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AI対応大規模演習を実施(シンガポール)


2日間にわたり病院など公共施設で防疫演習

  シンガポール政府は、海外から30人を超すオブザーバーを招き、7月21〜22日の2日間にわたり、「スパロー
ホークU」と命名した鳥インフルエンザ(AI)に対する大規模な防疫演習を行った。官民合わせて約1万8千
人が参加し、病院、診療所、入国管理施設、空港、学校などでのAI患者の識別、搬送そして治療などの訓練を
実施した。同国ではAI感染の状況を色のコードにより5段階に分類している。それによると、緑:動物から人
への感染はあるものの、人から人への感染の可能性が低い状態、黄:海外において人から人への感染があり、国
内への侵入リスクが高まっており、国内では単発の発生がある状態、オレンジ:海外でウイルスが人から人への
間で感染可能に変異し、国内でも感染が認められる状態、赤:国内でまん延している状態、黒:死亡率が高く深
刻な状態、としている。


インドネシアでのAIの拡大とSARSの経験

 同国はAI未発生国であるが、世界保健機関(WHO)によれば、隣国であるインドネシアでは既にAIによ
る死亡者数がこれまで最も多かったベトナムの42人に並んだところであり、一向に病勢の衰えが見えない状況が
継続している。また、同国にはシンガポールからフェリーなどにより1時間足らずで渡航できる観光地もあり、
十分に警戒が必要な状態となっている。なお、シンガポールでは2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)発
生で200人を超える感染者と33人の死者を出しており、死亡率の高い感染症の封じ込めに失敗した場合の危険性
については既に経験済みと言える。このため、政府はAI対策のパンフレットを各家庭に配布するなどしている
(「海外駐在員情報」715号参照)。


AIの封じ込めは初期の対応がポイント

  演習の1日目は、オレンジレベルの感染状況を前提として、学校、入国検査所、病院での訓練が行われた。対
応のポイントはAIに感染している恐れのある者を識別し、隔離病棟の整備されている特定病院(タントクセン
病院1カ所が指定されている)に早急に搬送することであり、特定病院では防護服などを装着したスタッフが患
者の感染程度や治療の内容に関して模擬患者を相手に体温と血圧を測定し、一部の者を伝染病病棟に移す訓練を
行った。

  学校における演習は、生徒が二人一組になり、1日に2回体温を測り日誌に記録する訓練が行われた。また、
インドネシア航路の船が発着するフェリーターミナルでは、入国する旅行者に対して、係員が、過去10日間にA
Iに感染する危険のある場所に行ったかどうかのほかに、AIの症状を呈している人との接触の有無について問
診した。また、国際線の到着する空港では、ボランティアを使って体温計測のスキャナーにより体表温度が37.5
度以上の人を識別する訓練が行われた。

  2日目は、前日より感染状況レベルを一つ上げて赤レベルの想定とし、公立病院、総合病院や老人ホームなど
を中心に演習が実施された。赤は集団での発生が認められる状況であるが、オレンジレベルと同様、早期発見に
よる対応が重要とされている。

  演習実施後、保健相は、病院において、感染の疑いがある人々がスクリーニングを受ける前に野外のテントで
一緒に待たされることにより、感染拡大の危険が増すと指摘し、今後のAI対策における改善点とした。
 


【シンガポール駐在員 斎藤 孝宏 平成18年7月27日発】



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