卸売市場の目指すべき方向Y(前編)

−畜産物の需給等交換会議(食肉卸売市場の部)−


 去年の7月から「卸売市場の目指すべき方向」をテーマに、東京、大阪、福岡、
愛知そして大宮の各食肉市場から、牛肉の輸入自由化後の新たな食肉流通の現状と
対応などをレポートし、シリーズで本誌に掲載してきました。

 この度、その第6回目として、下記の方々にお集まりいただいて座談会を開催し、
シリーズを総括する活発なご意見を頂きました。

 今回はその前編として、市場流通の変化、市場が抱える問題点などを中心にその
概要をご紹介します。

 また、来月号の後編では、今後の食肉卸売市場の在り方と対策等に関して掲載す
る予定です。

          記

1 日 時  平成5年4月27日(火)

2 場 所  畜産振興事業団2階会議室

3 座談会出席者(敬称略、順不同)
   
    東京食肉市場梶@   専務 海老沢 清
   滑阜県畜産公社  専務 松 岡 登
  神戸中央畜産荷受梶@ 社長 森 治 良
  広島食肉市場梶@   社長 舛 井 寛一
  (司会)食肉生産流通  部長 小 林 宏三
 〔小林食肉生産流通部長〕

 本日は、お忙しいなかお集まりいただき、ありがとうございました。

 これまでに、シリーズ「卸売市場の目指すべき方向」として、東京、大阪市場を
はじめ5市場を回りお話を伺ってまいりましたが、この中で牛肉輸入自由化後にお
ける具体的な新しい動きがいくつか見られたと思います。例えば、買付集荷の動き、
共済制度の発足、あるいはシステム売買といった情報取引の動きも芽生えています。
一方では、取扱量を増やすために、部分肉を含めた多様な商品の取扱いを始め、銘
柄化、産地化といったことでの独自ルートを開拓したり、あるいは受精卵移植によ
って産地とのつながりを持とうとする動きも出ています。また、部分肉の加工場を
併設し、市場の利便性を高めたいという希望をもつ市場もありました。

 本日の座談会では、このシリーズの総括として、皆様方にいろいろな角度から話
し合っていただきたいと考えております。

 それでは、まず最初に、牛肉の輸入自由化後の市場流通の変化ということで、取
扱品目、出荷形態、取引形態等にどのような変化が起こっているのか、実態面から
お話いただければと思います。

 まず、広島の舛井社長からお話しいただけますでしょうか。 


移転を終えて取扱量増に取り組む広島市場

難しい輸入牛肉の取り扱い

 〔舛井広島食肉市場且ミ長〕

 広島市場は、もう10年以上も前から市場移転を手がけてきました。市場移転をし
たときは一挙に大改革を行うという前提できましたから、東京あるいは大阪と同じ
ように、旧市場時代に一部残っていた自家と畜業者から営業権を買い取りました。

 移転して1年経ったところですが、170億円もかけてつくった市場ですから、今
後どうやって有効に使うか、あるいは取引拡大をどう取り組むかということで、知
恵を絞っているところです。

 輸入牛肉がどんどん入れば、相対的に、市場の取扱高が漸次減ってくる訳です。
しかし、こちらもただ指をくわえて待っているというわけにはいきません。

 今はあらゆる角度から取引拡大をしなきゃいかん時期だと考えています。枝肉を
競る、あるいは品揃えするといっても限界があるから、国内産でも部分肉をどう取
り入れていくか、あるいは輸入牛肉をどう取り扱うかということが重要となってき
ます。

 単に市場へ来れば枝肉や内臓が分けてもらえるからというメリットだけで、お客
さんを引っ張ってこれるという時期はもう終わったんじゃないかと思います。今は、
内臓にしてもアメリカなどから輸入することができるわけで、実際どんどん入って
きているわけです。

 しかし、市場で何でも取り扱いますよといっても、荷受会社として許される兼業
との関係もありますから、買ったらすぐお客さんのところに届けますよ、なんてい
うことまではできないでしょう。それに、膨大な人件費も必要となるでしょうから。

 輸入牛肉の取り組みも、軽率にやったら大変なことになると考えています。見込
みで在庫を持ってしまうと、カートン1箱わずかの手数料で動いていますから、結
構赤字が出てしまいます。大体、このようなことで苦労しているわけです。

 なお、取扱高の拡大の方向の一つとして、部分肉の上場、さらには自社や子会社
にてカット商品を製造し、セリ又は相対による販売に向けて努力していく必要性を
感じているところです。


是非必要な従業員の待遇改善

 〔舛井〕

 それともう一つは、荷受会社の経営もさることながら、それに携わっている人の
給料というか、地位というものは、我々の時代になんとかしないとだめじゃないか
という気持ちを強く持っているんです。荷受が健全な経営だとかといっても、それ
に携わっている人の待遇はいったいどうなのか。

 全国の市場で新卒を5名なり10名なり毎年採用しているところはほとんどないで
しょう。「市場流通の一端を担って」と偉そうなことを言っても、自分のところの
会社に新卒が少人数でもいいから毎年採用するような手立てができているのかとい
うと必ずしもそうではありません。

 関係する内臓会社の職員に、「この食肉市場のなかで、あなた方が一番きつい仕
事をしている」、だから「あなた方の給料を一番多くする」「会社の儲けなんかど
うでもいい、だから頑張ってくれ」と言っています。すると、やっぱり動きが変わ
ります。事実、どんどんレベルを上げています。

 このようにしないと、プロパーの優秀な人材は育たないと思うんです。


高級品を取り扱う神戸市場

 〔小林〕

 市場会社の在り方とか、職員の人材確保にいろいろご苦労されているというお話
でございました。神戸市場は、特に高級物を扱っているという特徴がありますが、
森社長、いかがですか。 

輸入牛肉はこれから

 〔森神戸中央畜産荷受且ミ長〕

 舛井さんがおっしゃることは、各市場に共通するかと思います。

 神戸市場は高級品を扱う量が多い特殊な市場ということから、自由化以前も輸入
牛肉の取扱いはそれほど多くはありませんでした。逆に、国産牛肉中心に努力して
きたことが、今になってみれば、いくぶん楽だったかなと思っています。(笑)

 現在、輸入牛肉は、日本食肉市場卸売協会が行う事業の中で取扱っていますが、
当社としてももっと積極的に対応しようということで、特殊な商品として、オース
トラリアのサウスバーネット社の300日肥育牛肉を扱っています。商品的に割とい
いものですから、評価をずいぶん受けまして、まだ初歩の段階ですが、月々1トン、
2トン程度増量されているところです。


青年食肉部会を中心に販路拡大

 〔森〕

 神戸には、加工メーカー関係の販売店の集まりで青年食肉部会というものがあり
ます。

 どうしても今の若い世代は、楽して利益のあがる方法を取りたがるものです。し
かし、あの店に行ったら、どこそこのハムばかり並んでるというのでは消費者を引
き付けることはできません。もういっぺん原点に戻った営業体系ということで、や
はり枝肉を取扱い、自分で商品化してみることについて見直そうと常々若い人達に
言っています。そうすれば、消費者がその店舗を評価する一つの基準となり、だい
ぶ違ってくるんじゃないかなと思います。

 このようにして、各店舗で現在70名ほどいる青年会の皆さんに枝肉処理販売の必
要性や効用を力説し、市場の方に顔を向けてくれるようにしています。しかし、な
かなか今の若い人達は暇さえあれば棒振りにでも行こうかというグループが多うご
ざいます。(笑)

 そこで、私は2カ月に一回ずつ、私がオーナーをしている新生公司の主催で、青
年会を集めてゴルフをやり、ゴルフのあとの時間にそういう話をすることにしてい
ます。こういう時を利用しながら、荷受会社の社長としての対応ということで、市
場の方を向いてくれるように機会あるごとに努力しています。

 お陰さまで、共励会、また研究会というときには、青年会のメンバーがたくさん
参加してくれます。一時はほんとうにゼロという時代もありましたが、10人、15人
と集まってくれるということは、市場の活性化のための一つの前進ではなかろうか
と思っています。今では、市場の販路拡張に一番頑張っています。



牛肉輸入自由化を乗り切った岐阜市場

 〔小林〕

 岐阜の松岡専務のところは特に地方市場という特色がありますが、その点での取
引きの変化等についてお話いただければと思います。

適切だった輸入自由化までの3年間の準備期間

 〔松岡滑阜県畜産公社専務〕

 まず、日米、日豪牛肉交渉において、輸入自由化の実施を3年後にした点、私は
これは非常にいい処置であったということを申し上げます。というのは、我々は、
3年の間に自由化に備えて、生産者や買参人に対していろいろ機会あるごとに集ま
っていただき話し合いをしました。

 そこで私が主張したのは、一番ダメージを受けるのは豚ではないかという話をし
たら、逆目で、自由化後は、豚はどちらかというとまずまずで、乳おすが一番打撃
を被っているということです。自由化までの期間中にいろいろPRしたため、生産
県である半面、近郊に名古屋市という大消費地を控えていることもあり、自由化に
なっても、影響はまったくありません。むしろここのところ、岐阜県は銘柄牛のい
い品物が出るのですが、それがものすごく安定的に出荷されるようになりまして、
市場の役目を果たすことができ、非常に喜んでいる次第です。

2世を中心に買参人も増加

 〔松岡〕

 買参人もここへきて、非常に安定して増えてきています。

 今までの買参人は、生産地や生体市場が身近かにあったので、生体市場へ足を運
んだものです。しかし、跡継ぎである2世は生体市場よりも目でみてきちんとわか
る食肉市場の方へどんどん来て、これは規格A5だとかA4だと納得して購入して
行くわけです。最近、若手の2世が非常に増えてきたということを私は非常に喜ん
でいる次第です。

 輸入牛肉については、今まで事業団が上場していたものがストップしました。な
んとかして必要量を確保してくれとの買参人の要望が強いので、スポット買いによ
る予約相対取引きを少しずつ増やしています。私としては、今後スポット買いだけ
でなく、商社を通じたり、あるいは卸を通じて購入したものを相対販売することを
考えています。

頭の痛いカット工場の建設

 〔松岡〕

 今一番頭の痛いことは、当地食肉三水会からの要望もあり、市場内でカット工場
を建設するように言われていることです。三水会は、食肉小売店で構成される組織
ですが、市場の枝肉を購入しても跡継ぎがいないし、職人もいないから、枝肉を脱
骨してきちんと真空パックまで市場でやってくれというのです。

 もちろん、そうすれば市場に来てくれるということは考えておりましたが、一挙
に真空パックまでといってもなかなか難しい問題です。なんとかして、カット工場
をつくろうとは思っていますが、自由化後、順調にきている中でこれが今一番頭の
痛い種です。

各市場の注目を集める東京市場

 〔小林〕

 東京市場は大阪市場と並び各市場からいろいろ注目されていますが、海老沢専務
の方から、最近の特徴的な動きについて、お話いただきたいと思います。

否めない市場機能の低下

 〔海老沢東京食肉市場叶齧ア〕

 まず、市場流通の変化ということですが、一言でいえば、市場機能というのは相
対的に低下したということで、これはもう否めない事実です。

 今まで、市場は事業団による輸入牛肉の一元的な管理、それに基づく市場流通に
おける価格形成の機能を持っていたわけです。そういうありがたいものがあった関
係で、実際は市場外流通は相当の変化を遂げておりながら、市場流通の中身は全く
機能的にも変わらずに、市場法あるいは開設者の条令等に守られ、市場関係者の危
機感も薄かったということでしょうね。それが自由化になって相対的に機能が低下
したというのが第1点です。

 それに伴う東京市場における変化ですが、いわゆる地方で部分肉という規格商品
化できるような枝肉が市場上場に少なくなっているということです。それは逆にい
うと、和牛の非常に上質のもの、A5とかA4とか、要するに生産者が多くの仲買
いや買参人のところで個体評価してほしいという、いうなれば一物一価的な商品に
対する市場流通の期待は従来以上に高まりました。

拡大する市場外流通

 〔海老沢〕

 また、いわゆる地方では大量に売却できないようなもの、あるいはC1のように
東京へ持っていけば何らかのお金になるようなもの、そういうものがたくさん集ま
るという形態が従来以上に顕著だと思います。いうなれば、乳おすでB3とかB2
とか、枝肉重量、肉回り、品質等について規格商品になり得るようなものは産地カ
ットによって流れる。裏腹に言えば、市場外流通が変化しているけれども、当市場
はそれに対応した機能形態に遅れをとっているということになるんでしょうね。

情報源としての食肉市場への期待

 〔海老沢〕

 しかしながら、市場機能は低下したとはいうものの、価格の動向なり、あるいは
品目による市況、気配などの情報源としての市場に対する期待というものは依然と
して従来と変わっていないということです。

 具体的にいうと、東京市場では、事業団のいわゆる輸入牛肉の上場物品がなくな
った以降も、月2回輸入牛肉のセリをやっています。ところが、セリによる成約ト
ン数は非常に少ないんですが、毎回何百トンという相当量の上場依頼があります。
5月の場合は連休も多いことだし、セリは1回だけでやめたいといったら、出荷者
と買参人から逆に、是非やってくれという。要するに、そこでどういう会社が、ど
ういうものを、どういう指し値で出してくるか、相場の動向を見たいわけです。

 また、セリで成立しなくても、そのあと、「実はあれ、ほしいんだ」ということ
で、セリが終わったあとに相対で持っていくというケースが意外とあるんです。
(笑) 要するに自分の情報を他に知らせたくない、あるいは他の情報は自ら得た
いという期待が意外と根強いと思うのです。

 5月の場合はセリは1回と決めたものですから、期日指定の予約相対販売を実施
することにしました。すなわち、一定期間を経て現物の受け渡しを行う契約のもと
に予約相対販売を試みたわけです。受付時間は何時から何時までと決めて、各社か
ら来た明細を一覧表にしてユーザーに流します。次の日の何時から何時までの間に
買いたい方は電話連絡してくれということで、公開セリではなくて、売り手・買い
手の情報をファックス・電話による情報取引、そういうことを1回やってみようと
いうことにしました。結果はきちっと公表して下さいよとの念押しもあったわけで
す。(笑)

中止した部分肉の委託上場

 〔海老沢〕

 牛、豚の部分肉については、1年前から委託上場を全部やめました。

 部分肉は、枝肉と異なりまして、枝肉で格付けされ、そこで単価が決まれば、部
分肉をつくるための原材料のコストはそこからもう既に発生します。ですから、枝
肉単価にカット加工料、運送賃、包装費がプラスされて、部分肉の原価は出てくる
はずです。

 このため、いくらになるかわからないものを委託物品として上場して下さいとい
うのはどだい無理だと思いまして、部分肉はすべて買付集荷制にしました。従来の
委託上場販売から買取り1本にしてしまったので、どのような反応が出るかと思っ
ていたんですが、牛も豚も量的には非常に伸びているというのが実態です。

 以上が、東京市場を中心とした、牛肉自由化後の主たる変化かなという感じがし
ます。

 〔小林〕

 どうも、ありがとうございました。

(次号に続く)


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