★ これからが本命、赤肉のたんかく和牛(下)


山形村での日本短角種肉用牛にかけた村おこし戦略

陸中農業協同組合営農指導部長 城内 竹蔵


1 山形村の自然と立地条件

 山形村は、北上山地の北端に位置し、村面積295.6平方qの95%が山林原野で占
められ、村の70%が標高400b以上という山村である。耕地、集落は山間に分流す
る沢沿いに細長く点在し、農用地としては、449haの草地が最も多く、水田220ha、
普通畑349haとなっている。

 気候的には、夏期の平均気温が20度前後と冷涼で、偏東風(ヤマセ)の常襲地で、
降霜期間が長く、霜害も多い。年平均降水量は1,000oとやや少ない。

2 日本短角種の生い立ち

 北岩手沿岸の旧南部領の山地において、主として内陸部及び庄内地方(山形県)
まで三陸の塩を運ぶための駄載用として飼養されたきた南部牛と、明治4年以降輸
入されたショウトホーンとの交配種である。北東北の自然環境の中で、山林原野の
草資源を飼料基盤として、夏山冬里の飼養方法のもとで増殖と改良が進められ、日
本短角種肉用牛(明治の後半命名)として育まれてきた。発祥は、岩泉町、私たち
の山形村、それに川井村を中心に増殖され、昭和20年から30年代に広範囲に奨励さ
れ、北海道まで渡った。現在、北上山系北部及び北奥羽山系、十和田地方から八甲
田山、下北半島、北海道の襟裳地方を中心に飼われている。

表−1 山形村の飼養状況(平成4年4月現在)
  繁殖 肥育
飼養戸数 210戸 27戸 237戸
飼養頭数 1,045頭 558頭 1,603頭
戸当り飼養頭数 5頭 20.6頭  
資料:陸中農協

表−2 山形村子牛価格の推移
価格 千円
S 58 165
59 155
60 210
61 269
62 295
63 250
H 元 251
2 176
3 124
(秋市場♂♀平均)
資料:陸中農協


3 評価購買の実施

 山形村では、現在240戸の農家が1,600頭の短角牛を飼育しているが、今後とも基
幹産業として維持・発展させるためには、市況に左右されず子牛生産農家と肥育農
家のコストを按分し、双方、再生産可能な額を裁定することが重要となってくる。
このため、平成元年度から、岩手県畜産試験場の下弘明氏の指導により、評価購買
制度をスタートさせた。

 平成4年度以降の評価購買実施要領(実施細則)は、次のとおりである。

@ 子牛の登記済及び価格安定の契約牛であること、且つ山形村産子であること、
 子牛のみの外部導入牛は、評価購買に参加できない。

A 評価時体重250s以上であること、但し250sに体重が満たない場合は、国が定
 める合理化目標価格により取引する、合理化目標価格により取引が不服の場合は、
 次期の評価購買に参加するか、若しくは市場販売とする。

B 評価時1ヶ月以前に去勢されていること、雄子牛は、評価購買に参加できない。

C 秋子(8〜12月生)生産牛は、1万円加算する、
 (秋子生産対策費が別途24,000円交付される)
  この1万円は、奨励措置として繁殖、肥育の両部会で各5千円評価購買取引牛
 に対し交付する。

D 実施時期、 5〜7月生まれの子牛→5月評価購買実施
      8〜12〜1月生まれの子牛→9月評価購買実施
          2月生まれの子牛→10月評価購買実施
          3月生まれの子牛→11月評価購買実施
          4月生まれの子牛→12月評価購買実施

  年5回程度、九戸家畜市場に於いて評価購買を実施する。

 尚、評価購買参加牛が、肥育素牛として不適当と判断されるものについては、取
引が成立しない場合もある。

E 平成4年度以降の評価購買に参加できる子牛は、山形村認定牛の産子(性別生
 年月日不問)とする(認定牛の上限を300頭し、優良雌子牛、種雄候補牛は除外)。
 認定牛以外 の産子については、周年出荷を考慮し、2,3月生まれ以外の去勢
 子牛を対象とする。

F 平成4年度の評価購買頭数は、200頭を上限とする。

G 評価購買牛の出荷先は、大地牧場を限定する。

H 認定牛産子の肥育牛を大地牧場に出荷すると、繁殖者と肥育者に改良推進奨励
 金(一頭当り7,500円程度)を交付する。

I 産子情報について不正があった場合、評価購買から除外する。

 この評価購買制度により、平成3年度には山形村で生産される雄子牛の30%以上、
平成5年度には45%以上を対象とすることができ、繁殖経営の安定化に大いに役立
っているところである。

表−3 平成3年度評価購買実績
参加戸数   48戸(参加率22.8%)
評価購買数 131頭(  〃  29.3%)
平均体重   243kg
平均kg単価 867円(平均価格210,681円)
資料:陸中農場

表−4 平成4年度評価購買取引の体重規格と価格
体重規格 取引価格(税込み) 備考
去勢
210〜249kg @817(230kg)
 188,000円
@817(230kg)
 188,000円
上段
 平均体重
によるkg単価
 
下段
 評価取引
価格(税込み)
250〜269kg @823(260kg)
 214,000円
@782(280kg)
 214,000円
270〜289kg @800(280kg)
 224,000円
@782(280kg)
 219,000円
290kg 以上 @780(300kg)
 234,000円
@746(300kg)
 224,000円
資料:陸中農場

表−5 市場価格と評価購買価格


4 短角認定牛制度の実施

 山形村では、評価購買制度を行う一方で、短角牛の肉質評価データを血統的に集
積し、キメ、シマリ、産肉能力を追跡し、改良を進めるために、短角の認定牛制度
を実施している。直接検定による基幹種雄牛の選抜とフィールドテストによる産肉
能力の判定により、選抜を行うこととしている。

表−6 認定牛制度フローチャート

 表ー6のとおり、両制度は一体的に運用されており、地域内で飼育される雌牛1,
000頭は、評価購買制度若しくは認定牛制度のいずれかの制度の対象とすることが
可能となっている。

5 大地を守る会と産直提供

 山形村では、当時岩手県畜産課長として「短角種一貫生産モデル事業」を推進し
ておられた村田氏から紹介して頂いたのがきっかけとなり、大地を守る会との産直
提携が始まった。一年目は、枝肉kg当たり1,400円で一年間固定価格にしようと
話がまとまった。夢ではないかと思ったが、まず3頭から出荷した。一年間の付き
合いの中で2カ月に一度は必ず産地に来て飼い付け状況、飼料の内容を記録し、生
産者ごとに個体番号を把握して帰る一方、大地牧場からはきちんと各部位ごとにデ
ータを産地に返してくれた。

表−7 「大地」との産直における規格及び価格
規格区分 特A A B
枝肉重量 300kg〜380kg 以内の枝肉 左記以外の
枝肉
皮下脂肪厚 脂肪厚規格の3ヶ所が規格以下のもの 脂肪厚規格の2ヶ所が規格以下のもの 左記以外の
枝肉
枝肉価格 1,450円/kg 1,400円/kg 1,350円/kg
資料:陸中農協

表−8 大地牧場への産直推移
                         (単位:頭)
56 57 58 59 60 61 62 63 2 3 4計画
3 48 117 173 170 138 157 178 238 311 402 450
資料:陸中農協

表−9 山形村産短角牛枝肉格付成績(大地及び一貫出荷)
(単位:頭)
出荷年 A4 A3 A2 A1 B3 B2 B1 C1 合計
2年計 14 240 104 3 38 19 418
3年計 1 23 303 89 4 58 10 2 490
資料:陸中農協


 平成4年度の肥育肉牛の出荷計画は600頭で、着実に進んでいる。うち、大地牧
場の扱い計画だけでも450頭。平成7年度は、倍の900頭を見込んでいる。今の肥育
農家だけでは応じ切れない。

 そこで、大地牧場、村、農協の出資により、体験研修できる放牧肥育施設を設置
する構想がでてきている。周年出荷は今でも6、7、8月が難しい。これら農家の
苦しい部分を本施設がカバーする計画である。1産、2産取り雌牛肥育と秋子の肥
育に期待を寄せ、規模は総合で400頭前後のものが必要である。肥育技術について
は、前期粗飼料多給型肥育法の実践と肥育期間の一定化を図り、歩留のアップとキ
メ、シマリ向上を改良の主題として取り組みを考えている。

6 日本短角種への期待と展望

 評価購買と認定牛の制度を組み合わせるという、村単独の制度で発進したものの、
今後いろいろな苦難が目の前に押し寄せることと思う。現にこれまでも大きな幾つ
かの壁にあたり、乗り越えてきたときもあった。評価購買もそうであった。

 また、産地での交流により、大地を守る会とのパイプが太くなった。毎年、2泊
3日で産地に招待しているが、今夏で10回目を迎え、参加者は毎回大型バスに満員
になる。第1回目の時小学校1年生で来てくれた子が、今や高校2年生の立派な大
人になっての今回の参加である。子供にとって第2の故郷的存在のようだ。これが
きっかけでお互い知らなかった家族同志のつきあいも始まっている。大地牧場の責
任者たちも真剣に物事に取り組んでいる。

このような背景のもと、我々も、短角改良のみならず生産体系、自然資源の有限的
価値感を包括したものの考え方、生かし方を共同実践研究している。東北大学農学
部山岸教授、農水省東北農試畜産研究室及び岩手県畜産試験場肉牛部の先生方がそ
れぞれ役割を持ち指導して下さる。村、農協畜産課のスタッフも真剣そのものであ
る。山形村の短角牛は、良い人材に恵まれたと感じている。


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