★ 事業団通信


生協の共同購入と畜産物需要の動向

小金澤孝昭(宮城教育大学助教授)


 畜産振興事業団は、平成3年度に畜産物需要開発調査研究事業を実施しました。

 この事業は、畜産物の新たな需要の開発を促進するために、調査研究テーマを一
般公募し、その中の13件のテーマを事業の対象として調査研究を実施していただい
たものです。

 これらの結果については、最終的には報告書としてとりまとめる予定ですが、今回
この中から宮城教育大学小金澤孝昭助教授の「生協の共同購入と畜産物需要の動
向」をご紹介します。

 なお、掲載に当たっては、ご本人に月報用に要約、編集していただきました。
1 はじめに

 消費が多様化している今日、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの
販売経路の複数化や外食産業の多様化は畜産物を含めて食糧消費を拡大するのに大
きな役割を果たしてきた。これら生鮮食品や加工食品の販売経路の多元化は高度経
済成長以降急速に進んできた。従来専門店販売が主流であったこの分野にスーパー
マーケットなどの量販店経路が参入してきたのは1960年後半であろう。量販店も全
国チェーン店からローカルなもの、さらに生活協同組合の店舗などと多様化してく
る。1970年以降になると量販店だけでなく、コンビニエンスのような消費空間をよ
り細かくカバーする小売業態が生まれてくる。身近なコンビニエンス、大量購入の
量販店という図式である。またこうした店舗の販売形態の他に無店舗の販売形態が
食料品にも普及してきた。生活協同組合で行われていた食品の共同購入が生活協同
組合の成長で拡大してきた。ついで消費生活の変化によって都市部では夕食材料の
供給産業が急成長し、農村部では1980年中半から農協が生鮮食料品(水産物・食肉)
の共同購入をはじめ全国に普及していった。こうして食品の販売形態は多様化、多
元化していったのである。

 しかし、販売経路や外食産業の多様化がほぼ一巡したようにみえる現在、さらな
る食糧消費の拡大や多様なニーズに応える食糧供給を進める上で、販売経路の複数
化が今後も消費拡大などにつながるのだろうかという疑問が生じてくる。とくに店
舗形態でない無店舗による食料販売経路は、店舗販売と今後とも共存していけるの
か、それとも店舗販売のシェアを侵食するものなのか疑問が生じてくる。そこで、
小論では、従来あまり取り上げられて来なかった食料品の無店舗販売形態(ここで
は食材供給産業と呼ぶことにする)に注目して、食材供給産業と食料消費との関係
を考察することにした。課題の一つは食材供給産業の概要を把握し、とくに畜産物
消費と食材供給産業との関係を考察した。これについては売上高がもっとも大きい
生活協同組合の共同購入を取り上げた。二つは食材供給産業の販売経路と店舗の販
売経路に対する消費者の意識を把握し食材供給産業の評価を行うことである。これ
については、みやぎ生協の共同購入組合員90,482名に対してアンケートを行い、21,
490枚のアンケートを回収した。(回収率23.8%)


2 生活協同組合の共同購入の概要

 食材供給産業の統計資料は十分整備されていないので概数値で把握することにな
る。この分野でもっとも大きい売上高を示すのは、生活協同組合による共同購入で
ある。総供給高は1990年推計で11,500億円、食品は9,000億円である。これに対し
て夕食産業大手の売上高は、タイヘイは1,330億円、ヨシケイ600億円、ディナーサ
ービスは560億円である(1989年度)。生活協同組合は、主に共同購入事業を中心
に成長してきた。近年、いくつかの生協が店舗事業にその中心を移しつつあるが、
まだ多くの生協では店舗事業と共同購入事業の併用を行っている。資料1は、日本
生活協同組合連合会に所属する上位20の生協である。上位の多くが京阪神、首都圏
や福岡、札幌、仙台など大都市圏ならびに広域中心都市に立地している。日本最大
の生協といえるコープこうべは、共同購入事業を進めながら多店舗展開も進めてい
る。コープさっぽろは共同購入方式ではなく店舗を中心に成長してきた生協である。
その他店舗展開で急成長したみやぎ生協などを除けば、その多くが共同購入比率50
〜80%と共同購入の役割が大きい。生協全体で見れば店舗事業の供給高の比率が高
くなっている。1990年度で店舗供給高は13,011億円、共同購入供給高は11,500億円
である。しかし、その伸び率は1981年度から各年毎にみると110%〜130%と高く19
90年度も前年伸び率115%と店舗の伸び率を上回っている。共同購入の供給高は生
協の中では店舗を下回るものの、小売業全体からみれば全体の1%を占めている。
また40兆円といわれる食品分野では、9,000億円で2%を占め、セブンイレブンの7,
000億円、ダイエーの5,000億円より大きいシェアを示している1)。

 現在、巨大な食品小売業に成長した共同購入の特徴は、消費者の分配作業負担、
計画供給、品目の限定にある。生協から配布されるカタログで消費者は注文し、1
週間後に品物を受け取る。品物は3人以上で組織される班の当番のところに配達さ
れ、そこで班員に届けられる。共同購入が宅配でないところに配送コストの節約が
あり、また班毎に配達日が決められているため配送ルートが錯綜せずここでも配送
コストが節約されている。配達日が週1回と決められていることは、配送コストだ
けでなく計画的に商品供給を可能にする。この計画的商品供給は、消費形態にとっ
ても重要な意味をもっている。最近の消費者の食品の購入形態は、共働きや生活時
間の使い方の変化、自動車、大型冷蔵庫の普及によって土日一括購入が増えている。
このことはとくに生鮮食料品にとっては日常的な需給不一致を生み出すことになり
かねない。こうした意味でも消費が1週間単位で偏らない共同購入形態は重要な意
味をもっている。

 さて共同購入は計画的な商品供給ができることと予約購入であるため、供給時期
と供給量を事前につかむことができる。そのため計画的な大量購入ができ、価格を
引き下げられる。また供給時期と供給量が把握できることは、生鮮食料品にとって
は産直方式を取り入れ易く、安全な食生活を指向する消費者を引き付けることにな
る。とくに牛乳や食肉など鮮度が重要な食品の産直は生産者にとっても計画生産が
可能になる2)。

 共同購入の場合共同仕入のリスクなどもあってカタログに掲載できる商品数は概
ね200〜260程度である。みやぎ生協の場合野菜で20品目、食肉(ハム・ソーセージ
類含む)で40品目程度になる。商品数としては少ないが、人気商品には固定需要が
つき需要が安定する。店舗をもつ生協の場合、品揃えは店舗で、共同購入で安定需
要という方向にある。店舗の少ない生協では、できるかぎり商品数を増やしたり、
2週、4週で商品を入れ替えて目先を変える工夫をしている。しかし、九州の生協
で商品数を大幅に増やし、かつ宅配を行って失敗した事例があり、共同購入の場合
商品数の限定が1つの特徴となる。

 いままでみてきたように生協の共同購入は、単なる無店舗方式ではなく組織的活
動となっており、このことが共同購入方式による低価格、鮮度、安全性の供給を可
能にしている。しかし、他方で組織活動の煩雑さは消費者に支持されない傾向もで
ている。共同購入の組織的メリットを維持しながら組織的煩雑さを解消することが
今後の共同購入の課題ともなっている。こうした課題に応える取り組みとして福岡
県のFコープでは特別の入力機を使った電話入力による注文方式を今秋から実験す
る。これは注文段階の煩雑さを解消しようとするもので、こうした取り組みの拡大
によって共同購入はまだまだ拡大することが予想できる。

 さて、畜産物の需要動向であるが、みやぎ生協を事例にすると1990年度の生鮮食
料品の供給高57億7千418万円のうち精肉は16億6千205万円と約29%を占めている。
供給高の伸び率は1985年から各年次の前年比で102〜110%で増加しているがほぼ固
定した傾向にある。肉の供給先は豚肉がみやぎ生協と提携している宮城県内の農協
系の加工センターからで、牛肉は北海道の池田町の農協との産直品と日本生活協同
組合連合会扱いのアメリカ合衆国産の冷凍牛肉とオーストラリア産のチルドビーフ
である。一つの生協の需要量自体は、みやぎ生協レベルでは数ヵ所の産地を維持す
るのでほぼ一杯という状況にある。但し、みやぎ生協の場合特定産地を指名するこ
とによって品質の安定を強調しているといえる。たとえば、みやぎ生協とほぼ同じ
規模で共同購入主体の福岡県のFコープでは、概ね九州全域から品質を確認の上定
期的に供給を受けており、供給先の在り方は個々の生協によって異なっている。ま
た、首都圏や京阪神圏の巨大消費地の生協ではより複数の産地との取り引きが活発
である。逆に規模の小さい長野県の生協などでは産地を十分育成する段階に至らず
商社からの仕入が多い。

 共同購入による畜産物の需要動向は畜産物の急激な消費拡大につながらないにし
ても安定供給と計画的な供給を可能にしていることは事実である。共同購入の場合、
保冷箱を使っているので冷凍品も冷蔵庫に直行できるため鮮度保持が可能で、冷凍
食肉の需要も大きなものがある。また国内産地の育成という視点からみれば、産地
丸抱えでないにしても、定量契約が可能になったり、比較的販売しづらい部位の販
売先という意味でも安定した需要を提供している。


3 共同購入と消費者行動

 次に、この共同購入の経路が消費全体においてどのような意味をもっているのか
検討しよう。共同購入は店舗購入と対立するものなのか共存するものなのかという
点である。

 これは、みやぎ生協の組合員(約31万人)のうち家庭班に所属している共同購入
組合員(約9万人)にアンケート調査を行った結果をもとにして検討した。アンケ
ート内容と単純集計結果は資料2のとおりである。

 回答率は23.8%であった。回答組合員の年齢層は20代が10.7%、30代が44.6%、
40代が28%、50代以上が16.7%となっている。回答組合員は30〜45歳までが全体の
64%と子育て階層が中心となっている。

 消費者の購買行動から共同購入をみると食材全体では、主として共同購入を利用
する組合員は約30%で、約55%の組合員は共同購入と店舗購入を併用していること
がわかる。これを年代別に見ると55歳以上層で主として共同購入を利用するが40%
を超えるが、それ以外は併用利用が多いことがわかる。

 次に米と野菜と肉の3つの購入形態をみると、共同購入依存の高いものは米の31.
7%、次いで肉が24.0%、野菜の3.5%の順となっている。共同購入の場合品数が少
ないため野菜の利用は限定されているが、日持ちのする米や冷凍保存のきく肉は、
共同購入に依存しやすい。食肉の共同購入依存層を年代別でみると20代、30代前半
層で低く55歳以上で高くなる。若い層は生協店舗やスーパーを利用し、年齢層が上
がるに従って生協利用、共同購入利用が高くなっている。この3つの品目の専門店
利用率をみると、米がもっとも高く40.8%、次いで野菜が28.7%、食肉の10.2%と
続く。米の専門店志向が根強いことが特徴的であるが、食肉は専門店志向が低くな
り、食肉購入での肉屋離れが進んでいる。食肉の購入形態は、組合員の消費行動を
見るかぎり、共同購入は併用されつつ店舗(生協・スーパー)利用も高いといった
多様化を示している。

 購入時の選択基準は、食肉では鮮度と安全性が高い値を示している。しかし、量
販店志向の強い中でのこの結果は、提供される鮮度と安全性であって自分で見極め
る鮮度と安全性ではないことを示している。その意味で消費者は安全や鮮度を情報
で買っている側面があり、共同購入や生協店舗の存在理由もこのあたりにあると指
摘できよう。いずれにしても消費者の購買行動を見るかぎり、食肉については共同
購入が店舗利用と併用され、消費の拡大に結びついていると判断できる。店舗利用
の場合、カタログで選択する共同購入と違って衝動購買が生じやすいからである。


4 おわりに

 生活協同組合の共同購入に代表される食材産業は、消費の多様化の中で急成長し
てきた。とくに生協の共同購入は食品市場の2%のシェアに達している。生協自体
が店舗展開を強めているものの、共同購入は生協の基本事業であり、今後も一定の
伸び率を保つことが予想できる。また共同購入は、計画的供給が可能になるばかり
か、消費の週間リズムの偏りを減らし供給の安定化をもたらす効用もある。生鮮食
品としての性格の強い食肉などの生産安定にとって重要な消費形態といえる。

 消費者の購買行動からみても共同購入は店舗購入を侵食する性格のものではなく、
消費全体を底上げをする役割を果たしている。共同購入、店舗利用の併用システム
を促すことは畜産物の消費拡大ならびに消費者の安全志向に応える上で大きな意味
をもっている。但し、これらの消費経路にしても徐々に加工品の需要が増加してい
る。調理用素材、加工品、外食の用途がそれぞれ偏らないようにすることも多様な
食料消費を保つ方向であろう。


参考文献

1)清野譲二「1990年度の全国購入概況」生協運営資料No.141
       日本生活協同組合連合会1991年9月
2)日本生活協同組合連合会『生協産直新たな可能性』1992年2月

資料−1 上位20生協の概要
順位 生活協同組合名 事業高(百万円) 組合員数(人) 共同購入比率
1 コープこうべ 327,880 1,005,439 21%
2 コープさっぽろ 149,413 673,113 9%
3 コープかながわ 140,799 811,823 20%
4 都民 88,068 401,108 57%
5 さいたまこーぷ 71,995 293,665 53%
6 みやぎ 68,664 312,111 27%
7 トヨタ 65,969 171,600
8 京都 59,085 304,921 62%
9 エフコープ(福岡) 58,232 258,139 85%
10 大阪いずみ市民 53,338 198,674 87%
11 ちばコープ 50,866 194,682 83%
12 ひろしま 37,242 151,800 95%
13 おかやまコープ 37,014 150,528 94%
14 コープしずおか 35,751 222,745 58%
15 名古屋勤労市民 32,596 110,116 86%
16 大阪北 30,5441 32,524
17 福島消費組合 27,982 76,637
18 東都 25,873 96,627 100%
19 ならコープ 25,243 25,243 77%
20 いばらきコープ 22,611 22,611
注)資料は共同購入比率を除いて1991年第3回全国生協産直調査報告書より
  共同購入比率は1990年第16回生協組合員生活動向調査報告書より

資料−2 共同購入についてのアンケート
Q1 食材全般について共同購入の利用の仕方を1つだけお教え下さい
@ 食材は、共同購入だけでほぼ間に合う。 2.4%
A 食材は、主として共同購入を利用し、不足分を店舗で補う。 28.6%
B 食材は、共同購入と店舗と半々くらい利用する。 33.6%
C 食材は、主として店舗を利用し、共同購入はきまったものだけ利用する。 22.5%
D 食材は、共同購入をときどき利用するだけ。 10.8%
E 食材は、共同購入はほとんど利用しない。 2.0%
Q2 米について共同購入の利用の仕方を1つだけお教えください
@ 米は共同購入だけでほぼ間に合う。 31.7%
A 米は共同購入と店舗と半々くらい利用する。 11.7%
B 米は生協店舗中心。 10.3%
C 米はスーパー(生協店舗以外)を利用する。 5.6%
D 米は専門店(米屋さん)を利用する。 40.8%
Q3 野菜について共同購入の利用の仕方を1つだけお教えください
@ 野菜は共同購入だけでほぼ間に合う。 3.5%
A 野菜は共同購入と店舗と半々くらい利用する。 27.3%
B 野菜は主として生協店舗を利用する。 19.2%
C 野菜は主としてスーパー(生協店舗以外)を利用する。 21.3%
D 野菜は主として専門店(八百屋)を利用する。 28.7%
Q4 肉について共同購入の利用の仕方を1つだけお教えください
@ 肉は共同購入だけでほぼ間に合う。 24.0%
A 肉は共同購入と店舗と半々くらい利用する。 33.1%
B 肉は主として生協店舗を利用する。 16.9%
C 肉は主としてスーパー(生協店舗以外)を利用する。 15.9%
D 肉は主として専門店(肉屋さん)を利用する。 10.2%
Q5 米を購入するときの、もっとも重視する選択基準を1つだけ教えてください
@ 価格 10.5%
A 品種名(ササニシキ、コシヒカリなどの品種名) 61.4%
B 精米の日付 4.9%
C 産地 8.4%
D 栽培方法(有機低農薬など) 14.8%
Q6 野菜を購入するときの、もっとも重視する選択基準を1つだけ教えてください
@ 価格 12.9%
A 規格(外観) 0.6%
B 鮮度 61.7%
C 産地 1.1%
D 栽培方法(有機低農薬など) 20.1%
E 国産であること 3.6%
Q7 肉を購入するときの、もっとも重視する選択基準を1つだけ教えてください
@ 価格 11.2%
A 規格 1.8%
B 鮮度 4.3%
C 産地 1.3%
D 部位 9.7%
E 国産であること 8.6%
F 安全性(飼育方法など) 24.1%
Q8 回答者の年齢層をお教えください
@ 20代 10.7%
A 30歳〜34歳 22.8%
B 35歳〜39歳 21.8%
C 40歳〜44歳 19.4%
D 45歳〜49歳 8.6%
E 50歳〜54歳 6.6%
F 55歳以上 10.1%
Q9 回答者の家族の人数をお教えください
@ 1人 1.4%
A 2人 9.5%
B 3人 19.5%
C 4人 39.8%
D 5人 19.0%
E 6人 6.6%
F 7人以上 4.1%
Q10 回答者の仕事についてお教えください
@ 専業主婦 64.1%
A 有職(パートタイム) 17.1%
B 有職(フルタイム) 11.0%
C 自営業 3.8%
D 農業 1.2%
E その他 2.7%


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