★ 畜産物の需給等情報交換会議の概要


食肉センターの目指すべき方向


 昨年の4月に牛肉の輸入自由化を迎え、その後1年半を経過しましたが、食肉の
生産から流通・消費に至るまでの各分野においては、様々な自由化の影響がみられ
ます。食肉センターにおいても、牛や豚の飼養頭数の減少に伴う操業率の低下、経
営の悪化等、牛肉の輸入自由化の影響が、直接、間接に現実のものとなって参りま
した。

 また、多くの食肉センターでは、操業から10数年を経過しており、機械・施設の
更新期を迎えているところも多く、人手不足の中にあって多品目の生産、品質保全、
省力化等の問題を抱えながら、一方では安全で良質な製品作りとコスト低減への努
力が強く求められているなど、食肉センターを取り巻く状況は厳しいものとなって
います。

 この様な状況の中で直接経営に携わっている方々から、このたび各食肉センター
が抱えている問題点やその対応策、また今後の食肉センターのめざす方向等につい
て伺いましたので、その概要を報告します。

 なお、聞き手は、助成部伊藤部長ほかです。

開催月日:平成4年9月24日(木)

出 席 者:以下のとおり(敬称略)

     木 村 国 雄  鰹辮畜産公社      代表取締役専務

     川 戸 淳 一  滑竡闥{産流通センター  代表取締役専務

     砂子田 純 爾  兜沒県食肉流通センター 代表取締役専務

     高 橋 亥 一  褐Q馬県食肉公社     常務取締役 

     米 田 千代治  樺ケ取県食肉センター   代表取締役専務

     高 木 明 幸  且ュ児島くみあい食肉   代表取締役専務

     大 沢 重 嗣  全国食肉センター協議会  常務理事

 
食肉センター設立の経緯と業務の概要

 はじめに、産地食肉センター設立の経緯について簡単に紹介しますと、零細なと
畜場を統合整理し、衛生的かつ効率的な近代施設を配置して、肉畜処理能力の拡大
を図り、食肉の安定的供給を通じて、食肉流通の合理化及び食肉取引の近代化に貢
献することと、それに伴い畜産農家の所得の向上及び食肉の安定供給を図ることが
最大の目的でした。そして、昭和50年度から農林水産省が計画した 「総合食肉流通
体系整備促進事業」 にのっとり、各地で食肉センターが創業、又は設備投資を実施
して今日に至っています。

 業務の概要については、家畜の処理解体に関する業務、食肉及び副生物の加工に
関する業務、食肉及び副生物の冷凍・冷蔵保管に関する業務等が主な内容でありま
すが、近年は、ハムやソーセージなどの食肉加工品の製造に力をいれている所が多
くみられます。食肉センターでは、上記の業務を経済連から委託を受けて処理する
のが普通ですが、食肉センター自らが枝肉を買取った上で精肉、部分肉を製造し直
営店での販売まで行うといった、製品の加工、保管及び販売に至るまでの一貫体制
を整えている所もあります。


畜産生産地において食肉センターの果たしている役割

 次に、産地において食肉センターが果たしている役割については、と畜、部分肉
の加工等流通の合理化の面で大きく貢献しており、流通マージンの削減、生産者コ
ストの低減を図り、農家の畜産経営の安定化に一役買っています。また、産地にお
いて枝肉処理された上で格付けが行われるため、生産物の評価が明確になることに
よって、取引も公正に行える様になります。更に、と畜解体から部分肉への加工な
どがライン化されており、一貫して処理できるので、と畜処理場の効率利用と共に、
製品の鮮度の保持が容易になりました。また、冷凍・冷蔵設備を保有しているので、
食肉の調整保管が行えるため、製品の定時、定量の供給が可能となり、生産・販売
における総合的な調整機能も併せ持っています。


人手不足と消費者ニーズへの対応

 各食肉センターが抱える問題点については、まずは人手不足が挙げられます。バ
ブル経済がはじけ不況の影がみられる今日でも、所要の人員が確保できていません。
現在、全国の食肉センター従業員の平均年齢は38才ですが、この年齢は年々上がっ
ています。人手不足については、食肉センターに限った問題ではありませんが、食
肉の安定供給という、日々欠かすことのできない生活要素の基盤をなす食肉センタ
ーだけに、その問題は深刻です。今後の問題として、例えばドイツにみられるよう
なマイスター制度等社会的にも権威のある資格をつくることにより、やる気のある
若い人を集めることができるようになればと思います。また海外からの技術研修生
を受け入れる中で、この問題が軽減されることを期待しているところもあります。

 人手不足を解決する有効な手段として、各種作業の機械化、ロボット化があげら
れます。食肉のカットや包装はかなり自動化が進んでおり、食肉センターでも機会
をとらえ導入していますが、内臓処理の機械化は、まだ、これからといったところ
です。作業全体の機械システム化も、早急に進めていただきたい点です。

 次には、生活様式の変化に伴う消費者ニーズの変化に、どう対応していくかとい
う問題です。特に、最終加工品に対する需要が増加しており、ユーザースッペクに
みられるように製品の規格が多様化する現在、それに対する技術力の確保、加工工
程の増加による作業効率の低下や製造コストの上昇等への対応が求められています。
また、施設も設置後10数年を経て老朽化してきており、製品の衛生管理や保管能力
と併せて規格の多様化に対処するには抜本的な施設の強化拡充が必要です。安全性
に関する消費者のニーズも大変強く、これを重視しなければ食肉センターとして立
ち遅れてしまいます。衛生的な品質管理ができる施設が不可欠なゆえんです。


週休2日制の流れに対して

 また、現在当面している問題の1つに、週休2日制への対処をどう行うかがあり
ます。食肉センターにおける1日の処理頭数は、排水に対する水質規制等により制
限されており、土曜閉庁による処理頭数の減少をどこでカバーするのかが問題にな
っています。また、と畜頭数の維持や手数料収入の減少だけではなく、製品の鮮度
管理上の面においても、その影響は少なくありません。現在の処理頭数を維持する
ためには、平日における作業効率をアップしないといけませんが、1日当たり処理
頭数の増加による環境基準をクリアするためには、浄化槽の増設など新たな投資が
必要となり、人件費の上昇と共に経営を圧迫する要因になっています。


食肉センターの経営上の問題

 経営の健全化を図るという点からは、適正なと畜処理、加工料金の設定が挙げら
れます。よく、と畜代は散髪料金と同じ位と言われてきましたが、今ではかなりの
開きが見られるようになってきています。と畜手数料が公共料金的な性格が強いた
め、比較的低水準に抑えられていることが原因です。その様な状態のなかにあって、
上昇する人件費や包装資材費等の製造経費を吸収しなければならず、食肉センター
の経営上からは、適切なと畜処理、加工料金の設定が求められています。


家畜の安定確保を考える時期

 今後への課題としては、まず畜産農家の戸数及び飼養頭数の減少に対応していか
ねばなりません。零細な個別農家は減少の方向にあり、大規模農家の経営規模の拡
大によって、なんとか全体頭数を維持しているのが現状です。飼養頭数の減少とい
う構造的な問題に対しては、経営離脱した農家の施設等を活用することにより、生
産基盤の強化を図り頭数を確保しようとしている所もでてきました。と畜手数料の
減少を防ぐだけではなく、食肉センターの操業率向上も図るために、今後の対策と
して、今述べたように、食肉センター自らが直営農場の運営を行うなどして、食肉
の安定供給を図るような思いきったことを考える時期にきていると思います。また、
県内における飼養頭数は増加していても、それが主として企業経営による場合もあ
ります。農家養豚であれば、と畜、加工については概ね県内で処理されますが、企
業養豚の場合、グループの関係工場でと畜、加工処理を行うケースが多く、その施
設が県外にあれば、経済的な面での地元還元という点において問題があります。今
後、少なくとも県内産の家畜については、県内で処理できるようにすることが目標
です。


地域を越えた機能の分担

 食肉センターが、と畜、部分肉の加工等食肉流通の合理化に大きく貢献している
ことは、前にも述べましたが、食肉センターの運営は現在曲がり角にきているとい
えます。設立以来、地域の畜産振興と食肉流通の近代化及び合理化を図るため大き
な役割を果たしてきており、特にこれまでは家畜の処理解体、骨抜き加工に関する
分野を主に担当してきました。しかし、昨今の消費動向の変化による最終加工品へ
の製品シフトや、流通の近代化、効率化という流れの中で、食肉センターの在り方
が年々変化してきています。今まではどちらかというと、食肉センターは食肉流通
合理化を進展させる担い手としてきちっと位置づけられ、センター経営の健全化を
図ることが関係者一同にとって重要との共通認識がありましたが、現在では、生産
サイドと流通サイドの間にあって、生産者側からはと畜料の据置などの要求や、販
売者側からは流通経費の抑制を求められるなどの両サイドからの板ばさみ的苦労が
あります。食肉センター自身、時代の変化についていけない部分もあり、生産サイ
ドに位置するのか流通サイドに位置するのか答えることが困難であるというところ
もあり、流通業界の再編と絡めたうえで、もう一度、食肉センターの機能分担につ
いて考え直す時期にきているといえます。

 流通業界の再編については、大資本の販売店がかなり地方にまで進出をしており、
ローカルな従来通りのやり方では対応が出来なくなってきています。食肉センター
についても、生産コストを追求したうえでの量産体制を確立することや、大消費地
における販路を独自に開発することも必要であります。また、将来的には、食肉生
産地において、食肉センター同士がお互いを補完しあうような、地域を越えた機能
の分担が、必要となってくるのではないでしょうか。


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