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アルゼンチン、混乱が続く牛肉問題


合意拡大による輸出再開の期待も遠のく

 アルゼンチン政府は、4月6日に行った食肉関係団体との協定(本紙通巻第716号)をさらに補完するため
の措置を取り決めたことを20日、公表した。これによると前回の合意では去勢牛のみの11カットが対象で
あったが、今回は国内消費の大半を占める雄子牛(280〜300キログラム)、未経産牛および若齢去勢牛に経
産牛を加えた5つのカテゴリーを対象に、リブロースを加えた12カットの小売価格に指標価格などが設定
された。この決定を受け国内商業庁のモレノ長官は、規定を順守しない者に対しては、罰則を適用するこ
ともあり得ると発言し、物議を醸している。

  なお、今回の合意拡大により、近日中に小売価格の低下が確認され、輸出が段階的に再開されるものと
関係者は期待していたが、予想に反し、これまで輸出再開に関する政府からの公式な発表はない。

  このため、現地報道によると、ブエノスアイレス州内の生産者は抗議集会を開き、牛肉の輸出禁止措置、
と畜重量制限などの一連の政府の措置に対する抗議を表明し、全国的なストの決行の可能性も示唆する一
方、輸出パッカー最大手のスイフト社ではプラント従業員の一時解雇を実施し、その数はこれまでに1,336
人に上るとしている。また、ブエノスアイレス食肉労働組合の関係筋は、牛肉輸出禁止により一時解雇さ
れた従業員は全体で8千400人に達しているとしている。


輸出再開にさらに障害

 また、国立農牧取引管理事業団(ONCCA)は、5月2日付け決議第818/2006号により、官報掲載日
より本年12月31日までの間、新たな牛肉輸出入業者の登録を停止することを決定した。これは今年1月に
創設された輸出業務登録制度(ROE)に規定される牛肉輸出の管理などを強化することが狙いであるとし
ているが、新規参入者への障害となることは避けられず、牛肉をめぐる状況はさらに混とんとした様相を
呈している。


牛肉に代わり豚肉の消費を促進

  こうした中、牛肉に代わり、健康な食生活に必要な栄養を供給する代替食品の可能性が提起され始めて
いる。アルゼンチン養豚協会(AAPP)は4月27日、農牧水産食糧庁(SAGPyA)の共催で、ブエノス
アイレス州にある食肉加工処理施設において「豚肉の収益向上セミナー」を開催し、ミチェリ経済生産大
臣とカンポスSAGPyA長官、さらに州やブエノスアイレス市当局関係者も臨席した。

  同セミナーは、政府とAAPPが3月15日に豚肉価格安定のために合意した協定の枠内にあり、全国の
豚生産地域において、スーパーマーケットの担当者や食肉店主を対象に、豚枝肉を無駄なく活用し、経済
効率を上げることができる解体技術の習得・普及を目指し順次開催されている。

  この協定は、インフレ抑制を目的とした政府の生産・投資・競争力および経済成長促進政策の一つであ
り、と畜業者出荷時点での枝肉価格を、1キログラム当たり4ペソ(148円、1ペソ=37円)に付加価値税
を加えた金額とし、その価格を協定署名の日から1年間維持するほか、民間部門と政府が合同で取り組む
課題として豚肉振興活動への支援などが決定されている。


牛肉輸出再開の側面的支援を期待

  アルゼンチンの食肉消費量は年間1人当たり牛肉が約60キログラムに対し、鶏肉は18キログラム、豚肉
については6キログラムで、そのうち生鮮豚肉はわずかに2.3キログラムである。豚肉業界としては年内
にその消費量を2倍の5キログラムに増加させたいとし、豚肉価格安定のために合意した協定により消費
者に競争力のある小売価格で商品を提供できるとしている。
 
  AAPPのウチェリ会長は、「政府と協力して行っているこの活動により、牛肉に代わる他の選択肢を
提案することで国民の食生活に多様性を与え、さらには牛肉以外の食肉の国内消費が増えることにより、
牛肉の輸出再開の側面的支援になるもの」と強調している。



【ブエノスアイレス駐在員 横打 友恵 平成18年5月10日発】 


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