★自由化レポート


自由化で弾みをつけたい米国産牛肉

米国食肉輸出連合会日本代表とのインタビュー


 今月号は自由化特集の一環として、米国食肉輸出連合会(USMEF)日本代表
とのインタビューを行う機会を得ました。牛肉自由化とのインタビューを行う機会
を得ました。牛肉自由化に対する米国食肉輸出連合会の考え方や意見について、日
本代表である田中稔一氏に聞いてみました。

 その中で同氏は、牛肉の輸入自由化を契機に日本市場でのシェアーの拡大に力点
を置いていることが印象的でした。

 インタビューの途中、今般、国際部門の副会長に就任したショエル・ハガード氏
にもインタビューをする機会を得たため、本文中の最期に折り込みました。

 以下はその要約です。

 聞き手は、津曲公夫食肉生産流通部長及び村尾誠情報課長です。


米国食肉輸出連合会とは

 私たち米国食肉輸出連合会(United States Meat Export Federation:USME
F)は、米国の畜産及び肉製品を国際的に広めるために米国の食肉関連企業及び団
体が1976年に設立した米国食肉業界の代表団体で、本部を米国コロラド州デン
バーに置き、現在の会長はフィリップ・M・セングであります。非営利団体であり、
その活動原資は、米国農務省海外農業局(Foreign Agriculture Service:FAS)
と関連業界からの拠出金よりまかなわれており、その割合はおおむね半分ずつであ
ります。

 したがって、当連合会は個々の商品の特定の企業を援助するのではなく、米国産
食肉の普及促進のためにさまざまなマーケティング活動を行っています。


とりあえずの目標は、米国産牛肉を知ってもらうこと

 米国産牛肉普及のための活動は以前から力を入れていますが、牛肉の輸入自由化
2年前からは、「米国産牛肉を使った料理講習会」や「小売り、レストラン・ハム
・ソーセージ関係の団体と組んだアメリカンフェアー」まで幅広く行ってきました。

 特に、平成元年に行った「消費者意識調査」では、一般消費者の米国産牛肉に対
する認識が低く、米国産牛肉の知名度が購入者全体の16%程度であったことから、
この数字を基点として考え、いままでおこなっていた新聞や雑誌等の草の根運動的
な広告から、現在では量販店や専門小売店が行うアメリカンビーフフェアー等の販
売促進活動やTV番組の提供、CMに活動経費の多くを投じています。

 また最近では、米国の食肉の安全性を広く知ってもらうための啓蒙活動や米国産
牛肉のすそ野を広げるため大手の総合食品メーカー等への情報の提供(コンサルテ
イション)も行い始めています。


平成3年の販売促進費は5割増

 近年まで米国政府と民間とを合わせた輸出促進費は、おおむね9億円ベースで推
移してきました(この金額は、牛肉のみならず豚肉や羊肉等の輸出促進費も含む。)
が、本年は自由化元年の年であり、活動経費が特別必要であることから、例年の約
5割増しを要求しています。


日本市場に熱い眼差しを向けたのは、パッカーよりも生産者

 牛肉の自由化を日本がしたことにより、米国ではパッカーよりも肉牛生産者に意
識の変化が見えたということであります。

 といいますのは、当連合会では肉牛生産者に対し、輸出をすることがいかに大切
なことであるか、輸出をすることよりいかに肉牛価格にはねかえってくるかという
ことを以前から説明していたからであります。例えば図で示されているとおり、生
産と輸入が減少するなかで輸出が増加することにより、肥育牛(Fed Cattle)や、
飼育用素牛(Fed Cattle)の価格が上昇しました。牛肉輸出額を各々換算すると、
肥育牛では1987年に100ポンド当たり2.36ドルであったものが、198
9年には4.66ドルとなり、また、肥育用素牛では1988年に100ポンド当
たり4.50ドルであったものが、1989年に7.45ドルと、確実に牛肉生産
者の実入りが多くなっていることを見ても、肉牛生産者が日本の牛肉の自由化に熱
い眼差しを向けた理由がおわかりになるでしょう。

写真
牛肉輸出量が肉牛価格に与える影響(ドル/100ポンド)上から順に子牛、
肥育用素牛、肥育牛である。


輸出志向へ意識が変わるパッカー

 パッカーも肉牛生産者に引きつられる形で、日本の市場を意識しだしてきました。
従来は、「米国にある余剰のものを輸出する」という考え方でしたが、4〜5年前
から様変わりしてきており、「付加価値をつけていいものを作らないと売れない」
という考え方に変わってきました。

 というのも、それには2つの要因があるからです。

 1つ目は、米国牛肉産業の活性化は輸出市場なしには語れなくなってきたからで
す。米国の牛肉消費量は低迷を続けており消費量の伸びは期待できなく飽和状態に
あり、年間約31s程度で推移しているからです。

 2つ目、日本側からのさまざまな要求がパッカーの考え方を変化させたというこ
とです。事業団で牛肉の自由化以前に行っていた新SBS制度により、米国のパッ
カーは日本市場から細かな規格の注文に既に慣れていたとはいえ、牛肉の輸入自由
化後は自由化以前にも増して日本側からの要求にそった規格のものをつくらないこ
とには売れないと認識し始めたからです。

 最近では、牛肉の規格はもちろんのこと品種の選定から牛肉の鮮度に至るまで、
こと細かなニーズがパッカーに要求されており、日本市場に対する対応の早さは豪
州に引けをとらなくなってきています。


現在の市場は一時的な混乱期

 米国の大手パッカーの経営構造も変化がでてきています。従来は、IBP、モン
フォート、エクセル等のパッカーは、事業団の買入入札を目指してシェアー争いを
していればよかったわけでありますが、自由化後は取引相手先の急拡大に対し早急
な対応をしているところであります。

 IBPは大きなシェアーを利用した販売計画で、モンフォートは品質を重視する
戦略で、また、エクセルは他企業とのジョイントを中心に活動しており、担当者を
増やしたり、また、新たに日本に事務所を構えたりするところが増えてきています。

 本年度70%の高関税と事業団と民間とを合わせた約10万トンの在庫により、
本年だけをとれば各パッカーの経営収支は良くないものの、各パッカーは今後、6
0、50%と関税率が斬減することにより日本市場に新たな秩序が確立され、市場
全体が安定することを望んでいると同時に経営収支が好転し軌道にのることを期待
してます。


大手パッカーにおいて増設されるチルドビーフの生産ライン

 最近の各大手パッカーの自由化後の対応状況を簡単にふれてみることにしよう。

 まず始めに、モンフォートは昨年約6万トンを海外に輸出しており、この内約4
万2千トンが日本向けであります。この内訳としては、ボックスドビーフが3万7
千トン、内蔵肉(アウトサイドスカート(ハラミ)やハンギングテンダー(サガリ))
が5千5百トンでした。また、チルドビーフの対日輸出量は6千5百トンでした。
チルドビーフのシェルフライフ(商品寿命)には自信をもっており、本年のチルド
ビーフの対日輸出目標は1万トンです。今後は、従来からのステーキレディ・スト
リップロイン(サーロインのステーキ用カット)や焼肉商材用のボンレス・チャッ
クリブ(肩バラ)、ショートリブ(ともばら)等に加え、トップラウンド(うちも
も)、ボールチップ(そともも)及びトライチップ(そともも)等のもも系に輸出
の重点を置いています。

 昨年のエクセルの対日輸出量は、ボックスドビーフと内蔵肉を含め約5万トンで
した。現在牛肉では5工場が稼働しており、コロラド州フォートモーガンプラント
に日本向けチルドビーフ専門生産ラインを設けています。このフォートモーガンプ
ラントでは、現在一週間当たり約15コンテナ(約240トン)生産しています。
本年は1万トンのチルドビーフを対日向けに輸出する計画であり、従来から人気の
あるストリップロイン(サーロイン)、リブアイロール(リブロース)、テンダー
ロイン(ヒレ)に加え、今後はチャックロール(肩ロース)やチャックアイロール
(チャックロールに磨きをかけたもの)等の焼肉商材用のチルドビーフに輸出の重
点を置いています。

 IBPは、昨年6万5千トン海外に輸出しており、うち95%が日本向けでした。
日本に対する売上高は1千億円であります。今年の目標は販売量を15%アップさ
せることであり、本年1月から6月までの時点で、フローズンビーフは前年同期比
で7%の減少でしたが、チルドビーフは300%の増加を記録しています。今後は
従来から人気のあるストリップロイン、リブアイロール、テンダーロインに加え、
チャックリブやチャックアイロール等の焼肉商材に輸出の重点を置いています。


変わるカートンボックス

 従来から米国の輸出姿勢を表すのに象徴的存在であった「輸送に弱いカートンボ
ックス」が、日本市場でのチルドビーフ需要がシェルフライフの延長とともに改良
されてきています。カートンボックス自体が頑丈になり、ボックスのなかの部分肉
の間には仕切り紙を入れるなどの工夫が施されているばかりか、日本の小口の流通
状況にも対応できるように1カートン当たりの重量が小型軽量化されてきています。

 シェルフライフについていえば、当連合会とテキサス大学との産学共同の成果も
あてっ60日のギャランティを可能な状況になってきています。


豪州と同様に輸入量の半分のシェアーを確保したい米国

 日本全体の輸入量を予想することは難しく、東京事務所では希望的観測も交えて
とりあえず下記のとおり予想をしています。

  本 年(1991年) 35〜39万トン程度
  来 年(1992年) 45万トン程度
  再来年(1993年) 50万トン程度

 ただし、来年及び再来年は、年間5%で消費量が増えていくことを前提とする。

 また、日本における米国産牛肉のシェアーは、現在の43%〜44%から今後は
50%まで増やしたいと考えています。


今後とも差別化により積み分けは可能

 牛肉市場の全体規模を大きくし品質差を明確にすることにより、今後とも和牛に
は和牛の、乳おすには乳おすの、そして、輸入牛肉には輸入牛肉の棲み分けが可能
であろうと考えています。そのためには、牛肉の特徴を追求し、牛肉の差別化を明
確にすることが今後とも重要な課題であると考えています。

 乳おすについては、米国産輸入牛肉(豪州産グレンフェッドも含みますが)との
競合がよくいわれておりますが、日本独特の食文化等の特徴の面で差別化ができる
のではないかということであります。

 といいますのは、乳おすは薄切り用途が多く、これから鍋物のシーズンになれば
乳おす需要が輸入牛肉の需要より増してくるものと考えられます。

 また、日本の一部の方が、将来米国内で日本で現在行われているような長期肥育
を行い、プライム級又はスーパープライム級(実際にはこんな恰好は存在しないが)
の肉牛を大量に生産し、乳おす格付以上の牛肉に競合するような肉牛を生産するの
ではないかといっておられますが、米国内ではプライム級の牛肉需要が限られてお
り、日本市場が買わなければさばけるところがない長期肥育の牛肉を大きなリスク
を背負ってまで生産することは、今後とも考えにくいことであることと思われます。

 よって、米国は現在肥育しているチョイス級の牛肉を今後とも日本に提供するこ
ととなると考えています。


ジョエル・ハガード副理事長とのインタビュー

 本年8月初めまで香港の代表を務め、国際部門の副理事長就任を機に、日本市場
を視察に来ていましたジョエル・ハガード氏に偶然インタビューをする機会を得ま
した。

 日本市場については、まだ熟知していないため現在の状況についてはコメントを
差し控えたいとのことでありましたが、日本市場に対する米国食肉輸出連合会の立
場として、以下の4点を挙げられました。

 以下はその要約です。

1.米国食肉輸出連合会は長期的に今後とも日本市場とり密接な関係を築きたい。
2.日本市場の要求(セットではなく単品の取扱いに対しては、当然米国は優れて
 いるが)に努力しつつ、安定供給に努めたい。
3.米国が1950年代初めから行っているグレンフェッドビーフについてのノウ
 ハウを今後はチルドビーフの小売店での販売に生かし、チルドビーフが日本の家
 庭でスタンダードな形で受入れられるように努力したい。
4.米国食肉輸出連合会は今後とも日本の食肉業界の販売促進活動のお手伝いをす
 るつもりであり、長期的には引き続き米国産牛肉がスムーズに日本の流通システ
 ムに流れるように努力したい。
                                 以  上


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