明日の畜産を育てる公庫資金

農林漁業金融公庫融資第一部 農業第三課長 松本 敏夫


「新しい食料・農業・農村政策の方向」に沿った経営体を育成するに当たっては、経営体自らの創意工夫と自主性を生かすことのできる制度金融の役割が大きく期待されます。

 このため、今回は農林漁業金融公庫資金の中から畜産関係の融資制度を中心に紹介します。
 農林漁業金融公庫は、長期低利資金の供給を通じて農林漁業の振興と農林漁業者
の経営発展を図るため、昭和28年に国の政策金融機関として設立されました。

 当公庫では、農林漁業施策の展開方向に即しつつ、地域や農林漁業者の実態に応
えるため、多種多様な資金を取り揃え、本店のほか全国に21の支店と系統金融機関、
銀行等249の業務委託金融機関の窓口を通じて、沖縄県を除く全国46都道府県にお
いて業務を進めています(沖縄県においては、沖縄金融公庫が業務を担当していま
す。)。

 ここでは、特に畜産業を営まれている方が利用できる主要な資金とその特徴をご
紹介しますので、皆様の畜産経営の発展にぜひ公庫資金をご活用下さい。

 なお、公庫資金に関するお問い合わせにつきましては、最寄りの農業改良普及所、
市町村役場、農協、公庫支店等にお問い合わせ下さい。

1 公庫資金利用に当たってのチェックポイント

 畜産経営者に利用していただける資金は6種類ほどありますが、各資金がそれぞ
れ独自の政策目的のもとに設けられているため、借入者の資格要件、利用できる地
域、利率等の貸付条件が資金種類によって異なります。

 したがって、公庫資金の利用に当たっては、実施しようとする事業に最も適合す
る資金を選択するための検討が必要となります。そこで、まず、このような事前検
討の着眼点を紹介します。

(1)経営形態

 自作農、自立経営といった家族による個人経営を貸付けの相手方の基本とした資
金制度が、長い間公庫資金の中心となってきました。しかし、近年、家族経営から
企業的な法人経営への発展、農外資本の参入による企業的農業経営の展開がみられ、
このような経営を地域農業の振興あるいはモデル的な農業経営の育成の観点からと
りあげるため、株式会社形態を含めた農業経営体を対象とする資金制度の充実も進
みました。そこで、家族経営以外の場合でも、利用できる資金がないかどうか、各
資金の貸付けの相手方の範囲をチェックしてみることが必要です。

 なお、「新しい食料・農業・農村政策の方向」(新政策)の考え方に基づき、法
人経営体を育成する観点から、平成5年度から、1戸1法人に対する法人貸付限度
額の適用に制限のあった資金について、原則的にそのような制限が撤廃される見込
みです。

(2)事業実施地域

 事業を実施しようとする地域(市町村)が、振興山村地域、過疎地域、中山間地
域、農業構造改善事業実施地域あるいは地域農業総合整備計画作成市町村に該当し
ているかどうかによって、貸付金利をはじめとした貸付条件が異なります。近年、
農山漁村振興基金からの利子助成など、地域の特性に応じた助成措置が充実されて
きており、事業実施地域は有利な資金を選択するうえでの大切なチェックポイント
です。

(3)事業計画の作成

 公庫資金は事前着工を禁止しています(取扱窓口金融機関に借入相談する前に着
工した事業は貸付対象としない)ので、事業の計画段階で借入相談を行う必要があ
ります。また、資金種類によっては、借入手続きとして所定の事業計画(総合改善
計画書等)の作成が必要となる場合があります。

 平成5年度から、新農政に基づく「望ましい経営体」の育成を推進するため、農
業所得1,000万円程度をめざす計画を作成した経営体に対し、金利の助成、融資率
・貸付限度額の引上げ等の特別の優遇措置が講じられる見込みであり、資金利用に
当たっての計画づくりも、有利な資金を利用するために大切な事項です。

2 主要資金の内容

(1)総合資金制度(総合施設資金)

 本資金は、規模が大きく生産性の高い自立経営農家の育成を目的として創設され
たもので、@公庫資金のほか、農業近代化資金や運転資金など経営改善に必要な各
種資金を包括的に融資する制度であること、A経営改善計画の策定や借入れ後の営
農指導等について農業改良普及所の密接な指導助言が受けられることなど他の資金
に見られない多くの特色があります。

 融資対象事業は、@農地や採草放牧地等の取得、造成、改良、A牛、豚、鶏の購
入、B畜舎、農機具等の施設の改良、造成、取得等広い範囲にわたっており、平成
4年度からは雇用労働者のための宿泊施設も追加されました。また、事業に農地等
の取得が含まれる場合には、本資金との同時貸付として低利な農地等取得資金を借
り入れることができます。

 本資金は、各都道府県が定めた一定水準以上の規模・所得を目指す経営者(個人
及び株式会社を除く一定の要件を満たした法人)のほか、一挙に規模拡大はできな
いが段階的に経営改善を図る若い経営者も融資対象としています。

 平成5年度から、新政策に基づく「望ましい経営体」として経営発展計画(仮称)
の認定を受けた者については、地域農業総合整備資金も併せて、融資限度額が最高
5億円、融資率100%、現行条件よりさらに0.5%の利子助成(ただし、3.5%を下
限)のメリットを受けることができる見込みです。

 なお、この資金には、「酪農及び肉用牛生産の振興に関する法律」(昭和29年法
律第182号)に基づき市町村計画を樹立した地域の市町村長の認定により融資の申
し込みを行うことができる途も開かれていますので、地元の市町村役場にご相談下
さい。

(2)農業構造改善事業推進資金

 本資金は、「農業構造改善計画」に基づく補助事業の受益者又は単独融資事業
(国の補助金の対象となっていない事業)の事業主体である個人・法人(株式会社
を含む。)等を融資対象とした資金です。

 融資対象事業は、@畜舎、サイロ、家畜用水施設、農産物処理加工施設、農機具
等の施設の改良、造成、取得、A家畜(搾乳牛、繁殖用肉用雌牛、繁殖用豚)の購
入等で、国庫補助事業の受益者負担金や市町村営事業の分担金についても融資対象
となります。

 単独融資事業の年利率は、3.5%と公庫資金の中で最も低利な水準に設定されて
います。

 なお、本資金は、原則として「農業構造改善計画」が定められている地区に住ん
でいる方が地区内で行う事業を対象としているので、本資金の利用に当たっては、
この点にご注意下さい。

(3)振興山村・過疎地域経営改善資金

 本資金は、振興山村地域又は過疎地域の活性化を図ることを目的として創設され
ました。対象地域は自然的・経済的条件の制約が大きいことから、融資の条件は大
変有利で、融資対象者及び融資対象事業の範囲も広くなっています。

 融資対象者は個人だけではなく法人・団体も含まれ、株式会社や市町村が主な出
資者となっている第三セクター等も対象者となります。

 また、融資対象事業は、畜舎等生産施設だけでなく、加工・流通関係施設(農家
が共同利用する施設を含む。)や国庫補助事業の受益者負担金についても対象とな
ります。

 融資条件は農山漁村振興基金から利子助成がありますので、現行では非補助事業
金利が3.5%と低利となっているほか、融資限度額も法人・団体については融資対
象事業の営業開始までに新たに3名以上の雇用が発生すると見込まれる事業を行う
場合は3億円の適用が平成5年度より認められる見込みです。

(4)地域農業総合整備資金

 本資金は、農用地の利用増進と農産物の生産の合理化とを一体として推進するた
めに、地域ぐるみで作成された地域農業の総合整備に関する計画(以下「マスター
プラン」という。)に即して事業を行う農業者に対し、公庫資金と農業近代化資金
を総合的に融資する資金です。

 したがって、本資金を利用する場合、市町村等においてマスタープランが作成さ
れていることが必要で、資金の借入れを希望する方は、マスタープランに即して整
備事業計画を作成し、市町村長の認定を受ける必要があります。

 融資対象事業は、畜舎、農機具等の改良、造成及び取得で、通常の借入れに比べ、
貸付金利及び貸付限度額の優遇措置が講じられており、総合施設資金並みの金利で
事業実施者の負担する額の80%に相当する額まで融資が受けられます。

(5)特別振興資金

 本資金は、地域の農業経営の中核的な役割を果たすことができるものなど広く農
業の発展に寄与するものと認められるものに対して融資を行い、これらの育成強化
を図ることを目的として創設されました。

 融資対象者は、特別振興事業を行う農業経営者(個人・株式会社を含む法人)で
す。特別振興事業とは、最新の技術若しくは経営方式を導入しようとする事業など
で、広く農林漁業の発展に寄与すると認められる事業(例えば、ミルキングパーラ
ーの導入、受精卵移植技術の実用化等)であり、その事業実施のため必要となる施
設・機械等が融資対象となります。

 金利は財投金利と同率(4.7%)ですが、事業実施者の負担する額の80%に相当
する額まで融資が受けられますので、大型の投資に適しています。

 なお、特別振興事業かどうかの選定は公庫が行いますので、すべて公庫支店が直
接貸付けしています。

(6)畜産経営環境保全資金

 本資金は、畜産経営に起因する環境汚染の防止と畜産経営の合理化に資すること
を目的として創設されました。

 融資対象者は、畜産経営の環境保全に必要な施設(ふん尿処理施設等)を設置し
ようとする者又は家畜飼養施設の移転により環境汚染の防止を図ろうとする者(個
人・株式会社を含む法人)です。

 融資対象事業は、非補助事業のほか、国庫補助事業の受益者負担金も対象となり、
畜舎、農機具等が融資対象となります。また数戸の農家が共同で施設を導入する場
合には、各農家ごとの持分融資も可能です。

 融資条件は、非補助事業は特別に低い金利が適用されているほか、融資限度額・
融資率についても、@高性能施設の導入、A環境保全のための経営地移転のいずれ
かに該当すれば特認が適用され、融資限度額は一般の場合の倍額に、融資率は90%
となります。

 なお、本資金は経営環境保全計画につき都道府県知事の認定を受けた者が利用で
きます。

(7)農地等取得資金

 本資金は、融資を通じて農業経営の規模拡大と農業経営の改善を積極的に図り、
農業構造の改善に資することを目的として創設されました。

 融資対象者は、農業を営む個人・農業生産法人等ですが、3.5%で融資を受ける
には、@年齢(60才以下)、A農業従事日数(150日以上)、B農業従事者(2名
以上)、C農業所得割合(50%以上)等の要件を満たす必要があります。

 融資対象事業は、農地・採草放牧地又は未墾地の取得ですが、その取得面積は概
ね10アール以上であること、また3.5%で融資を受けるには、取得後の経営面積が
農業委員会が定める基準面積以上となること等が必要です。

 なお、新規就農者については平成4年度の条件改定により、上記要件の一部が緩
和され、農業従事者は1名以上、経営面積は就農から5年後に借入時における地域
の平均面積以上となりました。融資条件・融資手続は、作成する計画の種類により
大きく異なりますので、農業委員会等と十分相談することが資金利用の近道です。


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