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カナダ政府、繁殖豚とう汰支援事業の対象を拡充

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 カナダ連邦政府は3月18日、経済環境の悪化を受けて飼養頭数を削減した養豚経営に対する支援措置の対象を拡充することを公表した。カナダの養豚経営は、飼料価格の高騰や米国向けの素豚輸出の減少などにより苦しい状況に置かれており、本年1月1日現在の豚の総飼養頭数は前年に比べて10.2%減少している。

繁殖豚とう汰事業の開始と運用の改善

カナダ政府は、昨年2月に、カナダドル高、飼料価格の高騰、肉豚価格の低迷などに苦しむ養豚経営を支援するため、カナダ豚肉協議会(CPC)が実施する繁殖豚のとう汰事業に対して総額5,000万カナダドルの支援を行うことを決定している。(平成20年2月28日付海外駐在員情報参照

 この事業は、畜舎単位で繁殖豚(繁殖母豚または種雄豚)をとう汰した事業者に対し、3年間その畜舎で豚を飼養しないことを条件に1頭当たり225カナダドルを補助することを主な内容とするものである。事業の開始当初、補助対象となる繁殖豚のとう汰期間は2007年11月1日から2008年11月30日までに設定されており、参加を希望する養豚経営は2008年9月1日までに事業参加申請を提出した上で同11月30日までにと畜を完了し、12月末までにすべての証拠書類を提出することとされていた。

 その後、昨年9月に事業の運用の一部が変更され、交付金のほかとう汰申請から実際のとう汰までの間に給付される繁殖豚1頭当たりの飼料助成費(1カナダドル/日)の上限が15カナダドルから30カナダドル(と畜場の受入頭数制限などの理由がある場合には最高45カナダドル)に引き上げられるとともに、とう汰に関する証拠書類の提出期限も2009年1月15日まで延長されていた。

補助対象の期間を過去にさかのぼって拡大

 今回の決定は、補助対象期間を過去にさかのぼって拡大し、2007年8月1日から同10月31日までにとう汰された繁殖豚についても補助の対象とするものである。これは、昨年9月の時点でCPCが政府に要請していることを明らかにしていたものであり、協議の開始から半年が経過して、ようやく政府が正式にその要請を認めたことになる。

 今回の補助適用対象の拡大について、カナダ農業・食料省のゲーリー・リッツ農相は、「現政権は、カナダの豚肉生産者が現下の世界的な経済危機を耐えしのぐことができるよう、彼らとともに努力を続ける。豚肉生産者の中には、この事業が開始される前に飼養頭数を削減するという苦しい経営判断を行ったところもあるが、事業の内容を変更して、これらの生産者が必要な支援を受けられるようにする。」として、昨年秋口以降の国際的な経済危機を今回の措置の理由と説明している。

 また、ジャン・ピエール・ブラックバーン歳入相・農業担当国務相は、「現政権は、カナダの豚肉生産者が苦況に置かれている時にこそ、いつも以上に生産者の側に立つつもりだ。生産者が事業の改善を求めてきたなら、我々は必要な変更を行うべく彼らと協調して努力する。」として、今回の決定がCPCの要請を受けて行われたものであることを示唆している。

繁殖豚のとう汰頭数は目標頭数を下回る

 カナダ統計局によると、2009年1月1日現在のカナダの豚飼養頭数は、前年を10.2%下回る1,240万頭となった。このうち、肥育豚の飼養頭数は1,099万6千頭と前年を10.6%下回ったが、繁殖豚については前年同月比7.1%減(140万5千頭)と平均よりも減少率が小さく、特に繁殖めす豚については138万1千頭と6.9%の減少にとどまっている。昨年2月にとう汰への助成が公表された時点では、繁殖豚頭数の1割削減が目標とされていたが、現時点ではこの目標値に達していない。

 カナダの養豚経営は、長く続いたカナダドル高や大手企業のリストラによる食肉処理場数の減少などにより、肥育経営の収益性は米国に比べて低い。このため、州政府による環境規制が強化されたマニトバ州などでは、米国向けの肥育素豚の輸出を増加させることで養豚経営としての生き残りを図ってきた。しかし、米国で食肉の原産地表示の義務化に向けた動きが加速しはじめた昨年夏以降、カナダからの豚の輸出頭数は減少する一方で、州境を越えた豚の国内移動頭数は増加している。

 米国では本年3月16日に食肉の原産地表示の義務化規則が施行され、子豚の生産・肥育・と畜のすべてを米国で行った豚肉と、輸入豚を米国内でと畜した豚肉との区分表示が正式にスタートした。しかし、米国のヴィルサック農務長官はこの義務化規則だけでは米議会の納得が得られないとして、国内の食肉処理業者に対して、子豚の生産地、肥育地、と畜処理地のすべてを自主的に表示するよう求める、異例の「要請文書」を発出している。これに対し、カナダ側はヴィルサック農務長官の要請が両国間の畜産物貿易に悪影響を与えるようであればWTO手続きにのっとった解決も辞さずと強い姿勢を崩していない。

 北米の養豚経営は、国境を挟んだ生産の分業化によりコストの低減と生産性の向上を進めてきた。近年、米国のコーンベルト地域における肥育豚の生産頭数が増加してきたのも、カナダの繁殖経営との分業が進展してきたからこそである。先日、米国のミネソタ州で開催された養豚関係者の会議において、カナダの豚肉生産者が「原産地表示の実施にあたっては米国の中西部の肥育豚生産農家の本音をよく聞くべきだ」と発言したと伝えられている。
(図1)カナダの繁殖用めす豚飼養頭数
(図2)繁殖豚飼養頭数の前年増減
(図3)カナダの豚輸出頭数
(図4)カナダの豚の州間移出入頭数
【郷 達也 平成21年3月24日発】
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