株式会社ニチイ 専販事業本部 食品戦略部 デイリー担当次長 有賀 光隆
去る10月20日、畜産振興事業団主催の乳業者経営研修会において潟jチイ有賀光 隆氏に、国民消費の最前線で活躍いただいているスーパー業界の目からみた今日の 商品戦略について講演いただきました。以下はその講演内容をとりまとめたもので す。 消費者が楽しめる売り場づくりを目指すサティ化戦略 当社の全体的な組織としては、時代に合った売り場づくりを目指して業態別の戦 略事業本部制をとっており、私の所属する食品戦略部もその一つです。食品戦略部 では、現在、サティ化戦略を推進しています。 今の時代、消費者は食品の買い物を苦痛と感じるようになってきています。主婦 の就労割合が6割を超え、買物が短時間化されているのもスーパーでの買物に楽し みを見いだし得ないでいるからとの認識から、生活百貨店といいますか、消費者に 買い物が楽しめる売り場づくりを目指そうというのがサティ化戦略です。 具体的には、「ショップ」という専門特化された品ぞろえをした売り場づくりを 進めています。例えば、豆腐だけをそろえた「公卿」というショップがあります。 お客様はその日にできた豆腐を食べたいのに、町の豆腐屋さんの廃業が相次いでい ることもあって、この手造りの豆腐を売るショップが非常に好評です。これまで豆 腐は食品の売り上げの中で1.4%を占めるだけだったのですが、今は2.2%にアップ し、年間6千万円を売り上げる「公卿」も出ています。こうした「ショップ」は60 %近い粗利益が可能ということもあって、全国で38店の「公卿」を構えています。 ライフトレンドをつかむ 現場から見た商品づくりといわれますが、消費者のニーズをとらえる、いいかえ れば生活者の発信する電波をとらえて、それを商品づくりに活かすことが重要だと 考えます。 それでは、消費者の生活マインドはどんな傾向にあるのでしょうか。基本的には、 次の5点に集約されます。 1 生活の個人化志向。ー家族という単位の中でも個人の好みが優先されてきてい ます。 2 生活の行動半径を広げる活動交流志向 3 それぞれの個性(能力)を生かした文化創造志向 4 より若々しさを求める健康快適志向 5 経済的な合理性を追求する生活効率化志向 食における消費者ニーズ このような生活マインドを食文化ということで考えてみますと、次のような主な 特徴点があげられます。 1 個食化の進行、これは小容量化ということではなく、おいしいものを私なりに 食べたいという個人のニーズが明確になっている。 2 グルメ志向は相変わらず強い。 3 外食機会は増大し、みんなで楽しく食事をしたい。 4 楽しみながら食べるという食のレジャー化が進んでいる。 5 ケーキ用マーガリンや生クリームの伸びにみられるように、食の体験化が進ん でいる。 6 食のコミュニケーション化、メディア化。安いだけでは売れない、食を通じて 仲間と楽しみたい、○○料理は△△店でなければだめという傾向がみられる。 7 本格手造り志向、つまり本物の料理、味である。 8 基本的には混食化の傾向にあるが、洋食、和食のトレンドは10年周期であり、 現在は洋風化の流れにある。 9 健康安全志向、自然回帰志向が強い。 10 主婦の調理時間離れから調理の利便性が求められている。 新しいコンセンプトでの商品開発をする必要がある現代 以上のような消費者のニーズを満足させるために、小売業はどのような対応をし ていくべきでしょうか。 昭和30年代前半は商品欠乏市場で、物欲を充足させるだけで間に合っていました。 40年代は需給のバランスが良くなり、自我の充足が問題でした。50年代は需要より も供給が多い物余りの過飽和市場の時代であり、多様化が進みました。 そして現代は、自己確立、個性化の時代であり、従来のファミリーではなく、家 族の中でも個々人がそれぞれのニーズをもっています。例えば、ファッションのト レンドというのは、今は把握するのが難しく、それぞれが気に入ったものを着ると いう時代になっており、個々人が満足する質、量を充たさなければなりません。現 在も過飽和の時代なのですが、欲しい商品がありそうでないという客の不満にどう 応えていくか。これまでのように、各世代のライフサイクルというとらえ方ではな く、ライフトレンドといいますか、感性でとらえるマーケットのセグメントを行い、 新しいコンセプトでの商品開発をする必要があります。 10年程前までは、スーパーに要求されましたのは、品揃えの多様化ということで したが、今は、一消費者の欲求に応えられる商品の品揃えが必要であり、販売・提 供方法による深堀りの商品構成が重要となっています。 量販店については、少し前までは350−400坪あれば通常の生活必需品はカバーで きましたが、今は販売・提供方法のバラエテイ化が必要で、必然的に大型化の傾向 にあります。 それとともに、主婦の食品の買い物所要時間は20−30分といわれていますが、買 い物に物足りなさを感じているので、アメニティを強化して楽しんでもらえる売り 場づくりを目指す必要があります。 品質や開発コンセンプトについての消費者の理解が得られること それでは実際に商品を開発する場合のターゲットをどこに定めたらよいのでしょ うか。いくつかの具体例をあげてお話しいたします。 エンゲル係数は、10年前の31%から27%に低下し、衣食住全体のポイントも下が っています。これは金がないわけではなく、その分が教育やレジャーに回っている と思われます。 しかし、販売単価を安くすれば売れると考えるのは間違いで、米の例にみられる ように、米全体の量そのものは伸びていないのに、単価の高いブランド米が売れ筋 になっています。この傾向は他の商品にもみられ、販売点数は余り変化をしていな いのに販売単価は上がっていて、結果的には3−4%の売上げ増になっているとい う状況です。 現在、一人世帯が全世帯数の23%を占めるにいたっていること、朝食・昼食・夕 食と決まってとらず、食べたい時に食べるという3食から5食の多食化傾向にある こと、調理時間短縮の傾向にあること等から、自動販売機に対応した商品の開発も 有望でしょう。自動販売機はほとんどの商品が飲料となっていますが、これからは 多食化に合わせた食品の開発の余地が十分あると思います。 それに、労働時間の短縮が進み、週休2日制から週休3日制へ移行していくと考 えられるので、少なくとも週のうち1日は家でゴロゴロしている男性をターゲット にした「男のメニュー」がトレンドになると思われます。 当社の「公卿」ショップでは、「五目うの花」という男性の味覚をターゲットに した惣菜を発売していますが、通常の惣菜の4倍を売り上げています。これは、中 に入っている野菜がはっきりわかることに加え、普通よりもちょっと“しょっぱく” していることが、つまみやごはんのおかずとして合っているということで受け入れ られたのではないでしょうか。清涼飲料水のペットボトルの売上げの低下にみられ るように、甘いものは量的に食べられないとの発想から考えられた商品なのですが、 予想以上の人気商品となりました。 さらには、客の欲求、不満に応えることが新規開発につながっていくと思います。 弁当箱の例で考えますと、箱としてはいろいろな種類のものが出回っていて、おか ずを入れる部分の区分けが多くなっているのに、中に入れるおかずそのもののサイ ズは変わっていないので、ここも開拓の余地があると思います。牛乳についても、 今以上に細分化した商品開発が必要ではないでしょうか。 最後に、商品の認知度をいかに上げていくかということですが、消費者は店で販 売されている商品が品質の良いのは当たり前だと考えており、メーカーブランド志 向はありません。品質保証、安全性等の裏づけだけを求めているので、品質や開発 コンセプトについて消費者の理解を得られるようにすることが大事だと考えていま す。