業界第一位と第二位の鶏肉パッカーが合併(ブラジル)
ブラジルの大手食品会社であり、鶏肉パッカーでは国内第一位のペルジゴン社と第二位のサジア社(鶏肉輸出では第一位)は、5月18日、両社の合併契約に調印し、世界最大の鶏肉パッカーが誕生することとなった。新会社は同国の鶏肉生産量の3割以上、輸出量の5割以上を占めることになり、今後業界の寡占化が強まると予想される。
国内鶏肉生産量の3割以上、輸出量の5割以上を占める
今回の合併により誕生する新会社名は、「Brazil Foods(ブラジル フーズ)」とされ、本社がサンタカタリーナ州のイタジャイ市に置かれる予定である。従業員数は10万人以上、また、年間売上げは220億レアル(約1兆340億円:1レアル=47円)以上となりブラジル最大の食品会社であるブンゲ アリミエントス社を上回ることになる。また、食肉パッカー部門では世界の上位10社に名を連ねることとなる。
新会社は、ブラジルの鶏肉生産量(2008年で約110万3千トン)の3割以上、輸出量(同326万8千トン)の5割以上を占め、豚肉についても同国の生産量の3割以上、輸出量の4割以上を占めることになる。また、国内のパスタの販売高の8割以上、ピザの販売高の6割以上なども占めることになる。なお、新会社の製品の販売の45%が海外向け、55%が国内向けとなる。その一方で、国内で生産される大豆かすの約2割を家畜飼料として購入するとみられている。
国際金融危機によるサジア社の輸出の為替ヘッジ失敗が合併の契機
これまでの交渉の結果、合併の方法は両者の株式交換で行われることになり、新会社の資本構成は、ペルジゴン社が68%、サジア社が32%となる。新会社の設立数カ月後、サンパウロ証券取引所で新株式が発行され約40億レアル(1,880億円)の資金が調達されるが、その際経済社会開発銀行(BNDES)が同行の投資部門を通じ、新会社に資本参加する可能性がある。
ペルジゴン社とサジア社は過去にも合併の動きがあった。2006年当時、資本力に勝るサジア社がペルジゴン社の買収を図ったが、ペルジゴン社側がこれに抵抗し、計画がとん挫した経緯がある。今回はその立場が逆転した。
ペルジゴン社はここ数年間で事業規模を拡大させ、乳業メーカーのエレバ社を買収し乳製品分野にも進出した。2008年の売上高は113億レアル(5,311億円)とサジア社を上回った。一方、サジア社も拡大戦略の中で工場を新設し、2008年には107億レアル(5,029億円)の売り上げとなったが、同年9月に米国に端を発した国際金融危機により輸出の為替ヘッジのために契約していた為替デリバティブで巨大な損失が生じ、1944年の創業以降初めて欠損金38億レアル(1,786億円)を出すこととなった。また、今回の合併計画に先立ち、投資ファンドに働きかけ資本参加を呼びかけたが、良い回答がないまま旧来の宿敵との合併に活路を求めることとなった。
合併のメリットは、経費節減および販売ルートの拡大
合併のメリットとしては、経営の合理化による経費の節減および既存の販売ルートを利用した製品販売の拡大がある。経費の削減については、同一地域にある工場の閉鎖や従業員の解雇により40億レアル(1,880億円)の削減が可能との試算も行われている。また、販売面のメリットとしては、例えばペルジゴン社が製造した乳製品をサジア社の販売ルートで販売することが可能となり、100カ国におよぶ海外市場での売上げが期待されている。管理部門についても、お互いの優れた部分を利用することにより、合理化が見込まれている。
しかし、重要かつ緊急の課題として、サジア社の欠損金(債務)の処理がある。なお、その一部は、新株式発行による調達資金が充当されることになる。また、今後の新会社の登録商標の取扱についても、重要な課題として挙げられている。
ブラジル政府は今回の合併を静観か
今回の合併は、今後、経済擁護管理審議会(CADE、ブラジル国内の市場の独占を規制する機関)の審査に付され、その承認を得る必要がある。業界関係者の間では、ブラジル政府は、新会社が圧倒的なシェアを占めるパスタやピザなどの部門については、何らかの制約を設けると予想されるものの、今のところ国内資本による大型多国籍企業の育成を奨励する政策を採っているので、総体的に厳しい規制を課すことはないとみられている。
なお、株式市場においても、両社の企業合併が噂されてから、ペルジゴン社の株価が2割以上、サジア社が4割以上と大幅に上昇した。
一方、両社と契約している養鶏および養豚生産者の間では、今回の合併で国際競争力が強化されることから、彼らの利益を増加させるとみている。その一方で、新会社の市場独占度が高まることから、家畜の売買交渉が困難になるとの見方もある。
【石井 清栄 平成21年5月20日発】
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