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イギリス産牛肉の本格的輸出が10年ぶりに再開


5月3日より輸出再開

 欧州委員会は4月29日、イギリス産の生体牛および牛から生産されるすべての製品に対する輸出の制限措
置を廃止する委員会規則を官報に掲載し、5月2日から施行した。これを受けたイギリスの国内規則が5月
3日に施行され、この結果、同日からイギリス産牛肉などのEU域内への輸出が再開された。これまでも、
一定の条件を満たした牛肉などの輸出は可能であったが、非常に厳しい条件を満たしたものに限定されてお
り、その制限がなくなるという点で、96年3月以来、10年ぶりの本格的な輸出再開となった。
(5月2日付海外駐在員トピックスおよび海外駐在員情報711号参照)



子牛輸出に係る動物福祉の問題

 今回の生体牛の輸出再開により、輸出禁止の間は、そのほとんどが生後まもなく処分されてきた乳雄子牛
を、子牛肉(veal)の生産用素牛として輸出することが期待されている。イギリスは、子牛を個体ごとに閉
鎖的な空間(クレーツ)で飼養することを、EUの中で最も早くから禁止するなど動物福祉への関心の高い
国であるが、生産者団体のイギリス全国農業者連合(NFU)は、子牛の輸出を動物福祉の観点から懸念す
る声にこたえるためにリーフレットを作成し、子牛輸出の必要性や動物福祉の順守について次のように説明
している。

・乳雄子牛は子牛肉の生産に適しているが、イギリスでは歴史的にこれを食する習慣がほとんどない。この
  ため、輸出が禁止されていた間は、生後まもなく処分をしていた。今回の輸出再開に当たり、輸出禁止前
  の水準である年間45万頭、1頭当たり80ポンド(16,400円:1ポンド=205円)での輸出が見込まれ、農
  家経営の一助となる。

・長期的な目標は、イギリス国内で育成し子牛肉として輸出することであるが、短期的には、コストや技術
  的な問題、また輸出相手国の消費者が自国で育成した子牛由来の肉を好む現状から、これを行うことは困
  難である。

・輸出者には、子牛の輸送中における動物福祉基準の順守と、子牛の飼養に係る福祉基準を順守する農場に
  のみ出荷することを義務付ける。



第三国のうち、スイスがイギリス産牛肉の輸入再開を決定

  イギリス食肉家畜委員会(MLC)の下部組織であり、イギリスの牛肉産業などの振興を目的としたイギ
リス牛肉・羊肉実行委員会(EBLEX)によると、スイスが6月5日よりイギリス産の生体牛および牛か
ら生産されるすべての製品の輸入を再開することが明らかとなった。スイスは、90年にイギリス産牛肉など
の輸入停止を世界で最初に実施した国であるが、EU域外で輸入再開を決定した最初の国ともなった。

 
 
2006年のイギリスの牛肉需給

  昨年11月の30カ月齢を超える(OTM)牛の食肉流通の開始、本年1月の96年8月1日前に生まれた牛を
対象とした新たな老齢牛対策(OCDS)の開始、今回の牛肉などの本格的な輸出再開と、イギリス産牛肉
をめぐる制度変更が次々と行われている。このような状況の中、MLCが行ったイギリスの2006年の牛肉需
給予測は2005年の実績と比べ大きく変化したものとなっている。
 
  まず、生産量は、OTM牛のフードチェーンへの流入により大きく増加し、前年比14.0%増の86万4千ト
ンと予測している。また、輸出量は今回の本格的な輸出再開を受け3万トンに増加、消費量はわずかに増加
し106万4千トンになると見込んだ結果、輸入量は前年比21.8%減の23万トンに減少すると予測している。
2005年のイギリスの牛肉輸入は、55%が隣国アイルランドからのものであり、また、イギリス産牛肉の輸出
再開がEUの牛肉市場におけるアイルランド産牛肉との競合につながるとすれば、一連のイギリス産牛肉を
めぐる制度変更により最も影響を受けるのはアイルランドであると思われる。



【ブリュッセル駐在員 和田 剛 平成18年5月10日発】


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