(財)日本食肉流通センター業務部長 小林喜一
(財)日本食肉流通センターは、食肉の流通改善と、部分肉の価格を中心とした 食肉に関する情報の収集と公表をその設置目的として事業を行っている。本稿では 当センターが畜産振興事業団の助成事業により行った「食肉の配送効率化」や「部 分肉流通高度化」の調査に基づいて、食肉卸売業界を軸として消費における食肉物 流の有り方を模索してみたい。 〔小売業種・業態間の競争〕 われわれの胃袋に押し込める食品の量に限りがあり、人口の増加に多くを期待出 来ない日本において小売段階ではこの限られた「パイ」に向けてし烈な競争が行わ れており、そのための様々な変化が生じてきている。 ●女性の社会進出とともに買い物行動の効率化が見られ、ワンストップショッピン グの色彩の強いスーパーマーケットや、早朝、夜間においても営業しているコンビ ニエンスストアでの食品小売シェアが拡大してきた。 食肉については、これらのセルフ対応のスーパー等での売上げがあらゆる品目で 50%を超えてから久しい。 ●さらに、外食マーケットの拡大が生じてきた。 昼食は当然ながら職場やその近隣の食堂で摂ることになり、夕食も、働く主婦の いる家庭(40才代では68〜9%が働く主婦)では、家族とファミリーレストラン等 へ足を運ぶことも多くなり、朝食までも駅前のファーストフードで済ませるという 生活パターンが増えてきたからだ。 食肉の需要も家庭用テーブルミートの需要のウエイトが減り、外食向け需要が増 加している。 ●外食産業のマーケット拡大に対抗して、スーパーやコンビニエンスストアの食品 販売業においても、イート・イン・コーナーを売り場に組み入れたり、家庭で手を 掛けずに食べられる各種弁当類や総菜・デリカ製品の販売に力を入れてきている。 外食産業側でも、メニューの多様化を図り家庭へのテイクアウト商品の開発をし て、外食マーケットや(家庭)内食マーケットの接合部である中(間)食マーケッ トのシェアの取り合いにしのぎを削っている。 ●一方、消費者の個性化・多様化への対応については、スーパー等よりも、消費者 のニーズを直接相対で感じ、きめ細かなサービスの提供が出来る食肉専門小売店に 対して期待されるものが多い。この業種全体のシェア減は後継者難等による店舗の 減少であるが、一店舗当たりの販売量は変っていないし、特色の有る店舗や老舗は 益々繁盛している店が多く見られる。 〔小売チェーンストアの競争激化〕 ●昨年は牛肉の輸入ばかりでなく、小売業の自由化も行われた。 「大規模小売店舗法」の規制も緩和され、今後は大型店舗の出店が加速されるで あろう。そして今まではこの大店法によって逆に保護されていた大型店の近くに他 チェーンの大型店が入り込み、大型チェーンストア同士の本格的な競争の幕明けと なっている。 ●チェーンストアがこの競争に勝ち残るポイントは、競争する各店舗で他より勝る 販売効率を上げられるかだ。すなわち各店舗のオペレーションやチェーン全体のオ ペレーションを他のチェーンよりもローコストで行うシステムを構築できるかどう かに懸っている。 ●先ず、都市の高価な用地を有効利用した効率の良い店舗を建てることから始まる。 限られた高い用地に如何に大きな面積の売り場を取り、店舗での作業を如何にした ら販売に徹した体制として組み立てられるかだ。 店舗面積を広く取ることは、作業場や冷蔵保管(冷蔵庫等)のバックルームが小 さくなるということで、店舗での作業が標準化され、その作業量も少なくなり、在 庫圧縮が図られるということになる。 ●これらローコストオペレーションのためにチェーンストアは自前で配送センター を持ち、店舗には定時に一括配送をする。 店舗では個別のメーカーや卸売業者が納入した際の検品等の受入れ作業が削減さ れる。 また、配送センターには加工センターを附設して、店舗での加工作業の削減や標 準化が行われる。 ●食肉の加工に関して言えば、店舗には精肉加工の技術を持った社員は少なく、店 内での加工作業の主役はパートタイマーの主婦である。このため、加工センターか ら各店舗へ送り込まれる部分肉は13部位(日格協省令規格)の形態ではなく、パー トさんでもスライサー等で容易に商品化出来る、整形度の高い25〜30部位の小割部 分肉でなければならない。 ●チェーンストアの中には、加工センターでの加工作業や値付け作業のいらないコ ンシューマーパックの製造をして店舗へ配送している企業もある。 ●大型チェーンストアにおいても近年の人手不足の現象は他業界と同様で、これか ら店舗展開を早めることと考え合わせると、配送・加工センター機能の強化を図る ことによって各個別店舗での加工を徐々に減らしていかざるを得ないであろう。 ●日本食肉流通センターが行った調査(平成3年度「配送効率化調査」)でも、配 送センターを持つチェーンストアのうち約80%の企業が配送センターの機能強化を 考えており、約70%の企業がそのセンターで加工をして、各個別店舗にはコンシュ ーマーパック形態での納入を計画している。 〔中堅スーパーチェーン等の動き〕 ●配送センター・加工センターを持たない中堅チェーンストアとしても小売業自由 化の海に船を出し、大型チェーンストアとの競争の波をまともにかぶっており、チ ェーンとしてのローコストオペレーションの確立に最大の努力をしている昨今であ る。 ●店舗での作業削減、作業標準化、在庫圧縮等、課題は大型チェーンストアと同様 だ。 ●店舗での食肉の仕入形態は、小割の部分肉が主体であるが、コンシューマーパッ クの外注(「アウトパック」させて)を導入した企業は67.2%(センター「配送効 率」調査)にも上っている。 ●店舗の在庫削減のためには、商品やその原材料(=部分肉)の発注頻度を多くし、 また、1回当たりの品目別仕入量を少なくしなければならない。 チェーンストアの55%が毎日仕入れを行い、1回当たりの仕入量は牛・豚合わせ て174s(ダンボールで7箱程度)、まさに多頻度・少量仕入れである。 ●店舗での発注作業も当然毎日のルーティンワークとなっている。 店舗での発注・在庫管理には情報機器が導入されていて、POSシステムの一環と して、商品毎のバーコード管理によって行われる。 ●(センターの調査で)50%のチェーンストアでは、仕入日の前日午后4時から6 時の間に店舗から発注が行われる。 配送センターを持ったチェーンストアではPOSシステムと連動したEOS(電子発注 システム)によって、チェーンストアの配送センターと仕入先業者にオンラインで 情報を伝えている。これに対し、高度情報伝達手段を持たない中堅チェーンストア では店舗から電話又はファックスで伝えられる場合が多い。 〔食肉卸売業者の対応〕 ●配送センター等を持たないこれら中堅のスーパーチェーンでは、店舗での作業標 準化のため、店舗への納入時間の指定をしている。 従って、これを納入する側の食肉卸売業者は夜間の品揃えや早朝からの配送の対 応をしなければならない。 ●また、店舗への納入車輌は食肉(精肉部門でも)3〜4車、他の食品と合わせる と数10車輌に達し、店舗近隣住居への騒音の配慮や、駐車スペースの問題から、仕 入先の数社に絞ってその社に配送センター機能を持たせる様に働き掛けている。 ●平成3年に中堅食肉卸売業者に対して行った「部分肉流通高度化」の調査では、 「小売業者からの対応で苦慮していること」として主に下記の事項が上げられた。 回答卸売業者32社(重複回答あり) ・納品時間の厳守 18社 ・納品頻度の増加 17社 ・小割整形の納品 13社 ・日曜・祭日の納品 12社 ・コンシューマーパックの製造 10社 ・チェーンストアの配送機能代行 9社 ・早朝夜間の配送 9社 ●食肉卸売業者にとってはいずれも大変な課題である。 小割やコンシューマーパックの製造は、発注が前日の為、産地の食肉センターや 卸売業者の委託工場での対応が出来ず、卸売業者はあらかじめ多くの在庫を持つか、 消費地に自社の作業所を持って加工しなければならない。 ●人手不足の折、深夜の製造や、品揃え、早朝からの配送や日曜・祭日の作業は人 材確保の面からも厳しい現状にある。 都市の交通渋滞による配送効率の悪化、さらに運輸業界の運賃値上げもあって、 食肉卸売業者の経営を危うくすることにもなりかねない。 〔食肉卸売業者の目ざすべき方向〕 ●食肉業界に限った話でなく、物流に携わる者は皆平等にこれらの難問にぶち当た っており、他の業界においてはこれを解決するために共同してことに当たっている 例が沢山ある。 大手の百貨店でさえ配送を相乗りさせたりしているし、アイスクリーム業界や薬 品の問屋、トイレタリー業界でも共同の配送会社を作る等の取り組みを始めている。 ●日本の食肉流通の多くを担う日本ハム、伊藤ハム、ゼンチク…等においては、加 工や物流体制の見直しをダイナッミックに進行し始めている。 ●大手企業は自力で問題解決に当たれるかも知れないが、中堅以下の食肉卸売業者 にあっては他の業界と同様に共同でことに当たるべきだろう。 中小のスーパーチェーンや食肉専門小売店等小売業界の同じ課題を抱えている所 とドッキングして共に考えていかなければならない。 ●食肉の卸売業は、消費者をつかんだ小売業界と産地・工場との情報や商品の中継 基地である観点に立って、小売業界で取り入れられている商品管理システムと連動 した、受注や加工、配送のシステムを構築しなければならないからだ。 ●食肉卸売業界の者のみでなく、食肉の流通に係る、食肉冷蔵保管業者、運輸業者、 そして高度情報のノウハウを持ったソフトウェアやハードウェアの企業にも参加し てもらう必要があろう。 ●日本食肉流通センターはこれらを志向する企業のコーディネーターとして機能し たいと考えている。 高度情報機器を備え、卸−保管−配送−小売の情報ネットワークを作り、多頻度、 少量配送システムを構築し、エリア別の卸・小売相乗りの共同配送を本年の事業の 柱として企画したい。 全国の食肉流通に係る皆様の参加をお待ちしております。