★畜産物行政価格


平成2年度畜産物行政価格等の決定について

農林水産省畜産局 塩田 忠、林 正司


指定食肉の安定価格並びに肉用子牛の保証基準価格等
  農林水産省では「畜産物の価格安定等に関する法律」に基づく平成2年度の指定
食肉の安定価格、並びに平成2年度から始まる肉用子牛生産者補給金制度に関して
「肉用子牛生産安定等特別措置法」に基づく肉用子牛の保証基準価格及び合理化目
標価格を別表のように決定し、3月31日及び4月2日付けをもって広示下、決定
までの経緯等について、その概略を紹介します。

1.指定食肉の安定価格

(1)  食肉の価格安定制度の仕組み
    食肉の価格安定制度は指定食肉の価格の安定を通じて、生産者の経営安定を確
 保しつつ、消費者への安定供給を図るため、豚肉及び牛肉についてそれぞれ昭和
 36年度及び50年度から始まり  ました。

    本制度では、枝肉卸売価格について、豚肉は「上」以上の規格、牛肉について
 は去勢牛肉の「B−2・B−3」規格のものについて安定価格帯(安定上位価格
 及び安定基準価格)を設け、ひいては食肉全体の価格の安定を図ることとしてい
 ます。

    なお、牛肉については、近年、好景気を背景に、需要が堅調であること等から
 牛枝肉卸売価格は堅調に推移してきましたが、今年度は、牛肉の輸入数量制限の
 撤廃を前にした最終年度であることに留意しておく必要があります。また、豚肉
 については需要の伸びは鈍化したものの、引き続き増加基調で推移しており、豚
 枝肉卸売価格は季節変動をとりつつも、堅調に推移しております。

(2)  安定価格の算定
    安定価格については、食肉の生産条件及び需給事情その他の経済事情を考慮し、
 食肉の再生産を確保することを旨とし、過去の実勢価格の動向、生産費の変化等
 をもとに算定が行われました(需給実勢方式)。算定の結果、豚肉についえは安
 定上位価格及び安定基準価格のいずれも据置き諮問され、また、牛肉については
 いずれも10円引き下げで諮問され、畜産進行審議会での答申を踏まえ、諮問ど
 おり決定されました。

2.肉用子牛の保証基準価格及び合理化目標価格

(1) 肉用子牛生産者補給金制度の仕組み
    平成3年度からの牛肉の輸入数量制限の撤廃を控え、わが国の肉用牛生産、特
 に肉用子牛生産に及ぼす影響に対処するため、肉用子牛価格が低落した場合、そ
 の生産者に一定の補給金を交付する肉用子牛生産者補給金制度が63年に創設さ
 れ、本年度から施行されることとなり、今回初めて平成2年度の保証基準価格及
 び合理化目標価格を定めることとなりました。

    本制度は、肉用子牛の売買価格が保証基準価格を下回った場合において、肉用
 子牛生産者が基金に加入し、肉用子牛を4月齢以上で販売したとき又は12か月
 齢まで自家保留していると、一定の補給金(合理化目標価額までは保証基準価格
 と差額の100%、さらに低落した場合は合理化目標価格との差額の90%を加
 算)を交付するものです。

    しかし、最近の子牛価格が堅調に推移しており、本制度が施行後直ちに発動さ
 せることはないようです。

(2)  保証基準価格及び合理化目標価格
    保証基準価格及び合理化目標価格は、過去の価格動向等を踏まえ、@黒毛和種
 及び褐色和種、Aその他の肉専用種、B乳用種の3区分で設定されました。

    保証基準価格は肉用子牛の再生産の確保を図ることを旨として、生産条件及び
 需給事情その他の経済事情を考慮して毎年定めるもので、算定方式については畜
 産振興審議会食肉部会内の小委員会での審議結果等を踏まえ、食肉と同様に需給
 実勢方式によることとなりました。

    また一方、合理化目標価格は、肥育経営にとっては牛肉の輸入数量制限が撤廃
 された段階で、輸入牛肉と対抗しうる価格で国産牛肉の生産を行うための肉用子
 牛価格であり、肉用子牛生産農家にとっては、長期的な視点にたって生産の合理
 化を進めていく方向を示す目標として、合理化の進展に伴い、漸次、保証基準価
 格をこれに近づけていくことが期待されるものです。

    また、牛肉の国際価格の動向、肉用牛の肥育に要する合理的な費用の額等から
 みて、肉用牛生産の健全な発達を図るための肉用子牛生産の合理化により実現を
 図る目標として設定されるもので、今回は平成2年度に適用するものとして(原
 則として5年ごとに設定)、具体的には、過去の牛肉輸入価格をもとにこれに対
 抗しうる国産牛肉生産のための肉用子牛価格として算定されました。

    今回、両価格とも、畜産振興審議会の答申を踏まえ、諮問どおり決定されまし
 た。

    なお、牛肉及び肉用子牛については、輸入数量制限の撤廃を1年後に控え、今
 後の価格動向が注目されますが、中長期的には生産コストの低減を図りつつ、輸
 入牛肉と対抗しうる国産牛肉の生産の確保がもとめられており、また、豚肉につ
 いては、今年度は安定価格も5年ぶりに据置きとなりましたが、一層の合理化の
 推進、生産性の向上等を図るように関係者が一丸となって努力することが重要と
 なっています。

平成2年度指定食肉安定価格並びに指定肉用子牛保証基準価格及び合理化目標価格

1  指定食肉安定価格
                    (単位:円/kg)
     去勢牛肉 豚肉
平成元年度 安定上位価格 1,295 565
安定基準価格 995 400
平成2年度 安定上位価格 1,285 565
安定基準価格 985 400
2  指定肉用子牛保証基準価格及び合理化目標価格
                                                (単位:円/頭)
    黒毛和種及び
褐毛和種
その他の
肉専用種
乳用種
平成2年度 保証基準価格 304,000 214,000 165,000
合理化目標価格 267,000 188,000 142,000
加工原料乳保証価格等

  農林水産省は、平成2年度の加工原料乳保証価格等を別表のよう決定し、3月3
1日付けをもって告示されました。以下、決定までの経緯を紹介します。

1.牛乳・乳製品の需給動向

  飲用牛乳の消費量が、62年度以降平成元年前半にかけ近年にない高い伸びを示
した事を背景にして、生乳生産は62年度後半以降前年度を上回る状況にあり、平
成元年度に入ってからも高い伸びを続けています。

  生乳は飲用牛乳の生産へ優先的に仕向けられるため、乳製品の需給はひっ迫基調
ないしは堅調に推移し、乳製品の価格は高水準で推移してきました。このため、6
3年度から平成元年度の半ばにかけて畜産振興事業団による脱脂粉乳、バターの輸
入・放出が行われました。

  このように高い伸びを示している。生乳生産に対して、平成元年度後半にはいり、
飲用牛乳等需要の伸び率が鈍化傾向を示すとともに、乳製品需要も停滞ないし微減
となったことから、乳製品価格は落ち着いてきているが、今後、過剰も懸念される
とから、計画生産の厳守が必要となっております。

  以上のような需給をもとに、2年度の生乳需給について見通してみると、まず需
要量については、飲用・乳製品とも今年度はわずかに伸びるものと見込まれ、国内
生産で充当とする生乳供給量は、817万3千トン〜829万6千トンと見込まれ
ています。これに対して、最近の乳用牛頭数や一頭当たり搾乳量等をもとに国内の
生乳生産量を推計すると840万8千トン〜853万1千トンが見込まれ、これら
の数量の差の23万5千トンが要調整数量ということになります。

2.保証価格等の算定

  保証価格については、生乳の生産条件及び需給事情その他の経済事情を考慮し、
主要加工原料乳地域(北海道)における生乳の再生産を確保することを旨とし、価
格決定年度の推定生産費を基礎として算定されました。

  具体的には、北海道における元年牛乳生産費調査を基礎として、肥育家族労働費
は製造業5人以上規模の労賃水準に評価替を行い、物財費等については直近の価格
水準に修正して算定された生乳の推定生産費に、租税公課諸負担、集送乳経費、販
売手数料及び企画管理労働費が加算されたものです。

  試算値は77円75銭/キログラムとなり、元年度保証価格79円83銭/キロ
グラムに対し2.6%低下となりました。

  指定乳製品(バター、脱脂粉乳、全脂加糖練乳及び脱脂加糖練乳)の安定指標価
格については、これら乳製品の生産条件及び需給事情その他経済事情を考慮し、指
定乳製品の消費の安定に資することを旨として定めることとされています。2年度
の試算値は、内外格差の縮小、消費の安定等の観点から、品目により差があるもの
の消費税分を上乗せしたもので前年度比0.7〜2.5%の引き下げとなっていま
す。

  基準取引価格については、主要な乳製品の製造業者販売価格から製造販売費用を
控除して、それぞれの乳製品の単位当たり支払可能乳代を算出し、これを生乳一キ
ログラム当たりに換算したものを、それぞれの乳製品の生産量(生乳換算量)ウエ
イトにより加重平均して算定されます。2年度の試算値は税込みで1.9%引き下
げの65円98銭/キログラムとなっております。

  生産者補給金を交付するに当たって、その対象となる加工原料乳の数量の最高限
度となる数量、すなわち限度数量については、生乳の生産事情、その他の経済事情
を考慮して定めることとされており、2年度については、前年度を5万トン上回る
235万トンとなっています。

3.  価格等の決定

  以上のような牛乳・乳製品の需給及び価格の算定結果による農林水産大臣の諮問
について、畜産新興審議会が「政府試算に示された考え方で決定することは、やむ
を得ない。」との答申し、保証価格等について諮問どおりに決定しました。

価格関連対策

  なお、これらとともに以下の価格関連対策が決定されております。

平成2年度畜産物価格関連対策
  平成2年度の畜産物価格関連対策として、次の事業を推進する。

〔食肉関係〕

1.  生産対策

(1)  低コスト生産推進対策(約44億円)
    肉用牛等の一層のコスト引き下げを推進するため、効率的な肥育技術の定着化、
 草地の高位生産利用の推進及び畜産先端技術の研究調査の促進のための措置を講
 ずる。

(2)  肉用牛繁殖対策(約33億円)
    肉用牛の生産拡大を図るため、肉専用種について価格低落時における繁殖雌牛 
 の増頭、維持のための奨励金の交付を充実するとともに、繁殖雌牛の増頭、一貫
 経営等を実施した集団に対して奨励措置を講ずる。

(3)  養豚等体質強化特別対策(約9億円)
    養豚経営の体質強化を推進するため、技術情報の分析・提供、オーエスキー病
 の発生等に対応した優良で清浄な種豚の供給体制の整備を引き続き行うほか、豚
 の民間での系統維持増殖のための施設等の整備、鶏の生産技術の強化を図る。

(4)  食肉等の需給調整活動等の推進対策(約9億円)
    豚肉等について需給動向に応じて計画生産を推進するため、引き続き、関係団
 体の調整活動等について助成するほか、今年度から実施される肉用子牛生産者補
 助金制度について、各都道府県基金協会における制度運営の適正化・安定化のた
 めの措置を講ずる。

2.  経営対策(約11億円)
  畜産経営の体質強化を図るため、昭和63年度から5か年計画で実施している
「大家畜経営体質強化資金特別融通助成事業」(融資総枠1,500億円)及び平
成元年度から4か年計画で実施している「養豚経営安定資金特別融通助成事業」
(融資総枠300億円)の推進と相まって、引き続き、農協等が、模範となる畜産
経営技術等の普及啓蒙、経営・財務管理に関する実践的指導を行う。

  また、畜産環境保全を図るため、脱臭機械・装置の貸付け事業を行う。

3.  加工流通消費対策

(1)  食肉の流通消費の合理化の促進(約33億円)
    食肉の流通消費の合理化を推進するため、牛肉流通の合理化・高度化に必要な
 経営資金の融資の円滑化、食肉卸売り業における設備機械の高度化、部分肉流通
 の促進、食肉に関する知識の普及啓蒙等を行う。

(2)  国産豚肉等の需要拡大対策(約25億円)
    国産豚肉の需要拡大を図るため、引き続き、低級部位等を活用した新製品の  
 開発・普及、産地センターが試験的に行う高付加価値豚肉製品の製造・販売及び
 国産豚肉等の新規用途開発に必要な食肉加工機械の貸付け事業に助成するほか、
 畜産副産物の流通合理化、鶏肉の消費拡大対策を講ずる。

(3)  食肉等の流通施設の整備(約100億円)
    食肉流通の合理化及び需給の安定化を図るため、公正な品質評価を行う格付け
 事業の一層の拡大を図るほか、引き続き、産地における流通施設の整備、大都市
 等消費地における食肉流通拠点の整備を進める。

(4)  食肉等の安全対策(約3億円)
    食肉等の安全性を確保するため、安全な畜産物の生産に寄与するための次世代
 ワクチン等の開発、ポストハーベスト農薬等による飼料汚染防止のための研究画
 開発等を行う。

〔酪農関係〕

1.生産・経営対策

(1)  酪農ヘルパー対策(約70億円)
    酪農の担い手の定着化と酪農経営の安定的発展に資するため、ヘルパー組織の
 体制整備、ヘルパー要員の育成・確保、ヘルパーの利用の調整等について助成を
 行う。

(2)  乳用牛検定情報の処理のシステム化(約8億円)
    酪農の安定的発展に資するため、乳用牛群検定のデータの通信を正確かつ迅速
 に行うための、オンライン化等を推進する。

(3) 草地の高位性利用の推進及び畜産先端技術研究調査の促進、畜産経営の体質
 強化のための経営・財務管理に関する実践的指導を行う。また、畜産環境保全を
 図るため、脱臭機械・装置の貸付け事業を行う。(〔食肉関係〕1.の(1)、2
 を参照)

2.  流通消費対策

(1)  牛乳乳製品消費拡大対策(約20億円)
    牛乳乳製品の一層の消費拡大を図るため、新たに一般家庭の主婦の啓発をねら
 いとした情報窓口を設けるほか、引き続き、牛乳乳製品の商品情報の提供、医療
 保険関係者等の協力による牛乳乳製品と健康に関する正しい知識の普及、需要増
 進を目指した牛乳乳製品のフェア・料理講習会の開催、幼稚園、老人ホーム等で
 の牛乳の集団飲用の促進等を一体的に実施する。

(2)  牛乳流通合理化対策(約3億円)
    生産者団体等の行う飲用牛乳市場の安定化、はっ酵乳等向け生乳取引の確認等
 に対して助成するとともに、公的機関による生乳検査体制の整備等を推進する。


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