「特産畜産物フェア」を終えて

−鰹ャ田急百貨店に聞く−


 畜産振興事業団では、本年3月に「特産畜産物フェア」を実施いたしましたが、
この度、その会場となりました鰹ャ田急百貨店の食品部高橋正夫課長及び食品部生
鮮食品課天野温係長から、デパートにおける最近の食品の消費傾向や特産畜産物フ
ェアについてのご意見を伺う機会を得ました。


*百貨店の催事は、宅配が魅力

 小田急百貨店では、今まで数多くの食品関係の催事を実施してまいりましたが最
近その内容が少しずつ変化してきています。“食品まつり”というと、昔はバーゲ
ンが中心でしたが、近時、バーゲンはだんだん少なくなってきて、例えば健康食品
の催事や、全国のうまいもの市的なものが主流になってきました。以前は、「あと
になってからでは、安いものが買えなくなるんじゃないかしら」ということでまと
め買いをされるお客様が多数見られましたが、昨今では少なくなりました。今はも
う、いつでもほしいときに、ある程度の安い商品は買えますから。

 ただ、百貨店での食品バーゲンで購入された商品は、地域によっては自宅まで無
料で届けますから、それがお客様にとって魅力だと考えています。これは以前に比
べると、働いている人が多くなり、休みの日に自宅に届けられるようなシステムを
確立しておかないと買っていただけないということ背景にあります。


*無駄なものは買わない最近のお客様

 百貨店でのお客様の購買傾向というのは、極端にいいますと、バブルの崩壊以前
は、「ある程度安ければ使うか使わないかわからないけども買っておこうか」とい
う衝動買いがずいぶんありました。ところが今は、買って帰ったものを何に使うの
かという目的をしっかりと持った買い方が目立つようになりました。

 男の方でも、食肉売り場にいらっしゃいます。「あなた、定期持っているから買
ってきて」と奥様から頼まれ、メモを片手に買いにこられるわけです。メモを見な
がら、メモ通りに買っていかれて、むだなものは一切買わない。近年、特にそうい
う買い物の仕方が多くなっています。

 私どもに働きに来ているパートの人たちに、主婦の方が多いのですが、「今日の
献立、何にするの?」と質問をしてみたら、たいがいの人は、「今日は、魚にする
けども、魚屋さんに行って魚の顔を見ながら決める」と答える方が大変多いのです。
日本人というのは、どうしてもフレッシュな食料品を好みます。そういう意味では、
毎日買い物に来るという習慣があり、肉にするのか、魚にするのか、ぐらいは考え
ているのでしょうが、売り場へ行ってみないと何にするかわからない、という買い
方はまだ相変わらず続いております。

 目的買いが多くなったとは言うものの、こうした実物を見て決める面もあるのは
事実です。ただ、むだなものは買わないという傾向は端的に出ています。


*求められる品質管理

 食肉について、百貨店としての特別な販売方法はないのですが、スーパーマーケ
ットの売り方と、違いを見せていく必要があると考えています。たとえば、スーパ
ーでは価格で押していく売り方、百貨店の場合にはブランドで売っていくというふ
うに分けていかないと、売上は伸びていかないのではないかなと思います。

 牛肉を例にすると、ブランドで動いているものが相当あります。今は、松坂牛を
中心に動いているように思います。百貨店の場合ですと、どこへ行っても「松坂牛
はありませんか」とお客様から声がかかります。何故、松坂牛になるのか。それは
品質管理をきちっとさせているからだと考えています。

 お客様が望む肉質、品質に対し、販売者としての品質管理、さらにこれに応える
生産者の品質管理とがつながっているからです。お客様が、「松阪肉をください」
といわれたとき、百貨店側は、自信を持ってお売りできる、それは、生産者がしっ
かりしたものを作っており、これなら百貨店側も販売できるという信頼感が確立さ
れているということではないでしょうか。

 百貨店側としてもある一定の水準を保った牛肉を売っていかないと、百貨店自体
がつぶれてしまう。ある一定の供給量とその品質管理を恒常的に保てるかどうかが
眼目になります。


*コンパクト化してきた商品

 今後の売上についてですが、精肉だけで売るということではなくて、加工して付
加価値をつけながら売っていかないと、売上は伸びないと思っています。例えば、
ハンバーグにするとか、唐揚げにするとか、という二次的なものを作る必要がある
と思います。

 また、食肉加工品に簡便性・利便性という面が現れています。いちばんいい例が
ハムです。1回当たりの購入量が以前に比べずっと少量化しています。端的に言え
ば一回分の量なのです。進物の場合はまだまだ大きいのがありますが、「こんなに
大きいのをいただいても食べきれないわ」という声が聞こえ始めています。商品が
少量化してきていることは確かです。

 また、食べやすいということでスライスしたハムもありますが、そのスライスし
たハムをパックに入れる方法も、横に広げるのではなく、また原型に戻した形でパ
ックしているのもできています。

 私どもの物産展に出展して来る者の中に、大分県のYハムがあります。そこが、
数年前になりますが、いち早く販売単位当たりの重量をコンパクト化し、ハムの原
型に戻したスライス製品を売りだしたのが印象に強く残っています。


*こだわりの牛乳乳製品

 牛乳乳製品のうち、乳製品のチーズ・バターは別ですが、牛乳に関しては、買っ
て持ち帰るには重いという点があります。そういう意味で、普通牛乳は、百貨店の
商品の中から消えて行くのではないかと思います。私どもでも販売していますが、
高脂肪とか低温殺菌のようにこだわりの牛乳というものに限られてくると思います。

 チーズ・バターは日々の商売ではなくて、どちらかと言えば中元・歳暮が中心で、
これに尽きると思います。では、通常は、何を売っていくかというと、牛乳と同様
に手作り商品とか、少量生産の地方特産の、こだわりのバター、こだわりのチーズ
というものに集約されてきます。特に国産ナチュラルチーズは価格的にはまだ難点
があるものの、おいしさという点ではたいへんよくなりました。また、チーズを使
った製品 (例えばチーズケーキ) は、これからも完全に伸びていきます。乳製品
を使った洋菓子類の中に大きなにヒット商品が隠れているように思えます。


*特産畜産物フェアへの提言

 事業団が開催した特産畜産物フェアですが、畜産物が中心になるのはやむを得な
いとしても、会場のレイアウトに工夫の余地があるようです。

 県別に会場を区切っていますね。これも一つのアイデアでしょうが、発想を変え
て、例えば、商品の宣伝を主たる目的としている出展者、試食を中心にして販売は
通販で攻めようと考えている出展者、この期間中の売上を重点に考えている出展者
というように、出展者の販売戦略別にコーナーを区切ってみるのも面白いでしょう。
そうした中で自社の主力商品を中心にし、付属として、その地方の特産物、青森だ
ったらリンゴなどを並べれば、より会場も盛り上がるのではないでしょうか。今回
も青森県の出展者がリンゴを配っていましたね。精肉ばかりがずっと並んでいたら、
お客様としては選び易い面はあるものの、売上的には好ましいものとは言えません。
価格訴求で一つの核を、商品PRでもう一つの核を作り、売場構成にメリハリを作
るのです。

 また「フェア」の会場に茶屋みたいなのを作ったらどうでしょうか。例えば、ス
テーキハウスを作るのです。茶屋は私どもの物産展でしばしば用いるアイデアです。
焼き上がったステーキと一緒に自社のパンフレットや通信販売用の振込用紙付きパ
ンフレットを渡すのです。美味しかったら、お客様は開催期間中に必ず買い求めに
きますし、後日、ファクシミリなどで注文がくることになり、こうした物産展には
とても有効的な方法として評価できます。


*出展者とお客様の継続的な接点は“会話”にあり

 出展者はお客様と継続的な接点をどうやって作り出すか。先ず第1に単純なこと
ですが、“会話”が基本となります。物産展を例にとりますと、「私、去年の秋に
○○県へいったのよ」「どちらへいらっしゃいました? 私どもの牧場は、北の方
で近くの△△が有名ですが、いらっしゃいました?」からスタートし、「お客様は、
どちらにお住まいですか?」「私は、あそこの町です」これが物産展のいちばん根
本になります。その後をどう展開するかは出展者の腕次第ですが、「次にまた物産
展があったときに招待状を書きたいので、住所と名前を教えてください」、これで
す。私ども百貨店の商いでもお客様名簿の作成が最も大切な仕事の一つになってい
ます。特に物産展の場合は、単にお客様をお待ちするのではなく、次回の出展まで
もを考慮にいれた積極的な顧客名簿作りが大切になります。それを徹底的にやるべ
きです。

 第2に、こういう物産展に出展した時には粗品を持ってきた方がよいでしょう。
それは100円でも50円でも何でもかまいません。地元の特産物を持っていらっしゃ
い。山形なら、例えば、紅花。乾燥すればドライフラワーになるし、要は、心です。

 また、今回の「フェア」で、県や市町村の担当者の方も来ていました。このよう
なとき、畜産以外に地場のものをいれて、盛り上げればどうでしょうか。先ほどの
青森のリンゴのように、その市町村全体を連れてくるような形に発想を変えたら、
これはもっと面白いと思います。お客様はそういうものにすごく飢えています。


*生産者が中心のフェアは生産者のもの

 このフェアの出展者は、生産者が中心です。これは長所です。その長所を活かす
ためには、“お客様の声を直接聞いて、自分の製品に生かせられる”ような販売員
にならないとだめです。お客様がどんな考え方で買っているのかということを肌で
感じとり、そして、ここで得た情報を製品にすぐ生かすことを、生産者だからでき
るんです。ですから経営者なり管理職の方なり、命令ができる人が販売者として物
産展にきていたいただきたい。私どもで物産展を開催させていただくときはいつも
それを強調しています。

 今回の「特産畜産物フェア」の中では、いい商品がかなりありました。ハムにし
ても小さくて買い易い優れた物がありました。骨付きのハムなどは、最高です。価
格は、必ずしも安くする必要ないと思いますが、あとは、ほんの少し販売方法に工
夫を加えることです。自信もって大丈夫です。


*最後に

 百貨店に限りませんが、お客様の多様なニーズ、お客様はどういう考え方で購入
しているのかということを会話をしながらつかんでゆくことです。何故これを買っ
たのか、どういうものを求めているのかというのは、会話があって初めて解ること
です。百貨店でのフェアの長所というのは、やはりお客様と会話をしながら販売を
して、固定客をつくっていく点にあります。東京の小田急百貨店に出展して良かっ
た、東京のお客様は、今、こんな点に関心を持っているんだということを2つでも
3つでも今回のフェアの中で感じていただけたら、これほど喜ばしいことはござい
ません。


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