食肉卸売市場の目指すべき方向X

大宮食肉荷受株式会社


 牛肉の輸入自由化から2年が経過しようとしています。昨年の牛肉輸入量は40万トンを超え、ついに国産牛肉の生産量に匹敵するまでになりました。今年の4月からは、牛肉の関税(現行税率60%)が50%になります。このような情勢の中で、牛肉や豚肉の生産・流通の現場では、今後も様々な変化が出てくると考えられます。

 このシリーズでは、東京に始まり大阪、福岡、愛知の各食肉市場から、牛肉の輸入自由化後の新たな食肉流通への対応策などをレポートしてきました。今回は、大宮食肉荷受株式会社のご協力を得て、大宮市食肉中央卸売市場の現状と今後の方向について下記によりお話を伺いましたので、その概要をご紹介します。

 なお、聞き手は、企画情報部長南波利昭ほかです。

           記

1 日 時  平成5年2月25日(木)
2 場 所  大宮食肉荷受株式会社会議室
3 座談会出席者(敬称略)
   大宮食肉荷受株式会社
    常務取締役  須藤 久男
    常務取締役  篠塚 貞夫
    取締役部長  三枝 伸吉
    経理部長    松田  武
    相 談 役   川尻 幸夫
    相 談 役   木戸  正 
現在の大宮食肉市場の特徴
 
 大宮市食肉中央卸売市場は、昭和36年9月に大宮市が開設者となり農林大臣に認
可されました。

 立地条件としては、首都圏の玄関口という重要な地点にあり、地元埼玉県を主軸
に関東、東北の各県を牛、豚の集荷圏としています。

 設立当初は、機能的な食肉市場として評判を集めましたが、30年を経過した今日
では施設の古さはいなめません。

 また、当社は、昭和36年11月卸売業者として、農林大臣及び大宮市から認可を受
け今日に至っていますが、兼業業務としてと畜部門まで包含する幅広い経営形態で
す。また、買参者も大宮市内はもとより広く県内外の食肉業者が開設者の認可、登
録によってセリに参加しており、活気のある市場となっています。

 特に、牛肉の輸入自由化以後は、良質な肉牛、肉豚の集荷努力と産地の新規開拓、
産地指導に一層の力を注いでいます。


頭が痛い輸入牛肉価格の乱れ

 輸入自由化前までは、畜産振興事業団のセリ値が牛肉価格の一つの指標となって
いました。市中価格もこれに連動して、比較的安定した取引をすることができまし
た。

 しかし、今では輸入牛肉は常に「過剰在庫」の有り様で、しかもチルドビーフが
急増し、相場の建て方が大変難しくなってきました。買値よりも売値が安いといっ
た「逆ざや」の場合もしばしばあると聞いています。

 こうした、価格の乱れが国内物に大きな影響を与えており、頭の痛い問題となっ
ています。4月から関税率が50%になれば、こうした現象が一層懸念されます。


安定的な取り引き確立のための予約相対取り引き

 牛肉の輸入自由化により、これまでよりも市場の位置づけが弱くなったことは、
市場関係者にとって大変寂しい感じがします。実際、輸入自由化を契機に取扱頭数
も減少しました。

 取扱量確保の対応策の一つとして、予約相対取引を採用しました。北海道産肉牛
がその例ですが、新規に開拓した産地のものを双方が納得できる価格で予約相対を
行います。

 単に既存の出荷者が持ってきたものを予約相対取引しても、セリ分が減るだけで
取扱頭数のプラスにはなりませんので、さらに新規開拓を心掛けるつもりです。


品揃えの豊富な輸入品

 現在、当社の輸入品の取扱量は、月間約100トン程度です。輸入牛肉が約7割で
残りが豚や鶏です。買参者に魅力ある商品とするため品揃えには苦心しています。

 小口取引も対象にしているため、在庫量には少なからず気をくばり、適正在庫で
鮮度の良い商品を提供しています。また、輸入牛肉(枝肉)については、定期的な
取扱いが可能になるよう、関係者との間で協議を進めています。


学習期に入った黒毛和種F1の生産

 牛肉輸入自由化の対抗策として、黒毛和種F1の生産がかなり増えました。それ
につれて、食肉市場へもF1の出荷が増えてきました。

 しかし、食肉市場では、これら交雑種の格付等級がほとんど「2」となっており
(肥育管理の影響も多分にありますが)、毛色が黒ければ誰が飼っても本物の和牛
に近い肉質のものができるだろうとの思惑がもろくも外れました。

 こうした結果から、今では一時のブームが去り、肥育農家も酪農家も交配種雄牛
を絞り込むなど黒毛和種F1による良質肉の生産へ向けて学習期に入ったといえま
す。

 当市場では、今のところF1の表示はしていませんが、現在、(社)日本食肉格
付協会でこの問題を検討されていると聞いています。

 いずれにしても、社内でも、和牛の子牛登記証(登録証)の鼻紋照合の是非等の
問題を研究中であり、(社)日本食肉格付協会の検討結果を待って対応したいと考
えています。


卸売市場としての機能の改善

 輸入自由化前の食肉市場は、畜産振興事業団の輸入牛肉が手に入るという大きな
魅力から、多数の買参者が目を向けてくれていました。しかし、今では市場から輸
入牛肉を買わなくても、どこからでも自由に必要なだけ仕入ができる様になったわ
けです。

 当市場としても、このような事情に対応するため、開設者の理解を得て新しい局
面の展開を図らねばなりません。今の制度では、今後の新しい事業展開に向けて対
応できない点もいくつかあります。

 その一つは、買付物品の取引拡大や仲卸制度の導入です。これらの事業を実施す
るに当たっては、市場内における食肉処理施設と部分肉(国内物、輸入物)の冷凍
・冷蔵倉庫設置も当然のこととして必要になってきますが、これらの点の解決を開
設者にお願いしているところです。

 また、市場としても、新しい物流機能を考えねばと思っています。


これからは情報提供も市場の大きな役割

 現在、従来の仕入・在庫・販売のシステム等の改良に取組んでおり、新たにセリ
場でモニターテレビを使って、買参者へより詳細な販売品の紹介や枝肉の肉質の情
報等をリアルタイムで提供できるようシステムの開発を進めています。

 また、生産者に対しても、個別に歩留等級、肉質等級などを分析・評価した情報
を画像処理して提供したいと考えています。今までは、生産者に格付結果や値段を
知らせるだけでしたが、これによって良質牛の生産や経営診断にも役立てたいとも
思っています。

 これらはまだソフト開発の段階であり、将来的には生産者や買参者にきめ細かい
情報を提供し、市場の卸売機能の活性化を図っていきたいと考えています。


期待される体外受精卵の移植

 当社では、昭和61年より農林水産省家畜改良センター及び家畜改良事業団前橋セ
ンターに体外受精卵移植試験用の黒毛和牛の卵巣を毎週提供し、今も続けています。
さらに、平成2年からは、埼玉県内で本格的な体外受精卵移植による黒毛和牛の生
産に踏切り、県及び獣医師会、家畜人工授精師協会、畜産会などの諸団体の指導と
協力を仰ぎながら実施しています。

 2名の卵巣採取者、3名の補助者を設置し、採取した卵巣(毎月第3週目)は上
越新幹線を使い、極めて新鮮な状態で埼玉県畜産試験場に運びます。運んだ卵巣は、
卵子の採取、培養、授精などの処理を行った上、受精卵移植技術認定者により、移
植を希望する酪農家の乳牛に移植されます。

 移植希望農家には、まだ必ずしも100%受胎するわけではないことを理解しても
らった上で、受精卵を移植することにしています。しかし、平成2年5月から4年
末までの体外受精卵の移植頭数は129頭で、流産を除く出産頭数は62頭(出産率48
%)とまずまずの成績です。

 また、畜産教育の一助として、県立熊谷農業高等学校へ体外受精卵移植で生産し
た黒毛和牛子牛を提供したり、酪農家、肥育農家向けのパンフレットを作成して、
体外授精卵移植のPRにも努めています。

 体外受精卵移植は、と畜場で採取される卵巣の有効活用を図るという意味だけで
はありません。肉質の良い黒毛和種が地場で増産されれば、それだけ当市場への回
収率も高まり、将来にわたって上場頭数の確保を図ることができると期待していま
す。今後は、当市場の大きな事業の一つになるものと考えています。


解決が急がれる市場の移転問題

 現在、当市場のある大宮市では、「さいたま新都心」の整備とそれに伴う周辺道
路の拡張工事計画が進められています。「さいたま新都心」に隣接している当市場
にとっても多大な影響が及ぶことになります。

 このため、当社では、牛肉輸入自由化への対応策と併せまして、将来展望に立っ
た食肉市場の実現をめざすため、市当局や県に対して移転推進などを要望している
ところです。

 出荷者をはじめ多くの買参者、消費者が当市場と生活を共にしています。今まで
述べてきた今後あるべき市場の方向を具体化するためにも、一刻も早い対応が待た
れます。 


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