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アイオワ州立大、エタノール生産拡大の影響を多角的に分析


  アイオワ州立大の研究者グループ(ISU/CARD)は5月17日、米国における現行のエタノール支援
措置(租税減免措置と輸入関税)が今後も継続された場合のエタノール生産量の拡大と、これによる穀物や
畜産物の生産、価格、輸出、消費などへの影響を分析した研究論文を公表した。これは、昨秋に同グループ
が公表した研究(平成18年11月28日号(通刊746号)参照)の改良版であり、新たに蒸留かす(DDGS)
の飼料利用の効果を織り込むとともに、原油価格の高騰や干ばつなどが生じた場合の影響についても分析を
加えたものとなっている。



2011年のエタノール生産量は148億ガロン、トウモロコシ価格は3.40ドル

  これによると、原油価格が2016年まで現在の先物相場から予測される水準(2012年まで58ドル/バレル前
後で推移した後、徐々に54ドル/バレルまで低下)で推移した場合、米国のエタノール生産量は2011年まで
に148億ガロンに達するとしている。また、2011年にはトウモロコシの作付面積が9,380万エーカーに拡大し、
生産者価格は3.40ドル/ブッシェル(トン当たり16,500円:1ドル=123円)となるが、2016年にはそれぞれ
9,250万エーカー、3.16ドル/ブッシェル(同15,000円)に低下するとしている。

  なお、飼料価格高騰によるコスト上昇を販売価格に転嫁するため、畜産分野では生産が調整局面に入り、
2010年にかけて生産の伸びは鈍化する(特に、豚肉については生産量が減少する)としている。また、これ
に伴って小売価格が上昇するとともに、一人当たりの消費量が減少すると見通している。



エタノール支援政策が拡大し、原油価格の高騰や干ばつが生じれば大きな影響も

  さらに、この研究では、@フレックス自動車(高エタノール燃料が利用可能な自動車)が普及し、原油価
格が現在の予測水準を10ドル/バレル上回る水準で推移した場合、A土壌保全留保計画(CRP)に参加し
ている休耕地のうち700万エーカーが耕地に転用された場合、Bエタノールの生産義務数量が147億ガロンに
上方修正された後、2012年が1988年のような干ばつとなった場合―の3通りのケースについて試算を行って
いる。

  このうち、短期的な影響が最も大きいのはBのケースであり、干ばつになった年のトウモロコシの生産者
価格が4.77ドル/ブッシェル(トン当たり23,100円)に上昇するとともに、米国内の飼料向けが15%、輸出
向けが54%減少する結果が示されている。また、@のケースは長期的な影響が大きく、2016年のトウモロコ
シの生産者価格が4.43ドル/ブッシェル(同21,500円)に上昇し、輸出量は63%減少するとされている。一
方で、Aのケースではトウモロコシの生産者価格は0.05〜0.10ドル/ブッシェル(同242〜484円)低下する
ものの、政策の効果はさほど大きくないとされている。



米国のバイオ燃料政策に対する畜産団体の対応

  今回の研究は、米国農務省(USDA)に加え、米国食肉協議会(AMI)、全国肉用牛生産者・牛肉協
会(NCBA)、全国豚肉生産者協議会(NPPC)、全国鶏肉協議会(NCC)など、主要畜産関係団体
の支援を受けて行われている。米国の畜産団体は、あらゆる機会を通じてトウモロコシを原料とするエタノ
ールの生産振興措置について反対の立場を明確にしてきており、今回の研究もその立場を踏まえて、いささ
か極端な前提のもとに分析がなされていることは否定できない。

  しかしながら、再生可能燃料基準(RFS)の設定により燃料会社に一定量のエタノールの使用を義務付
け、実勢価格の1/3以上の補助金を投じて生産振興を図り、高関税でエタノール輸入を規制するという米
国政府の手厚い国内政策がなければ、現在のようなトウモロコシ価格の高騰が生じなかったであろうことも
事実である。現在、米国では、RFSを引き上げる法案が提出され(平成19年5月15日号(通刊766号)参
照)、E85(エタノール85%、ガソリン15%の混合燃料)の普及に向けた新たな支援措置を推進する動きも
広がりつつある。

  このような動きに対し、単に政治的な働きかけを行うだけでなく、生産者の拠出により集めたチェックオ
フ資金を活用して研究支援を行い、その成果を理論的根拠として自らの主張の正当性を訴える取り組みが、
今後どのような結果をもたらすことになるのか注目される。




【ワシントン事務所 郷 達也 平成19年5月24日発】



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