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JBSスイフト社の企業買収に司法省が異議申し立て

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 2008年3月に合意された米国牛肉業界第3位のJBSスイフト社による同第4位のナショナル・ビーフ社の買収(平成20年3月10日海外駐在員情報参照)について、司法省は10月20日、反トラスト法に反するとのことでシカゴ地裁に訴訟を起こした。

司法省の訴訟

 司法省が同日公表したプレスリリースによると、この買収が行われるとJBSスイフト社は1日当たり40,000頭、すなわち米国の3分の1以上の牛のと畜処理能力を持つことになり、また、米国の牛肉処理量の80%以上がJBSスイフト社、タイソンフーズ社、カーギル・ミート・ソリューションズ社の上位3社によって取り扱われることになる。
1日当たりと畜処理能力
 司法省が提訴を決めたのは、寡占が進むことにより自由競争が失われ、牛肉の消費者価格が意図的に上げられる一方、肉用牛生産者価格は低く押さえ込まれてしまう可能性が高いと判断したためである。
 
 なお、3月に発表されたJBSスイフト社の合意には、米国牛肉業界第5位のスミスフィールド・ビーフ社の買収も含まれていたが、これに関しては司法省は提訴を見送るとしている。

当事者の対応

 JBSスイフト社は、この合併には高い競争促進性があり、肉用牛生産者と顧客に利益を与えるとして、司法省の提訴に不満を示し、まずはスミスフィールド・ビーフ社の買収を早急に完結することを表明した。

 また、ナショナル・ビーフ社は同社の大口株主であるUSプレミアム・ビーフ社(肥育牛生産者の出資会社)とともに、この合併によるコストの削減は肉用牛生産者と消費者の双方に利益を与えるものとして司法省の提訴に失望感を示し、法廷で争うことを表明した。

生産者団体は司法省の対応を評価

 全米肉牛生産者・牛肉協会(NCBA) は、公平で開かれた市場を支持するとして、今回の司法省の対応は牛肉業界の競争力のバランスに配慮したものであり、この決定ならば肉用牛の販売価格が不公平に引き下げられることはないだろうとして高く評価した。
 
 また、比較的小規模の肉用牛生産者を会員とするR−CALFは、これまで司法省に対して多くの分析資料を提出して合併の指し止めを求めてきたと述べるとともに、今回の決定は悪用された市場原理から米国の肉用牛生産者と消費者を守るものとして司法省の対応を称賛した。さらに司法省が訴訟を見送ったスミスフィールド・ビーフ社の買収についても注視していく必要があると述べた。

有力議員などの対応

 中規模な家族経営の農家が多いアイオワ州から選出されたハーキン上院農業委員長は、長い間放置された大企業の寡占について示された判断であり、肉用牛生産者と消費者の双方にとってありがたいものであるとした。

 もう1人のアイオワ州選出議員で、この十年間にわたって農業界の企業合併を反トラストの立場で眺めてきたグラスリー上院議員も、司法省はようやく農業界における大企業の寡占に気づいてくれたと評価した。

 また、小規模な家族経営の農家を会員にもつ全国農業者連盟(NFU:ファーマーズ・ユニオン)のトム・バイス会長は、寡占により公平な競争が損なわれると消費者と生産者に経済的被害が及ぶと司法省の訴訟を評価する声明を出している。

注目される結論

 世界的に広がる経済社会の中で、より経済合理性を追求して行われた今回の合併に対する司法省の訴訟は、肉用牛業界にとどまらず、より効率的な企業経営を目指して統合を進めている穀物業界や豚肉業界などにとっても大変興味深いものとしてその結論が注視される。

 なお、スミスフィールド・ビーフ社は23日、同社のJBSスイフト社への売却が完了したことを表明している。
【中野 貴史 平成20年10月23日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 調査課 (担当:藤井)
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