したことが報告されている。


2.フィードロット飼養頭数、輸出向けが国内向けを下回る(豪州)
 
  豪州フィードロット協会(ALFA)は8月6日、MLAとの共同調査による四
半期ごとの全国フィードロット飼養頭数調査の結果を発表した。これによると、総
飼養頭数は2003年6月末時点で66万8千頭と、前回調査(3月末時点)から3%減
少し、2期連続の減少となった。また、前年同期比では9%下回り、調査開始以来
初めて輸出向け頭数が国内向け頭数を下回るという例外的な仕向け構成になった。
これは、豪ドル高、干ばつの影響による輸出向け素牛調達費や飼料費の増加、国内
向け肉牛の一時的なフィードロットへの導入などの要因によるものとされる。


3.豪州で酪農団体再編、デイリー・オーストラリアが設立
 
  豪州酪農庁(ADC)と酪農研究開発公社(DRDC)の統合を核とした酪農団
体の再編によりデイリー・オーストラリア(DA)が7月1日に設立された。DA
の設立は、豪州連邦議会で審議されていた酪農団体事業改正法案(Dairy Industry 
Service Reform Bill 2003)が3月27日に成立し、会員登録など所要の手続きを
経て目標とされた日程通り行われた。ADCは昨年来、段階的に輸出専売機能を廃
止しており、DAは牛肉業界におけるMLA同様、販売促進や研究開発を中心に業
務を実施する。課徴金を納付する生産者が議決権を持ち運営に参加することができ
るDAの設立で、酪農乳業改革後における業界団体業務についても規制緩和が行わ
れ民営化されたことになる。


4.NZ政府、モラトリアム終了に伴いGM作物解禁へ

 遺伝子組み換え(GM)作物の商用栽培が10月末から解禁になるニュージーラン
ド(NZ)では10月11日、各地でグリーンピースなどの環境保護団体により大規模
な抗議デモが行われ、GM作物栽培解禁までの猶予期間(モラトリアム)の延長を
訴えた。クラーク首相やホッブス環境相はこの決定が覆される可能性はないと述べ
、政府の方針に変更はないことを強調したが、その一方、個々のGM作物の審査に
は慎重に対応することから、実際にGM作物が市場に出回るのは5年以上先になる
見通しを示している。



5.ボンラック、フォンテラ案で再建へ(豪州・NZ)

 ビクトリア州に本拠を置く大手乳業会社ボンラックフーズは8月8日、同社の株
主で生乳供給元でもある酪農組合ボンラック・サプライ・カンパニー(BSC)と
NZの巨大乳業会社フォンテラとの間で同社の再建案に合意したと発表した。再建
案は、フォンテラのボンラックに対する株式保有率を現在の25%から50%に引き上
げ、ボンラックの財務状況の改善を図るとともに、ボンラックの乳製品すべてをフ
ォンテラが買い取り、ボンラックは集乳と生乳加工処理に特化するもの。なお、こ
の再建案は9月5日に開催されたBSCの株主総会で正式に決定された。



6.豪州政府、牛の個体識別で一部群管理も認め義務化に合意

 連邦政府と豪州各州政府(準州を含む)の第一次産業大臣による農林水産および
食品産業の振興を目的とした「第一次産業大臣会議」が4月10日、ブリスベンで行
われた。この会議において、牛の管理に関して、従来から推進している個々の牛に
対して電子標識(耳標)装着を行う全国家畜個体識別制度(NLIS)を全州で義
務化する一方、一定の条件の下に群管理も認めることで合意した。なお、義務化は
2004年7月1日からを目標としていたが、10月に開催された同会議では、一部の州
での取り組みの遅れなどから、全州での実施は2005年7月1日に延期することが了
解された。



7.豪州の自由貿易協定(FTA)交渉、米国とは継続もタイとは合意

 豪州と米国の自由貿易協定(FTA)交渉は、3月の第1回交渉を皮切りに年内
に5回の交渉が行われた。10月のブッシュ大統領の訪豪で年内合意に向けて交渉に
加速がついたとされたが、現在のところ、年内合意は難しい情勢である。報道によ
ると、両国とも農産物の市場アクセスを含む包括合意を目指しているとされ、1月
中の合意を目標に年明けにも6回目の交渉が行われるとの観測が強い。一方、タイ
とのFTAについては10月に合意に達し、畜産物では乳製品と牛肉が長期にわたる
段階的な関税撤廃などの内容であるものの、豪州にとって恩恵を受ける製品として
挙げられている。



8.干ばつの影響で冬穀物は8年、夏穀物は20年ぶりの不作予測(豪州)

 ABAREは2月18日、四半期ごとに発表される2002/03年度の穀物レポートを
発表した。この報告では、長引く干ばつの影響により昨年12月の発表よりもさらに
悪化した状況を伝えた。小麦などの収穫が終了した冬穀物は前年度に比べ62%減の
1,381万トンで94/95年度以来、また、米やソルガムなどの作付けが終了した夏穀
物は前年度比 62%減の195万トンで82/83年度の干ばつ以来の低い生産量に下方修
正された。しかし、その後逐次発表された同レポートでは、干ばつの緩和見込みを
反映して、2003/04年度の冬穀物の生産量は一転して史上2番目の豊作になること
が予測されている。



9.GMカノーラの商用栽培について連邦政府が認定(豪州)

 連邦政府のGM作物の認定を行う遺伝子技術規制局(OGTR)は4月1日、ベ
イヤー・クロップサイエンス社から申請があった商業用のGMカノーラについて、
人体や環境に対する安全性に問題がないとして認定する方針を示した。OGTRは
その後、リスク評価やリスク管理計画を一般に公開し、パブリックコメントを募集
した上で、7月25日に正式認定を発表した。GMカノーラは、豪州で食用や家畜飼
料用としては初めてのGM品種となる。ただし、GM作物の栽培禁止地区を認定す
る権限を持つのは州政府で、カノーラの主産地の各州政府が1〜3年間GM作物の
商業栽培を暫定的に禁止したため、実際に商業用として栽培できるのは早くても
2004年以降となっている。



10.NZで新乳業団体が設立

 NZの主要乳業5社は7月18日、首都ウェリントンの会合で新たな乳業団体とし
てデイリー・カンパニーズ・アソシエーション・オブ・ニュージーランド(Dairy 
Companies Association of New Zealand:DCANZ)を設立した。DCANZ
の設立は、フォンテラの母体の1つとなったニュージーランド・デイリー・ボード
(NZDB)がかつて担った重要な政策や貿易問題に関する役割を埋めることが目
的とみられる。当面、フォンテラが全面的にバックアップするようだが、新団体設
立に参加した企業は一様に期待を寄せている。


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