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新型インフルエンザは豚肉の国内消費に影響与えず(アルゼンチン)

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世界で2番目の感染報告

 本年6月25日、アルゼンチンではカナダに次いで豚における新型インフルエンザの感染が確認された。
本病は人から人へ感染が引き起こされる人の疾病であり、この疾病に豚がまれに感染しても生産性を損なうようなものではない。また、世界保健機関(WHO)など国際機関の情報では豚肉を介して人への健康危害を及ぼすこともないことが知られている。このため、国際的ルールとしては豚のインフルエンザは家畜の疾病発生として国際獣疫事務局(OIE)へ通報する義務はないが、今回の事例はこれまでと異なる未知のウイルスによる豚での感染であったことから報告された。

感染が確認された養豚農場では落ち着いた対応

 アルゼンチンでは、5月8日に海外からの旅行者での感染が確認されて以降、国内の人への感染拡大を防ぐため、政府では保健省、アルゼンチン農牧漁業庁農畜産品衛生事業団(SENASA)およびアルゼンチン農牧技術院(INTA)からなる新型インフルエンザ対策特別チームを設置した。チームでは豚への感染を事前に想定し、飼養している豚がインフルエンザ様症状を示した際の連絡ルートを整えるとともに、アルゼンチン養豚生産者協会(AAPP)とも連携して、生産者や消費者に対して、豚の新型インフルエンザの正しい知識についてマスコミなどを通じて普及してきた。

 このような中、ブエノスアイレス州の養豚場(母豚500頭規模)で、6月15日から軽い咳を示す豚の一群が確認された。当初、農場専属の獣医師および国立ラ・プラタ大学獣医学部ではボルデテラ感染症を疑ったものの原因が明らかにならず、INTAに検査を依頼し、同月24日にウイルス遺伝子検出検査(RT-PCR法)(以下「ウイルス検査」という。)により、人で流行している新型インフルエンザウイルスに感染していることが確認された。翌25日にSENASAでは当該農場の症状の有無の確認およびウイルス検査の追加を実施したが、どちらも陰性であり、すでに異常な豚は確認されなかった。当該農場を中心に半径10km以内(サーベイランスゾーン)の養豚場および疫学調査(参考参照)により過去30日以内に当該農場の専属獣医師が立ち入ったことが特定された養豚場(4カ所)についても症状の有無の確認およびウイルス検査を実施し、どちらも異常な豚は確認されていない。このような検査結果から、新型インフルエンザ対策特別チームでは、豚肉から人への感染のリスクを正しく評価し、当該農場の豚について出荷直前に症状の有無の確認およびウイルス検査で陰性が確認されていることを条件に順次食用に供することとした。なお、7月8日にはほかの養豚場でも感染が確認されたが、同様な対応が図られたところである。

 今回の2農場については、農場内のウイルスが消滅したことを調査するため、農場で最後に症状が確認されて以降、当該農場で産まれた子豚(10〜12週齢)50〜60頭(いわゆる「おとり豚(Sentinel Animal)」;農場内のウイルスの有無を確認するために指標となる清浄豚。)について、ウイルス検査を実施し10月2日までにすべて陰性が確認されている。

(参考)

○豚でA型インフルエンザウイルスの感染が確認された場合の疫学的調査項目(概要)
  1. 農場概要
  2. 疾病確認時の連絡体制
  3. 症状が確認された場合の記録
    (1)最初に確認した時期、(2)症状の種類、(3)獣医師の診断の結果
  4. 豚の導入、出荷の記録(過去14日間)
  5. 同一所有者のほかの施設間での豚の移動歴
  6. 従業員、獣医師等に関連する疫学情報
    (1)施設への出入りの記録(過去30日間)
    (2)ほかの養豚施設への出入りの記録(過去30日間)
    (3)風邪様症状の所見と治療歴

国内の生産者、消費者への影響はほとんどなし

 2009年における1人当たり食肉消費量は、牛肉69.2キログラム(シェア63%)、鶏肉32.9キログラム(同30%)、豚肉7.7キログラム(同7%)と見込まれている。伝統的な牛肉中心の食肉文化から食の多様化が進んだことから、豚肉は、生産、消費ともに、今後、増加が見込まれており、近年ではAAPPによる消費拡大キャンペーンなどが奏功して、スーパーでも豚肉コーナーが設けられるなど徐々に消費者に浸透しつつある。
一人当たりの食肉消費量の推移
 今回の豚での新型インフルエンザの感染は、農場従業員からの感染の可能性が想定されたことから、SENASAでは養豚生産者に対し「全国警戒態勢」を宣言した。これにより、今後の豚への感染の注意喚起を行うとともに、豚の競売、家畜市場などを含めた畜産集荷場への豚の搬入について規制が設けられ、これを受け7月に行われた大規模な農畜産フェアでは豚の展示が見送られた。

 一方、豚肉消費については、4月26日に米国、メキシコで人の感染が確認されたことを受け、5月は1人当たり630グラム(前月比95.4%)と一時的に減少したものの、6月は同700グラム(同111.1%)と回復している。また、市場価格への影響は、この1年間1キログラム当たり3.05ペソ(生体ベース、71.1円:1ペソ=23.3円)で安定推移しており、今回の感染の影響はまったく見られない。
豚肉の消費と価格の推移

養豚場におけるバイオセキュリティが発生を未然に防ぐポイント

 これまでの対応についてAAPP会長によれば、「当時は情報の提供が逆に消費離れを引き起こすとも考えたが、初めから、豚への感染はあり得るが豚肉から人に感染することはない、ということを、医師と共にラジオ、テレビ、新聞で積極的にキャンペーンしたことが良い結果につながった。」ということである。情報のリスク管理は難しいが今のところうまくコントロールされているようである。

 また、今後の対応として、このウイルスが大きく変異しない限り、養豚場においては、外部から人によってウイルスを持ち込まないよう一般的なバイオセキュリティ対策をしっかり行うことが重要と考える。しかしながら、本来、変異が激しいインフルエンザウイルスであることから、原因ウイルスの性状を確認し今後の対策に生かしたいところであり、SENASAでは米国農務省(USDA)と共同で今回分離されたウイルスによる各種研究が進められている。
【星野 和久 平成21年11月18日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 調査課 (担当:藤原)
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