★ 自由化レポート


卸売市場の目指すべき方向V

福岡食肉市場株式会社


 過去2回に亙り東京、大阪の両中央卸売市場の現状、今後の対策等にスポットを
当ててきたこのシリーズですが、今回は大きな消費地を背後に持ち、なおかつ生産
地との結びつきも極めて強い福岡食肉市場鰍ゥらお話しを伺う機会を得ましたので、
その概要を紹介します。

 お話しは次の方々よりいただきました。なお、聞き手は、企画情報部南波部長ほ
かです。

福岡食肉市場
  代表取締役社長   後山 安正
  常 務 取 締 役   井邊 勝文
  輸入・部分肉部長  吉田  満


☆崩れ始めたA5、A4神話

 昨年4月に牛肉の輸入自由化がスタートしました。牛肉の自由化前と後では取引
頭数面での変化はありませんが、他市場と同様に価格面の変動は大きくなっていま
す。乳おすのB2、B3クラスが大きく下がり、自由化後1年間に限って言えば、
和牛のA4、A5クラスは前年とほぼ同様でしたが、自由化後2年目の今年になる
とやや前年を下回り始めました。この大きな要因はチルドビーフを始めとする輸入
牛肉の増加に加え、経済状態が悪くなったことにあろうが、仮に経済がもち直して
も過去の価格水準には戻らないと思われます。過去の高値が異常だったのであって、
自由化、経済悪化等を機に、正常値に収束していったとも考えられます。いわゆる
過去絶対下がることはないといわれていた和牛のA−4、A−5クラスの神話が崩
れ始めだしています。


☆がんばってほしい褐毛和種

 九州という土地柄はショートフェッド(短期肥育)物が全く通用しない所で、ロ
ングフェッド(長期肥育)かグラスフェッド(牧草肥育)、言い換えれば良い物か
安い物でなければ売れない、といわれています。海外へ進出している企業は、ショ
ートフェッド主体ですが、これは売り手の経済効率、買い手の適度な高級指向が相
まって成り立っているものです。ところが九州は中庸を嫌う土地柄で、これが最近
では褐毛和種に当てはまってしまいました。赤牛は価格面では和牛(黒毛和種)と
F1の中間あたりに位置します。熊本から頻繁に上場はあるのですが、不落が相次
ぐ状態でこのままでは赤牛は将来的にやっていけなくなるのではないでしょうか。
赤牛は増体が良い、繁殖能力が高い、強腱で粗食に耐える、ロース芯が太い等の長
所を数多く持っているのですが、マーブリングが入らずA4がなかなかできません。
昔は増体だけでもうかっていたんですけど。


☆産地との結びつき

 集荷基盤を確保する意味では、肉牛に関しては、酪農と違い、産地育成をしてい
ないところに弱点があります。市場手数料の3.5%に見合うことをしなければ集荷
できないということです。今後は安定した産地を育成していく必要があると思って
いますが、1つの方法として預託があります。事故の多い現物預託ではなく、農協
を通じ、資金を預託することを考えています。具体的には糸島郡農協と契約を締結
し、農協の自主性を利用して農協の責任において生産者に預託します。これで市場
と農家との間に直接的なきずなが生まれるとともに、集荷基盤の育成にもつながり、
農家の金利負担を軽くするとともに、新たな資金貸付けにつながりませんし、農協
(市場)は農家に対し、「年間〜頭を確保してほしい」とリクエストするだけで余
計な注文等は一切しないシステムで、国から見れば市場対策になるでしょう。

 各地でいわゆる銘柄牛というのが取り扱われています。これも、産地育成の一つ
と思われますが、福岡県内の銘柄牛としては糸島牛が定着しています。ただ頭数が
少なく、年間5百頭くらいの出荷に留まっています。近隣の佐賀牛は毎年6万頭が
関門海峡を渡り、関西方面に出荷されています。糸島牛は系統的には佐賀牛と同じ
ものなので、今後一層の奮起を望みたいところです。本州に渡って行ってしまう佐
賀牛、糸島牛をこの市場に呼びよせるのも今後の課題の1つと思っています。

 また、出荷は殆どしないが、価格を知りたいという農家が次第に増えてきていま
すので、個人に一般情報を提供するパイロット事業を考えています。ただし、具体
的には、当市場の取引結果などの情報を用意しておいて、各個人がアクセスして情
報を得るシステムが良いのかなと模索しているところです。


☆国産部分肉のせりも増加

 かつては部分肉と言えば輸入物を指していたのですが、部分肉の利便性が次第に
浸透して、現在では和牛を含めチルド国産牛肉の流通が増えてきました。当市場で
もこの流れに伴い、国産部分肉の取り扱いを始めていましたが自由化以降さらに集
荷努力も加わって和牛、しかも高品質の物の上場が増加しました。

 現在では定期的に週1回20頭前後が上場される様になっています。

 和牛部分肉の流通量の増加は高品質の規格商品の需要が増大してきた事を意味す
るものと思われます。輸入牛肉で広く知られる様になった部分肉の利便性が国産牛
肉にも求められていると言え、有力なアイテムの1つとして重要視されています。


☆輸入牛肉の取扱い

 牛肉の自由化決定後、約3年の移行期間があった訳ですが、この間にいろいろな
頭の体操をしていました。自由化後、事業団物がなくなったら、市場から輸入牛肉
が姿を消すのではないかという危機感が常にあり、市場の内情として輸入物をやら
ねばという意識が湧き上がってきました。すなわち、事業団在庫がなくなっても、
市場に来れば輸入物が手に入ると言われる様にしたかったということです。

 現在では民間物の輸入ボックスドビーフ(部分肉)、ポーク及び内臓の取扱いに
加え、豪州産のチルドカーカス(冷蔵枝肉、NAPブランド)を月に120頭前後取扱っ
ています。市場間交流の一環としてこのNAP牛を愛知、松戸、立川の各市場で上場
しているし、近々大宮市場も取扱う予定になっています。


☆体外受精卵の普及及び利用

 体外受精卵の移植の推進にも力を入れていきたいと思っています。と畜場から出
る卵巣を活用し、低能力乳牛に受精卵を移植することにより高品質の子牛が15万円
程度でできる可能性があります。要は、市場側で受精卵を作り、それを販売しなが
ら和牛の生産を高め、市場への出荷頭数も増やしていく構想です。

 ただし、受精卵を販売したからといって、ひも付き的に肥育された牛を市場に持
ってくることはできません。地場の生産量を増やせばその何割かはこの市場に流れ
てくるだろうという考え方をしたいと思っています。また、将来の話になりますが、
当市場が近場の牧場に体外授精で生産した牛を導入することも考えており、それを
当市場で扱っていければ、と思っています。


☆市場の本分は買付けより受託

 卸売市場の一番大きな仕事は、受託業務を安定化させ、適切な価格を形成してい
くことです。当市場も内外の食肉を買入れてはいますが、自ら買入れて自らリスク
を負ってやっていくには市場にはまだ充分力がないし、市場がリスクを負うやり方
は良くないと思います。価格形成の場としての市場を成り立たせていくためには、
前述した様に安定した産地、安定した数量を確保していくことが重要であり、市場
をどの様に流通の拠点にしていくかが今後の課題です。

 また、市場の清算方法はキャッシュオンデリバリーが原則ですが、民間と同レベ
ルの手形期間を設けていかないと、買参人が資金繰りに窮してしまいます。一方で
は各方面にそういった働きかけもしていくつもりです。

 また、予約相対方式を取り入れることを検討する時期も来ると思われます。


☆輸入牛肉の自由化は新たなるスタート

 昭和63年の日米・日豪交渉による輸入牛肉の自由化決定により、食肉市場の運営
は歴史的な岐路に立たされたといっても過言ではないでしょう。全国の各食肉市場
と同様に当市場に於ても、自由化後の市場を取り巻く未知の問題を克服するため、
鋭意、研究・検討を重ねてきたところです。

 その結果、移行期間の三年間で、何とか手を打てたのではないかという感触を得
るに及びました。新たな市場の方向性を見極めつつ、従来市場が果たしていた役割
を継承発展させていかなければならないと思っています。
 福岡食肉市場椛纒\取締役社長後山安正殿におかれましては、平成4年
10月10日急逝されました。ここに謹んで御冥福をお祈りいたします。



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