★ グラフで見る牛肉需給


輸入自由化後の牛肉の需給動向

企画情報部 企画課長 渡部 紀之


 牛肉の輸入が自由化されて、1年8カ月が経過した。その間の需給動向について
は、本誌の平成4年3月号及び8月号に時系列分析を行った結果を発表してきまし
たが、牛肉需給に関する各種統計が本年度第2四半期(7月〜9月)が発表となっ
たので、再度、牛肉の需給動向に関する時系列分析を試みたので、その結果を紹介
したい。

 なお、分析結果の説明は、最近の動向に重点をおいているので、分析手法(EP
A法)、その時々の分析内容、及び経時的変化等については、本誌の各号(平成2
年5月号〜8月号、平成3年6月号〜7月号、平成4年3月号及び8月号)を参照
していただきたい。

1.牛肉の需給量

(1)牛肉の生産量(図−1.参照)

 国産牛肉の生産量は、5月及び8月に前年同月比で前年を下回る等、鈍化の兆し
は見えるものの、89年11月以降ほぼ一貫して(連続2年11カ月)増加傾向で推移し
ている。

 これをEPA法のTC値で4月から9月までの伸びをみると、昨年度は102.4%
であり本年度は101.1%となっている。

畜種別の動向(図−2、参照)は、

@ めす和牛のと畜動向

 92年1月以降急増していたと畜が、7月から鈍化してきている。

A 去勢和牛のと畜動向

 92年1月以降横這いで推移していたと畜頭数は、最近やや増加傾向に転じている
が、EPA法での分析では、若干傾向変動が大きく現れることがあり注意を要する。

B 乳用めす牛のと畜動向

 92年1月以降横這いで推移していたと畜頭数は、4月以降明らかに減少傾向に転
じている。

C 乳用おす牛のと畜動向

 91年12月以降増加傾向となっていたと畜頭数は、7月以降横這い傾向で推移して
いる。

 以上のと畜動向が、国産牛肉の生産量の増加傾向の鈍化の兆の原因であると思わ
れ、これらの変化は、自由化後1年以上を経過して出てきた変化であり、自由化に
対応した生産が姿を現しつつあるものと思われる。


(2)牛肉の輸入量(図−1.参照)

 4月以降牛肉の輸入量は急増となっており、5月を除いて対前年度に比べて大幅
な増加を示している。なお、輸入牛肉量の増加にともなって、そのうちに占める冷
蔵牛肉の比率も増加(45〜55%)しており、豪州産は1万2〜3千トン、米国産は
4〜5千トン台となりつつある。

 これらの原因については、豪州産については本邦企業の運営する(業務提携を含
む)フィードロットの生産が増えて引き取らざる量が増えてることと、米国産を含
めて、冷蔵品の生産技術(包装、箱詰めを含む)が向上しシェルフライフ(冷蔵品
の保存期間)が長くなり、地方都市への流通が増えていることによるものと思われ
る。


(3)牛肉の在庫量(図−1.参照)

 牛肉の輸入自由化以降、在庫量は急減したが、92年5月をボトムとして再度増加
に転じている。

 増加の要因には、冷蔵品で輸入された牛肉が通関後ただちに凍結保管されるケー
スが増えだしていることも考慮する必要がある(当事業団が行っている保管状況調
査は月末時点の在庫調査であり、冷蔵品のように入出庫が短期間で生じる様なもの
は的確に掌握し難い)。


(4)牛肉の出回り量(消費量)(図−1.参照)

 事業団では、推定出回り量(消費量)を食肉の在庫調査に基づき、次の式により
算定している。

 推定出回り量(消費量)=期首在庫+生産量+輸入量−輸出量−期末在庫

 輸入自由化後の出回り量(消費量)は、ほぼ横這いで推移していたが、92年4月
以降は輸入量の増加に合わせるがごときに急増となっている。

 このことについて、92年度に入って急増している原因を流通業界の複数の者から
聴取したところ、
@ 惣菜部門(調理品、半調理品で、家計調査上では肉類の分類では計上されない)、
 持ち帰り弁当等の中食部門(家計消費、外食以外の消費部門)における牛肉使用
 量が増加していること

A 輸入牛肉の流通量が(2)で触れたように、相当量が地方に流れ出しており地方
 での輸入牛肉の販売量が増えている(総理府の家計調査では、家計消費量がサン
 プル調査でもあり、また、大消費地に片寄っている面があることから、消費生活
 が成熟している所の消費を強く反映、消費の拡大しているエリアを適切に表わし
 ているものではないものと思われる)

B したがって、従来の各種統計調査では掌握しきれていない分野での消費が拡大
 していると分析説明する者が多かった。


2.牛肉の価格

(1)国産牛枝肉価格

@ 和牛(図−3.参照)

 和牛枝肉価格の動向は、自由化決定後(88年7月)一時的に値上がったが規格下
位のものは自由化以前に相当の値下がりを見た。自由化後は全体としての下降傾向
が鈍化する一方で、規格上位のものに下降傾向が波及し、規格下位のものに比して
下降傾向は顕著となったが、自由化2年目に入ってこの傾向は鈍化し、このところ
数カ月の傾向は横這いから値上がり傾向に転じている。


A 乳牛(図−4.参照)

 乳牛枝肉価格の動向は、和牛の価格動向と同様な展開となっているが、規格最下
位グループの「C−1」、「C−2」の価格は、ほぼ横這い状態で安定した推移を
しており、下げ止まり感を強めている。

 なお、最近数カ月の動向は、全ての規格について若干の値上がり傾向に転じてい
る。

 以上を総括的に言うとすれば、国産牛肉の規格下位のものの価格が輸入牛肉との
比較において、価格的なバランスがとれ出していること、需要者にとっては相対的
な値ごろ感が出てきていることが、価格的な安定感に寄与しているものと思われる。

 また、輸入牛肉が急増する中にあって、国産牛肉の生産が鈍化してきており、輸
入牛肉と国産牛肉の需要が二極化していると想定すれば、国産牛肉生産量の鈍化が、
価格を押し上げる要因として働いているとの想定も成り立つものと思われる。


(2)牛部分肉価格

@ 高級部位(サーロイン[国産]、ストリップロイン[豪州産、米国産])
(図−5.参照)

 国産牛肉の高級部位の価格では、去勢和牛のサーロイン価格は90年12月以降値下
がりに転じていたが、92年4月以降は再び値上がり傾向となっており、乳おす牛の
サーロインは90年3月以降値下がりが続き、品質間格差は再び拡大している。

 輸入牛肉の価格では、豪州産の冷凍品のストリップロインは91年7月で調査対象
品目から除外しているので、その後の動向は不明であるが、冷蔵品のストリップロ
インは若干の変動はあるものの、自由化を決定した88年7月以降一貫して値下がり
傾向が続いており、豪州産の輸入牛肉は冷蔵、冷凍品の両方とも値下がりが続いて
いるものと思われる。一方、米国産のストリップロインは、91年後半の横這い状態
から最近は値上がり傾向に転じている。

 国産牛肉のサーロイン、輸入牛肉のストリップロインとも品質比較で(一般的な
区分で)比較的高品質のものは価格が上昇傾向、比較的低品質のものは値下がりが
続いており、価格の動向に差異が生じている。


A 中級部位(うちもも[国産]、トップサイド[豪州産]、トップラウンド[米国産])
(図−6.参照)

 国産牛肉の中級部位の価格では、去勢和牛の「うちもも」は値下がりが続いてい
るが、乳おす牛の「うちもも」は自由化後大きく値下がったものの、92年4月以降
は横這いからやや値上がり傾向となっている。

 一方、輸入牛肉では、豪州産の冷蔵品のトップサイドは一時的な値上がりがあっ
たものの依然として値下がり傾向にあるものと思われ、豪州産の冷凍品のトップサ
イド及び米国産のトップラウンドは、最近はほぼ横這い傾向となっている。

 前述の高級部位の牛肉と同様、価格動向は品目(品種、形態)によって異ってき
ているが、需要者の対応に変化が生じているのか、品目別の需給に変化が生じてき
ているのか、必ずしもその要因は明確ではなく、これらの動向はさらに注意深く見
守る必要がある。


B 低級部位
(かたばら[国産]、フル・ブリスケット[豪州産]、ブリスケット[米国産])
(図−7.参照)

 国産牛肉の低級部位の価格では、去勢和牛の「かたばら」の価格は横這いから若
干の値下がり傾向、乳おす牛の「かたばら」の価格は一時的な横這いの後値下がり
傾向となっている。一方、輸入牛肉の価格は、豪州産の冷蔵、冷凍品のフル・ブリ
スケット、米国産のブリスケットはやや横這い傾向にあるものの、ともに依然とし
て値下がり傾向が続いている。


(3)牛肉の小売り価格

 牛肉の小売り価格については、事業団が大手量販店(スーパーマーケット)、専
門小売り店からの聞き取り調査を実施しており、その動向は本誌92年4月号から月
単位の動向を発表してきている(事業団の独自調査)。

 これらの価格調査は、調査先の選定、調査方法等の設計に手間取ったことから、
ほぼ一定した調査結果が得られだしたのは91年7月からであり、調査期間が短いこ
とから、時系列分析は行えなかった。

 このため、小売価格については、91年9月と92年9月の価格動向を直接対比する
こととした。


@ 高級部位(サーロイン)(表−1,図−8,9.参照)

 前年対比では、豪州産のサーロインが値上がり、その他及び米国産は値上がりと
なっている。変動幅は−3%〜+3%程度でありそれ程大きな変動とはなっていな
い。

 なお、通常価格と特売価格の対比では、品種によって15、6%〜25%の値引きと
なっており、価格の高い和牛よりは価格の安い輸入牛肉の方が値引き率が高い、ま
た、格差は年の経過によってもあまり変化していない。

表−1.牛肉の小売り価格(サーロイン)
   和 牛 その他 豪州産 米国産
91年9月 通常価格 1,180 637 398 472
特売価格 972 494 301 356
格  差 82.37% 77.55% 75.63% 75.42%
   和 牛 その他 豪州産 米国産
92年9月 通常価格 1,157 657 414 451
特売価格 970 499 305 359
格  差 83.84% 75.95% 73.67% 79.60%
A 中級部位(もも)(表−2,図−10,11.参照)

 前年対比では、「その他」を除いて値下がりとなっているが、米国産を除いてそ
れほど大きな値下がりとなっていない。

表−2.牛肉の小売り価格(もも)
   和 牛 その他 豪州産 米国産
91年9月 通常価格 601 398 245 310
特売価格 470 304 187 219
格  差 78.20% 76.38% 76.33% 70.65%
   和 牛 その他 豪州産 米国産
92年9月 通常価格 584 409 243 285
特売価格 493 323 175 218
格  差 84.42% 78.97% 72.02% 76.49%
 通常価格と特売価格の対比では、16%〜29%の値引きであるが、国産牛肉に比し
て輸入牛肉の値引き率が大きくなっている。


B 低級部位(ばら)(表−3,図−12,13.参照)

 前年対比では、その他と豪州産は若干の値上がり、米国産は値下がりとなってい
るが、和牛肉の4%の値下がり以外は、変化率はあまり大きくない。

表−3.牛肉の小売り価格(ばら)
   和 牛 その他 豪州産 米国産
91年9月 通常価格 409 264 166 309
特売価格 328 206 141 236
格  差 80.20% 78.03% 84.94% 76.38%
   和 牛 その他 豪州産 米国産
92年9月 通常価格 391 264 169 307
特売価格 321 190 145 248
格  差 82.10% 71.97% 85.80% 80.78%
 通常価格と特売価格の対比では、15%〜28%の値引きであるが、上、中級部位と
異なり、豪州産の値引きの割合が他に比べて小さいのが注目される。

 最近マスコミを中心に、「牛肉は自由化されたのに安くはならなかった」との評
価があるが、通常価格での比較ではそのように見えるものの、大手量販店を中心に
牛肉の特売が増えてきており、自由化以前は週1回の特売が最近では週3〜4回に
増えていること、特売での販売量が牛肉売上の4分の3にまで達してきていること
(業界からの聴取内容)を考慮すれば、実質的には牛肉の小売り価格はかなりの値
下がりになっているものと思われる。

3.まとめ

 以上を総括的にみると、最近の牛肉の需給動向は、

(1)供給面では

@ 国産牛のと畜動向は、急増していためす和牛が横這い傾向となりだしたこと、
 乳用牛は「おす」「めす」とも横這いから若干の減少傾向、去勢和牛は増加傾向
 にあるもののその傾向は鈍化しつつあり、これらの動向を総じて見た場合、国産
 牛肉生産量全体としては、今後それほど大きく増加するようには思われない。

A 輸入量は、4月以降急増を続けているが、昨年度が割合少ない輸入量であった
 ことも急増となっている印象を与えている面もあり、前年度同期比での数値は若
 干割り引いて判断しなければならないが、それでも出回り量と比較してやや増加
 傾向にあると考えられる。今後この傾向が継続するかどうかは、輸入牛肉の国内
 相場の水準いかんによるものと思われる。

(2)需要面では

 時系列分析上は、昨年度の停滞傾向で推移したものが一転して今年度に入り増加
傾向で推移している。
 
 このことは、前述のように「中食」や「地方」での、従来の諸統計調査で掌握で
きていない部分での需要が拡大しているとすれば、今後の需要拡大に期待がもてる
ものと思われる。

(3)価格面では

 枝肉価格、部分肉価格とも最近の動向は、総じて見れば一部値下がり傾向にある
ものの、その傾向は鈍化しており、特に枝肉価格の動向は、規格上最下位にある乳
めす牛の「C−1」が完全な下げ止まりが続いていることで、それ以上の上位規格
の物は横這い傾向から若干の値上がりに転じているものもあり、国産牛肉の「値ご
ろ感」は拡大しているものと思われる。

 したがって、輸入量の増加がいまだに輸入牛肉価格の値下がり傾向を招いている
ものの、国産牛肉の生産量ががそれほど増加しなければ、国産牛枝肉価格は当分の
間は比較的安定的に推移するものと思われる。


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