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農業信託組織(農業ファンド)は来年度の収益改善を期待(アルゼンチン) 

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農業信託組織の収益が悪化

 アルゼンチンでは、農地所有者は借地料だけを受け取り、実際の農業生産活動は全て農地所有者から委託された農業信託組織が行う方式による農産物生産が拡大しており、現在では農産物生産量の約半分は、農業信託組織により行われているといわれている。

 現在、大豆やトウモロコシの収穫作業が行われているところであるが、降雨不足により単収が大幅に低下し、農業信託組織の収益が悪化していると考えられることから、大手農業信託組織であるカセナベ&アソシアドス社のルイス・ゴンザレス理事に現状を尋ねた。
(農業信託組織の概要については以下を参照 http://lin.alic.go.jp/alic/week/2008/ar/ar20080304.htm
(質問)  穀物価格が上昇傾向にあるが、農業信託組織の経営は改善されているのか。
(回答)  収穫が始まっているところであるが、降雨不足により単収が大幅に低下しているため、1ヘクタール当たり収益は昨年末時点の見込みより悪くなっている。
 以下の表1は、借地1ヘクタール当たりの昨年の借地契約時(2008年4月)と現在の収穫時(2009年4月)の収益の変化について、地元農業誌を用いて筆者が比較したものである。なお、利用した地元農業誌は、例えば小売店の農業資材の価格を調査して掲載するなど、1,000ヘクタール程度の普通規模の農業経営の参考となるように作成されている。

 一方、農業信託組織の場合、広い農地のみを借りて効率的な生産を行うこと、農業資材を大量に購入するため割引価格で調達できることなどから、実際の支出は表1よりかなり低いとみられる。また、今年度の降雨不足により、天候保険に加入していた組織に対する支払があったといわれている。

 しかしながら、農業信託組織も含め借地による農業生産活動の収益は、昨年の借地契約時の見込みに比べ、現在の収穫時では大きく減少していることが推察される。


(表1)借地1ヘクタール当たりの借地契約時(2008年4月)と
現在の収穫時(2009年4月)の収益シミュレーション
(表1)借地1ヘクタール当たりの借地契約時(2008年4月)と現在の収穫時(2009年4月)の収益シミュレーション
資料: margenes agropecario
注1: 借地料は、2008年4月の大豆収入の35%と推計
注2: 2009年4月の農機具費、種子費、肥料農薬費は、は種を行った2008年10月の数値
注3: 2008/09年度の単収は、降雨不足により大幅に減少していることから、USDAの生産量予測値から算出される単収の減少率(トウモロコシ21%減、大豆25%減)を借地契約時の単収に乗じた。

生産コストの減少により来年度は収益改善を期待

 このような状況の中で、今後の事業展開について尋ねた。

(質問)  収益が悪化する中、農業信託組織の活動は衰えていくのか。
(回答)  活動を停止する農業信託組織も出てくるであろう。しかし、2009/10年度は、借地契約の内容変更や農業資材価格の低下により、かなり大きく支出が減少すると見込んでいる。当社はこれを好機と捉え、借地面積を拡大していきたいと考えている。
(質問)  借地契約の内容変更により、借地される農地が減少するのではないか。
(回答)  借地契約についてはこれまで、期待される単収から算出される収入に基づく借地料を契約時に支払っていたが、今年度は収穫時の収穫量に応じた借地料の支払いに変更している。農地所有者にとっては、リスクが高まることになるが、自らの生産に基づく収益より、農業信託組織が効率的に生産した結果発生する実績に基づく借地料収入の方が有利であるので、自作に戻る農家は少ないとみている。

(表2)2008年4月の農地所有者の収益シミュレーション
(表2)2008年4月の農地所有者の収益シミュレーション
資料:margenes agropecario
注:借地料収入は大豆収入の35%と推計
 筆者の試算によれば、普通規模の農業経営が自作で得られる収益は、借地料収入(大豆収入の35%)と大きく変わらないとみられる。

 また、土地所有者の中には、都市へ移り住んでいること、地元の穀物収集業者が廃業していることなど、自作の再開が困難である場合が多い。

 このため、昨年度に比べ借地料収入が大きく減少する見込みであっても自作に戻る土地所有者は少ないとみられる。
【松本 隆志 平成21年5月22日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 調査課 (担当:藤原)
Tel:03-3583-9805