★ これからが本命、赤肉のたんかく和牛(下)


日本短角種による赤肉生産の現状

岩手県肉牛生産公社専務理事 村田 敦胤


1 日本短角種の飼養頭数

 全国で飼養される短角牛は、平成2年31,000頭、肉用牛頭数の1.1%にあたる少
数民族である。岩手では、肉用牛頭数の10%のシェアーを占めるが、北上山系の主
要な山村では、重要な基幹産業として、農業粗生産額の25%を占めている。

 岩手県肉牛生産公社では、短角牛の改良に必要な種畜の生産供給を行うため、平
成4年4月現在、繁殖牛1,813頭を飼養している。

表1.日本短角種の飼養頭数(平成2年)
                (頭)
   2才以上の雌 肥育
岩 手 9,105 4,536 13,641
青 森 4,573 2,847 7,420
秋 田 1,247 706 1,953
北海道 2,429 995 3,424
その他 89    
 計 17,443 9,084 26,438
(注)子牛等を含めた総頭数は31,084頭。


表2.岩手県肉牛生産公社の飼養頭数
    (平成4.4.1)
成 雌 997 1,813頭
育成雌 159
子 牛 657
肥育牛 838
 計 2,651頭
資料:農林水産省家畜生産課


表3.主要短角地帯の粗生産額(平成2年)
         (単位:100万円、%)
   農業粗生産額 うち短角 割合
岩泉町 3,604 954 (26.5)
山形町 1,160 298 (25.7)
安代町 2,870 429 (14.9)
川井村 1,473 656 (44.5)
資料:岩手県畜政課


2 子牛市場価格の推移

 短角牛が産地で駄目だというのは、自由化を前にした昭和62年の1頭当たり284,
936円をピークに、子牛市場価格が毎年下落し、平成3年には113,934円と半値以下
までに下がり続けたからだけである。どうしても、目先のことで影響を受けやすい。

 なぜ下がったのか、まずこれまで輸入肉と一番競合することがあげられた。また、
市場としては零細で強い価格指示ができる建値市場となりうるものがないこと、ま
して子牛が不揃いで、140〜380sの体重のバラツキのものが上場されていることな
どが指摘されている。

 これに対し、産地としてどれだけの努力が払われてきたのか、どうしようとして
いるのか将来への展望がかかっている。

表4.子牛市場価格の推移(売買成績)
60 61 62 63 平1 2 3
頭数 6,527 3,795 5,856 5,674 5,399 5,420 5,507
平均
価格
195,341 261,560 284,936 231,381 236,090 159,227 113,934
資料:岩手県経済連


3 子牛、肥育牛の生産原価

 直接経費としてかかっている生産原価を、肉牛生産公社と岩手県畜産会の調査と
で比較してみると、次のとおりである。

 子牛1s当たりの生産原価は、平成元年と2年の連結原価では、1,045円、畜産
会は昭和63年1,147円である。

 一方、肥育牛1s当たりの生産原価は、肉牛生産公社665円、岩手県畜産会575円
である。公社の人件費は、繁殖牧場、肥育牧場それぞれの牧場職員の給料であり、
農家所得に見ればよいものである。

 公社の子牛生産原価の大きな要因は、経費の節減もさることながら、子牛の取得
率如何にかかっている。即ち子牛の生産頭数がより多く、事故率が少ないことであ
る。ムダ飯を食うものが少なくなれば、それだけ取得体重が大きくなるからである。
25年前、500頭規模の大規模飼養技術体系もなく、試行錯誤でスタートした繁殖生
産は、ここ5カ年の平均で生産率が84.5%、事故率が5.6%となったが、今後生産
率87%以上、事故率2.5%以下となればコスト面で5%、生産原価で45円ほど改善
することができる。

 また、肥育牛は、繁殖牧場施設をそのまま肥育牛舎として活用し、50〜70頭規模
の群飼いで、広いパドックの中を運動させている。一般の肥育では6〜7頭のマス
飼いで、これと比較すると、エネルギーを消費し、飼料効率の面でマイナスではな
いかと見学者から見られているが、健康な牛肉を生産供給しようと考えている私達
の立場からすれば、牛がまず日光浴をし、健康であること、ゆったりと落ち着いて
ストレスがないこと、糞尿の異臭がないことに加え、内臓廃棄が少ないことが、短
角牛の健全さを物語るものとして売りものにしている。

4 肥育出荷成績

 年次が不揃いだが、肉牛生産公社と畜産会調査のものを掲げてみよう。

 短角牛の肥育は、粗飼料多給で精肉歩留の向上を図ることが大事である。

 次に枝肉規格の状況を両者の成績でみると、規格の3や4の高望みをするよりも、
まず1規格をなくする努力が先決である。

表5.肥育出荷成績
(岩手県肉牛生産公社)
  年度 平成元年度
n=517
平成2年度
n=527
平  均
区分  
導入時月令 7.8(ヶ月) 8.1(ヶ月) 7.95(ヶ月)
肥育開始体重 237(kg) 244(kg) 240.5≒240(kg)
肥育日数 422(日) 429(日) 425.5(日)
出荷月令 21.7(ヶ月) 22.2(ヶ月) 21.9(ヶ月)
出荷体重 631(kg) 647(kg) 639(kg)
期間中D・G 0.93(kg) 0.94(kg) 0.935(kg)
枝肉重量 371(kg) 383(kg) 377(kg)
枝肉歩留 58(%) 59(%) 58.5(%)
(岩手県畜産会)
  年度 63年度出荷経済肥育実績
肥育短縮型 前期粗飼料多給型
区分  
n=957 n=583
導入時月令 7.2(ヶ月) 7.3(ヶ月)
肥育開始体重 260(kg) 239(kg)
肥育日数 355(日) 432(日)
出荷月令 18.8(ヶ月) 21.6(ヶ月)
出荷体重 621(kg) 632(kg)
期間中DG 1.03(kg) 0.93(kg)
枝肉重量 368(kg) 376(kg)
枝肉歩留 59.1(%) 59.2(%)

5 短角牛1頭当たり経営試算

 私は、これまで短角牛が正当な評価をうけ、自立するためには、地域一貫生産し
かないことを訴え、一貫生産の場合の価格形成の目安として、生産子牛1頭当たり
20万円(7カ月齢220〜230s)、枝肉価格1s当たり1,400円(22〜23カ月齢)、
精肉価格1s当たり3,000円(部位別価格総平均)を提示した。

 これは、10年前、生産農家は、子牛1頭当たり20万円で売れるならば、私達は喜
んで子牛生産を続けたいといっていたし、肥育農家は、20万円の素牛を使い、エサ
代が高くなったりしても枝肉1s1,400円ならば、なんとか自分達の経営努力の中
で吸収してやっていけるといっていた。一方、消費者は、100g当たり280円から300
円前後だったら、もっと食べたいといっていたことから、こういう三点を結んだ一
貫生産を成り立たせようと考えたからである。

 今これを肉牛生産公社の子牛1s当たり生産原価1,045円、肥育牛1s当たり生
産原価665円と肥育出荷成績2カ年の加重平均を使い試算してみると、子牛は1頭
当たり214,225円、肥育経費265,335円、枝肉1kg当たり1,272円となる。

      表6.短角1頭当たり試算(元年〜2年実績より)

     (開始時体重) (生時体重)  (増体重) (子牛1kg当り生産原価)
@子牛価格  240kg −  35kg  = 205kg × 1,045kg = 214,225円

     (開始時体重) (生時体重)  (増体重) (肥育1kg当り生産原価)
A肥育経営  639kg −  240kg  = 399kg ×  655kg = 265,335円

      (子牛価格)   (肥育経費) 
B経営収支 214,225円 + 265,335円 = 479,560円

 
C枝肉価格 479,560円 ÷ 377kg = 1,272円

資料:村田試算


 公社の経営採算は、枝肉1kg当たり1,272円以上でなければ、子牛生産から肥育
までやって合わないということとなる。これは、地域一貫で子牛生産と肥育経営が
評価購買方式でやろうとした場合の、さきの目安と比較してもらえればどうだろう
か、枝肉1,272円から精肉価格を概算してみると販売のかけ値で差があろうが、精
肉平均で3,180円位となる。

6 消費者価格、枝肉価格、子牛価格の動き

 さて、現状で、私が最も大きな関心を持ち、訴えたいことは、消費者価格、枝肉
価格、子牛価格の三つの動きである。

 昭和58年に52〜56年の5カ年の変動係数をみたが、今回、昭和61年から平成3年
までの6カ年の変動係数をあげ、比較してみたのが次表である。

 短角牛は、これまで、乳雄に近いものだと評価され、短角牛肉と表示されて売ら
れているものがないことから、乳雄の価格を使い検討した結果である。

 消費者価格のもも肉で、変動係数は2.9〜4.2、枝肉1s当たり6.3〜5.5、子牛市
場価格24.5〜30.2である。これをみれば、消費者価格はほとんど動かないというこ
とである。枝肉価格はいくらか動いている。それに比べてどうだろう、短角牛の子
牛はこうも安く買いたたかれなければならないだろうかという疑問である。参考ま
でに掲げた黒毛和種の子牛価格の動きは、短角牛の半分以下である。

      表7.消費者価格、枝肉価格、子牛価格の動き
  区分 牛肉価格(もも中
100g当り岩手県
内150店舗平均)
乳雄(中)枝肉
1kg当り東京
食肉卸売市場
短角雄子牛
全市場平均
価格
黒毛和種
雄子牛
年次等  
52〜56 
5ヶ年平均
341.0±9.94円 1,313.2±83.1円 184,257±
45,150円
335,196±
41,648円
変動係数 2.9 6.3 24.5 12.4
  区分 牛肉価格
(もも100g)
乳用去勢枝肉1
kg当り東京食肉
卸売市場 B−3
短角子牛全
市場平均価
格(売買成立)
黒毛和種
子牛雌・雄
平均価格
年次等  
61〜平3 
6ヶ年平均
371.2±15.8円 1,250.2±69.9円 214,521.3±
64,954.7円
455,297±
51,432.3円
変動係数 4.2 5.5 30.2 11.2
資料:村田試算


 消費者価格がほとんど動かないならば、枝肉やそのもととなる素牛価格が連動し
て動かなくてもよいのではないかと思うのが、私達無知の素人である。しかし、誰
もこれに答えてくれない。短角牛は季節生産のものだから、生産農家は秋市場で販
売しないと収入が得られないことから、やむを得ず手放ししている。これで良いの
だろうか。

 顔の見える産直事業に踏み切って10年、私達も、消費者も少しは賢くならざるを
得ない。


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