鶏卵の流通

−JA全農中央鶏卵センターに聞く−


 平成4年度の鶏卵の生産量は、3年度を1.5%上回りました。一方、需要は景気後退のあおりを受けて、業務用及び加工用需要が減少したことや、家計消費が伸び悩んだことにより、4年1月以降、需給バランスが崩れて卵価の低迷が続いています。

 こうした最近の鶏卵の流通や需給動向等について、JA全農中央鶏卵センター販売部鶏卵課佐子哲也調査役、同鶏卵課多々良敏和氏にお話を伺う機会を得ましたので、その概要をご紹介します。

 なお聞き手は、企画情報部村尾誠ほかです。
全農の鶏卵販売事業

 全農の東京における鶏卵販売事業は、昭和24年に鶏卵価格統制廃止に伴い、神田
の中央卸売市場内の東京鶏卵荷捌所で業務を開始しました。昭和28年に市場外に神
田鶏卵販売所を開設し、本格的な販売業務を開始しました。その後、関東一円に拠
点を作りながら、昭和47年に東京鶏卵販売所を新宿区中落合の現場所に移転し、翌
年に現在の中央鶏卵センターに改組しました。

 業務としては、鶏卵の集荷・販売と、価格形成業務・相場発表・需給調整、全国
的な分荷調整、あわせて鶏卵の容器、鶏卵の生産・流通にかかわる資材関係の購買
や基金業務をおこなっています。

 鶏卵の流通は、産地から鶏卵問屋への直送が大半ですが、一部の大型産地では直
接、量販店、生協等へ直納する場合もあります。全農中央鶏卵センターとしても、
量販店、生協等への直接販売を関連会社の全農鶏卵鰍中心に実施しており、その
拠点は、関東では、埼玉県の大宮、神奈川県の横浜、千葉県の八千代市の3か所と
君津のGPセンター (GP‥Grading and Packing) であり、そこで卵の検査、選
別、パッキングとパック詰め卵の配送を行っています。

 また、産地の大規模化に伴い、昨年、エッグターミナル東京ベイという施設を川
崎に作り、産地から大ロットでの荷受けができ、それを小口化して配送できるとい
うような仕組みに挑戦しています。

 液卵事業にも力を入れており、川崎及び千葉の液卵工場では衛生的に高品質な液
卵を製造しています。中央鶏卵センターでは、それの統轄管理も併せて営業活動を
行っています。

「しんたまご」に期待

 平成4年度の鶏卵生産量は、257万トンと史上最高レベルでしたが、平成5年度
はこれより1.3%程減って、254万トンくらいと予測しています。一方、消費量につ
いてみますと、6割弱を占める家計消費は、ほぼ前年並みですし、加工用としては、
平成3年度のようなティラミスやチーズ蒸しパンといったヒット商品がなく、菓子
類での消費も見込まれにくい状態です。さらに、昨今の景気後退も消費に悪い影響
を与えており外食を中心にして、一般家庭の支出のレベルが下がっているという状
況からみて業務加工用も増えないと思われます。このため、生産が伸びた分を吸収
できないという平成4年度の構造からいきますと、減ったといえども、この程度の
生産減では価格の回復はなかなか難しいというのが平成5年度の価格見通しです。

 このように、鶏卵は非常に供給過剰の状態にあるわけですが、近年、健康志向の
高まりから、よりグレードの高い商品の需要が高くなっています。生産サイドから
いうと、需給構造が非常に固定化されてきて、価格についても弾力性がないなかで、
より高い収益性なり、他と違う差別化した商品の販売戦略をとりたいという流れか
ら、特殊卵といわれている商品形態が生まれています。全農では平成3年度からビ
タミンを豊富に含み、栄養のバランスがよい「しんたまご」の販売に力を入れてい
ます。 

もみがら詰めからパック詰めへ

 鶏卵の流通も、昭和30年頃までは木箱のもみがら詰めでしたが、30年代に入り、
もみがらが不足しだし、ダンボール詰めへと変わってきました。

 40年代に入り、高度経済成長とともに、農業の選択的拡大政策により集団養卵、
操業方式がとられました。

 ちょうど、パック詰め卵の流通が出始めたのもこのころからです。

卸売価格の決め方

 ここでの価格の決定方法ですが、鶏卵の価格は肉、野菜のように市場で“セリ”
によって価格形成されるのではなく、全農が需給バランスをはじめとするいくつか
の長期的、短期的要因を考慮して形成します。

 実際には、毎朝8時頃から問屋さんを中心とした販売先に販売を行い、9時に基
準値を、そして10時半には、当日の相場の高値と安値、それに併せて加重平均値を
発表します。

 卵の場合の相場は、基本の考え方は需給で価格が変動するというのが原則です。
モノが余るのであれば、価格を下げる。モノが足らないとなれば上げて需給の均衡
点を探す。相場が変わらないということであれば、その売りたい価格でほぼ需給が
一致している、ということです。それをセリという手法ではなく、需給の均衡点を
全農が見つけていきます。この相場の出し方なり手法を「日々の価格の発見」と表
現する学者もいます。

 そうするとセリよりは変動幅が少ないのですが、結果として適正な価格になると
いうふうに我々としては考えています。

卵価格に影響する要因

 さて、長期的要因、短期的要因について説明しますと、長期的な要因として
 @ ひなえ付け動向から将来的な生産量の予測
 A 全国の大手生産者から、え付け状況、産卵状況等の情報を聞き取り、生産量、
  出荷量を予測
 B 加工筋の原料卵手当の動向から夏場の不需要期の販売動向を予測

 また、短期的な要因として
 @ 問屋の在庫量
 A 末端の売れ行きの状況
 B スーパー、量販店の特売動向
など10数項目を頭に入れながら、決めていきます。

価格の発表

 毎日の価格は、「日本経済新聞」あるいは「日本農業新聞」等を通じて公表され
ます。 

 東京では、発表しているのは全農だけではありません。東京だけでいいますと、
東京鶏卵とか東洋鶏卵も発表しています。ここも相場の出し方としては我々と同様
の出し方をされています。

 全農の他の地域においても、ほとんど同じように畜産センターで相場を出してい
ます。近畿では近畿畜産センターが兵庫県の西宮ですが、関西の中心になる相場を
作り、中京畜産センターは愛知県の小牧にありますが、中京圏の指標となる市場で
す。九州は九州畜産センターです。

 価格は以前までは、入札制度によって形成されていましたが、昭和49年10月以降
は発表内容もそれまでの特級、一等級等の一本価格からサイズ別 (LLからSSま
での6サイズ) に価格が発表されるようになりました。

卵黄が余るアメリカ

 ここ20年ほどの年間輸入量は、2万トン弱から4万トン強の間で推移しています
が、国内の卵価が高いとき、あるいは高い直後には輸入が増えて、国内の卵価が安
いときには輸入が減るという関係になっています。従って、輸入液卵が国内卸売り
価格へ影響しているというよりも、国内の卵価が輸入液卵の動向に影響していると
いえます。

 ただ、近年、今までいわれていた日本の生産量の上限、240万から250万トンとい
われていたのですが、仮に250万トンとしても、それを大きく上回る生産量になっ
ています。なおかつ生産意欲なり能力から行くと、まだまだ増える余地があろうか
という状況下では、わずかな輸入の動向の振れが国内の卵価に影響する時代になっ
たということは間違いなく言えると思います。

 アメリカの例などを見ても、加工卵の需要が非常に伸びています。一説によると
アメリカでは25%ぐらいまでいっているのではないかといわれていますし、日本も
液卵公社の調査等の資料を見ても年々加工卵のウェートは増えていっています。

 アメリカは、非常にコレステロール等、健康問題で卵黄が売れずに、卵白が極端
に引き合いが強いという状態になっています。価格からみても、凍結卵白は春以降、
価格が安定しており、それだけ卵白の需要が高いことがわかります。一方では加塩
卵黄の価格は低下しており、凍結全卵よりも下げ幅が大きくなっています。

 この現状からいくと、輸入ものはそういう加工卵市場にダイレクトに流れますの
で、今後は輸入液卵がかなり国内の卵価の、阻害要因というと言い過ぎですが、影
響要因になるということは間違いなく言えると思います。そういう意味では、日本
に対する主要輸出国の生産動向には今後十分注意をしていかなければいけないと我
々生産者なり流通段階では見ているのです。


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